第十七章 即身仏
寺院は町の一番奥に位置し、山門を潜ると、一本の石畳の道が伸びていた。その更に奥に、荘厳な瓦屋根の仏堂が在る。観光客はまばらで、俺たちの存在に気が付いた、掃き掃除をしていた僧侶が、慌ててやって来た。
「真仁様の即身仏を見にいらしたのですね」
「そうだ」
「お一方20オーロいただいております」
豚の僧侶は手を出す。それにオリヴィエが五人分、100オーロと、チップを少し渡すと、チップに慣れていないのか、驚かせてしまった。
「こ、こんなにいりません、最低限の維持費で十分です」
「まぁ、固い事を仰るな」
オリヴィエは若い僧侶の肩を抱き、言った。
「はぁ」彼は困ったように苦笑いすると、「こちらです」
先頭に立って歩き出した。
石畳を進み、仏堂への階を上る。みしり、と床が軋んだ。歴史を感じさせるなぁ。
「こちらになります。良いですね?」
引き戸を開くと、閉じられた仏壇がある。僧侶は一度手を合わせ、仏壇の扉を開いた。皆、唾を飲みこむのがわかる。果たしてそこに安置されていたモノは──法衣に身を包み、背中を丸めている即身仏だった。顔は俯いている為に見ることはできなかったが、数珠を持った指は干からびているが力強い。
神々しい。
死体を見て、初めて抱いた感覚だ。思わず、手を合わせてしまう。他の皆も、手を合わせる事はしないでも、圧倒されている様子で、アイリスは思わず座り込んでしまった程だった。
「真仁様は約二百年前に、即身仏になられたと伺っております」
俺の傍らで僧侶が話す。
「素晴らしいわ……」
オリヴィエに抱き起こされながら、アイリスは言った。
「凄かったねぇ」と、寺院を後にした時、フランシスが呟いた。確かに凄かった。「そう言えばキミは手を合わせていたけど、何かのおまじない?」
「天に届くまじないさ」
俺は答える。
「前世の習慣ってやつ?」
「まぁ、そんな所だ」
「ふぅん」フランシスは息を吐く。「クォーツ国だと指を絡めるんだよね。猫だとさ、上手く絡められないから教会じゃ居づらかったなぁって」
それは犬や羊も同じじゃないか? そう言いかけた口を結ぶ。彼が哀しげな横顔をしていたからだ。
町は宵闇が近付き、海に沈む太陽の最後の輝きが、町を包み込む。マジックアワーと言うやつだ。





