I
空に属する人々がいる。
比喩ではなく、そういう種類の人間がある。人種や文化に関係なく、世界中のどこにでも生まれる。そういう種族として生まれる。生物学的に分類されるようなものではないから、血族の中で一人だけがそうだということがよくある。身体的特徴があるわけでもなく、見た目は他の人々と変わりはない。大抵は、本人たちに自覚もない。
ではどうしてそうと分かるかというと、十五になると変な生き物がそうと告げに来るからだ。そこで初めて自分はそういう種族だったのかと気付く。自らの生れ付きやそれまでの人間付き合いが空に属する人々の特質であると知り、成る程と納得し安心する。ただ、その変な生き物が目の前から消えてしまうと、それのことも、それが話したことも忘れてしまうので、自覚は長続きしない。しかも、変な生き物が目の前にいるのは、たった一日のことなので、自覚している期間は本当に短い。後はただ飄々と他の人々の狭間を漂いながら生きている。
私がそういう人々の存在を知っている理由は、私自身がその種族の人間だからだ。実のところ、今まですっかり忘れていた。でも、今、じっと空を眺めていたら、思い掛けずあの変な生き物のことを思い出した。一度忘れてしまえば、その生き物の存在を思い出すことは無いのが普通だそうだが、どうやら私は例外だったようだ。
そういえば、あの生き物が現れたのも、私が十七の時だった。他の空人たちよりも、二年も遅い。が、例外があるのは良いことだ。そのおかげで、こうして私が空の種族であることを思い出した。今、偶々陥っていた突発性の不安から解放された。良かった。