第百二十五章 アイスラテの幸せ
朝食はオムレツにサラダ、そうしてパンが出た。バターの効いたオムレツにはアメリケーヌソースがかけられ、食べれば海老の香りが口内に広がる。幸せだ。
サラダはオリーブオイルと塩のみの味付けで、オムレツの個性を消さないように、密やかに主張していた。
「美味しいわ」
皿に残ったアメリケーヌソースを千切ったパンで掬い上げ、アイリスは言った。船長と共にあらわれたコック長は嬉しそうだ。
「うん、美味しい」
フランシスも上機嫌だ。
「食後はなにをお飲みになられますか?」
と、コック長は問いかけた。
「なにがあるんだ?」
オリヴィエが聞くと、
「珈琲と紅茶、オレンジジュースとミルクがあります」
「カフェラテ……はできないかしら?」
コック長の答えに、アイリスがおずおずと尋ねる。
「できますよ」
と、コック長は微笑した。
「じゃあボクもカフェラテー!」
フランシスが声を上げた。
「俺は普通の珈琲だな。あ、砂糖は三つほど付けてくれ」
その答えに、俺は目を見開いた。マウロさん甘党だったんですね。
「俺も珈琲。なにも付けなくてかまわん」
オリヴィエが言った。
「シャルルは?」
と、アイリスがこちらを向くので、
「じゃあ、カフェラテで」
俺は答えた。
「わかりました」
そう言って、コック長と船長はリビングを後にした。
「無理を言ってしまったかしら?」
と、アイリスが首を傾げる。
「大丈夫でしょう。朝飲みましたから」
俺は言った。
「え、飲んだの!?」
すかさずフランシスが、声を張り上げる。
「あぁ、起きてこなかったお前が悪い」
美味しかったぞ? と、俺は腕を組んだ。
「シャルルは猫舌だから飲むのに時間がかかったのよね」
アイリスは言った。途端、フランシスがにやりと笑う。う、弱点を知られてしまった。
しかし、そうやって笑うこいつも猫だ。同じ猫舌なのだ。
その点、新聞を読むと言う体で珈琲を冷ましていたオリヴィエは、素晴らしいアイデアを見出だしたのだろう。
さすが隊長。だてに長生きしていない。
「お待たせいたしました」
やがて、人数分のグラスを乗せた盆を持った船長があらわれた。
ん? グラス?
「銃士の方々は猫舌だろうと思いまして、氷を入れさせていただきました。アイリス様の分も、ついでに氷が入ったグラスでご用意させていただきます」
ルチェ諸島で作られたのだろう切り子のグラスに透けるカフェラテは、ミルクの白と珈琲の茶色が合わさって綺麗だ。
「アイスラテなんて久しぶりだ……」
いや、前世ぶりだ、と、俺は聞こえぬほどの声で呟いた。
「マドラーでかき混ぜてお飲みください」と、船長はそれぞれにマドラーを配る。そうしてマウロの前まで来ると、「お砂糖を混ぜた珈琲に氷を入れてあります。ご安心ください」
と、言った。
「おう、ありがとう」
マウロは喜んで冷えた珈琲を口に運んだ。良い飲みっぷりだ。一気に半分まで減ってしまった。
「いかがですか?」
船長が聞くと、
「見てわかるだろ? くどくなくて美味しいよ」
マウロは答えた。
「ありがとうございます! 今後の参考にいたします」
船長は喜んで外へ出ていった。それは、これからも頼めばアイスの珈琲が出てくると言う事だろう。腹の調子に注意して飲んでいこう。
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