第百六十七章 ポワシャオとの邂逅
「ポワシャオ!?」
船の上からアイリスが叫ぶ。すると、馬車の馬の手綱を持って歩いていたハチワレの猫が振り向いた。彼も、見知った顔だ。
「アイリス様?」
アイリスは夢中でタラップを下り、馬車へと近づいた。彼は走ってくるアイリスに、馬車の扉を開け、
「お嬢、アイリス様です!」
と、言った。
「え、本当?」
ゆっくりとした口調が聞こえ、馬車の中からポワシャオがあらわれる。二人は再会の抱擁を交わした。
「久しぶり、元気だった?」
「えぇ、とても。お手紙も船の上で読んだわ」
「結婚おめでとう」
「ありがとう」
額を合わせ、二人の乙女は囁き合う。友情は素晴らしいものだ。
「よう、久しぶりだな、コテツ」
俺はポワシャオの傍らにいたハチワレに声をかける。
「おう、シャルル」
コテツは顔を上げた。
「とうとう来てしまったんだな」
俺は言う。
「まぁな。でも、ハダ王子と幸せならば俺は良いんだ」
「そうか……」
と、俺が呟くと、
「俺の事は気にするな! だが、王子がお嬢に害を加えたら、その時は処刑覚悟でハダ王子を殺すがな」
いや、怖い怖い。ローファ国からの従者、南の大陸の王子を殺害──新聞にそんな記事があったら、恐らくコテツの事なのだろう。
「そう言えば、結婚式はいつなんだ?」
俺は問う。
「明後日の昼過ぎだ。まぁ、明日にはロッコ国に着かないといけないけどな」と、コテツは肩を竦めた。「実質自由にできるのは今日一日だけだ」
「そうか、大変だな」
「まあな。お嬢はまだ、結婚と言う事がどう言う事なのかあまり理解してないがな」
ポワシャオを見、コテツが言った。そうか。実質独身最後の日と言う事か。
「大事に過ごせよ」
「わかってるさ」
「おーい、シャルル、コテツ! 行くぞ」
オリヴィエの声が聞こえる。おどろいて振り向くとアイリスとポワシャオも既に向こうに合流し、俺たちだけが残されていたようなものだった。
「今行く!」
俺は声を張り上げる。
そうして、馬車を引くコテツと共に、港の雑踏の中、彼らの元へ急いだ。
「コテツ、今夜の宿はどうするのだ?」
道すがら、オリヴィエは尋ねた。ちなみに、アイリスとポワシャオは共に馬車に乗っている。
「それが悩みなんだ。このままロッコ国に入っても良いし、時間があるからこの港町で観光するものがあれば一晩泊まっても良い」
「ここからロッコ国までどのくらいかかるのか……それ次第だな」
知っているのか? と、オリヴィエはコテツを見た。
「いや、知らん」
知らんのかい。オリヴィエの心の声を聞いた気がした。
「まずロッコ国に行こう。話はそれからだ」
彼はそう言って、馬にまたがった。
「あ、あぁ」
上手く話が飲み込めていないように、コテツは続けた。
「今日泊まって、翌日に出発して到着したのが夕方でした、じゃあ始まらないだろう」
御者席に座ったコテツに、俺は言った。
「そうか……」
「理解できたか?」
点々と草の群れる砂地に、馬車と馬は入って行く。
「あ、そうか! そうだな」しばらく考えていたようだったが、やがて納得したように、コテツは言葉を紡いだ。「お嬢! とりあえず先にロッコ国へ行きましょう。いつ着くかわからないので」
「わかったわ、コテツ。ついていきます」
馬車の中から声が聞こえた。こうして、ロッコ国へと向けて、馬車と馬は走り出した。
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