第百五十四章 洗濯の後
「うわー、圧巻だね」
風になびく洗濯物を見上げ、フランシスが声を上げた。青い空に、帆の代わりのように、様々な色の服が干されている姿は、ある意味感動する。
既に神下月の肌寒い朝、洗濯をしたかいがあった。
「疲れた……」
と、マウロが膝に手を乗せ、肩を上下させる。
「お疲れさん」
俺は言った。マウロのヴェストは、中々血が落ちず、彼が苦労していたのを、俺は知っている。
「皆様お疲れ様でございます。珈琲でもお飲みになられますか?」
傍で見ていた船長が言った。
「あぁ、そうだな」
オリヴィエが答えると、
「既にアイリス様からは注文を受けております。銃士の皆様はいかがなされますか?」
「俺は珈琲かな」
オリヴィエは言う。
「俺も珈琲。砂糖三つに、それに氷を入れてくれ」
マウロさん通常運転ですね。
「俺は──」と、俺が言いかけると、なにやら視線を感じる。アイスラテにしろ、と、フランシスからそんなテレパシーが送られて来たようだ。「アイスラテ一つ」
「ボクもそれで!」
喜んだように、フランシスは声を張り上げた。
「わかりました。それでは皆様船内にお戻りください。すぐにお持ちいたします」
と、頭を下げ、船長は厨房へと入っていった。
「戻るか」
「おう!」
オリヴィエの合図に、皆声を合わせ、行進するようにリビングへの扉を開けた。
「お帰りなさい」
と、ソファに埋まっていたアイリスが言った。
「洗濯終わったよー」
「お疲れ様」
フランシスの言葉に、アイリスは答えた。
「船長が飲み物を聞きに来てさ、姫様なにを頼んだんだ?」
軽く汗を拭い、フランシスは問うた。
「アイスラテかしら」
やっぱり汗をかいたあとはねぇ、と、アイリスは続けた。
「ボクもシャルルもアイスラテだよ! 一緒だね!」
フランシスは嬉しげだ。
まさか神下月になってまで氷の入った飲み物を飲むとは思わなかった。それにしても本当にアイスラテがお好きですね、お二人とも。
「皆様、お待たせいたしました」
扉を開き、船長があらわれる。
「早く座れ!」
オリヴィエが命令すると、皆慌てたようにソファへと腰かけた。勿論俺の隣はフランシスだ。すぐに腕を絡めて来るのを止めて欲しい。痛いです。
「どうぞ、昼食まではまだお時間がございますので、ごゆっくりお飲みください」
それぞれの前にティーカップやグラスを置き、船長は言う。
「おかわりは頼んじゃいけないの?」
そう聞くフランシスに、
「どうぞ、お好きなものをお頼みください」
と、船長は頬笑んだ。
「ありがとう」
代わりに言ったのはアイリスだった。あなたも同じ気持ちだったのですか。
「いっただきまーす!」
と、フランシスは声を張り上げる。
「いただきます」
俺はグラスを空いている片手で持ち、縁へ口を触れた。流れこんでくるミルクが濃いめのアイスラテは美味しいものだ。
オリヴィエの方を見ると、やはり今日の新聞を読みながら、ゆっくりと珈琲を飲んでいる。
「アイスも旨ぇ!」
甘党のマウロが叫んだ。
「隊長、今日の新聞の一番のネタはなんだ?」
不意に思い立ってオリヴィエに聞いてみる。
「ん? 今夜彗星が見られると言う事かな」
なんだって!? 俺は立ち上がりそうになる。元天文学部部長としては見ない訳にいかない。
「彗星に興味があるのか?」
俺の態度に、素早くオリヴィエが尋ねてくる。目ざといですね、隊長。
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