7.婚活パーティー(山田舞)
いつもは妄想世界の住人なのだけれど、今日は真面目に婚活の日。一人参加です。
少し前まで友達と参加していたけど、それは辞めた。
自分はこの人少しいいかも、って思っていた人とカプリングして、お茶を飲みに行くことがあったりもしたのだけど、一緒に行った友達がカプリングしていないと、友達に悪い気がするのです。
一緒に行った友達も、私も同時にカプリングが成功する、ということは稀なわけで……これって、お互い足を引っ張り合ってない? という結論に婚活友達と至ってしまったのです。
お互い、場慣れして、一人で参加しても不安では無くなったということなのかも知れないけれど、いや、婚活パーティーに場慣れって……いや、事実そうなのかも知れない。
とくにかくそういうわけで、婚活パーティーには一人で行くようになったのだけど、これがなかなか難しい。
根本の原因は、自分でも分かっている。私は、夏井先輩が好きなのだ。片思いなのだ。だから、婚活パーティーで知り合った人とデートしていても、相手に悪いかなと思ってしまい、いつも映画止まりで終わってしまう。
いつの間にか疎遠になる。はっきりしない私の態度に問題があるのだろう。
でも、夏井先輩に告白する勇気もないわけで……。
完全な負のスパイラル状態っていうのは自分では分かっているのだけれど、もしかしたら良い人がって思うし、婚活とかをしないわけにも行かない。年齢的に……。
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今日は、女性15人と男性15人の婚活。
まずは、自分のプロフィールをカードに書いていくのだけど、もう手慣れたものですね。人間、何度もやれば、最初は何て書けばよいのやら……なんて思っていたのが嘘のよう。
後は、一対一で三分間お話をする。基本的に女性は座っていれば、男性が移動してくれる。そして、男性が移動している間に必死にメモ! メモ!
男性のナンバーと印象と、あと……年収をメモ……。いや、お金って大事じゃん?
って、とりあえず3分間、15人の男性と順にお話しをしていきます。
十人ほど話をして、一人、前に婚活パーティーであったことのある男性がいました。どうやら私の事を相手も覚えているようで、お互い苦笑い。
「お互い頑張りましょうね」って、奇妙な友情が芽生えてしまいそうだよ!
そろそろこの婚活を企画運営している会社を変えた方が良いのだろうか。それか、開催場所を変えるというのも手かも知れないと本気で思う。新宿とか池袋とかでも開催されているしね。
しかし、このまま行くと、男性全員と顔見知りになるのだろうか。
「最近来てなかったみたいだけど、元気だった?」とか、そんな会話に婚活でなったら嫌すぎる。
って、十三人目の男性。
「よろしく」って、ドサッと椅子に座る。えっ、態度悪い。
「よろしくお願いします」
「……」
「……」
「何か話したら?」
え? 私から? えっと……。俺様系? いまどき流行らないぞ?
「プロフィールカードを見せてもいいですか?」
「……」
ってふつう、片手で渡すかな? 礼儀知らず?
って、私のプロフィールカードは見ないんだ……。興味なしかよ……。
何か凄い嫌な感じの人……運営! こいつ問題ある人ですよ!
「で、何か話したら?」
だから、私が?
「って、年収高いですね」と私は言う。
彼が書いている年収。
『1億 百万円』
「百万円」という単位は元々プロフィールに印字されている。
だけど、「1億 百万円」って幾らだよ?
年収百億円ということだろうか。いや、嘘でしょ。どう考えても私よりも二、三才年下だ。二十代後半だろうか。って、一億円でもウソだろって感じ。ネタか?
「まぁね」
まぁね、って言われましても。嘘でしょっていうわけにもいかないし。せめて、ちゃんと書けよ……。
顔は悪くない。カッコいい。でも少しキツイ印象の顔だ。ぱっちり二重だからだろうか。私は、青井先輩の方が好みの顔かなぁ。
「あと二分、時間残ってるけど?」
えっと? まだあと二分もあるんだ……。って、やっぱり私が話のネタを探すんだ……。でも、プロフィールカードが適当過ぎて、ネタが見つからない。
趣味:『なし』って、酷過ぎない? せめて『読書』とかでも良いから書けよ!
「他の方とはどんな話をしたのですか?」
「別に……」
この人、会話する気ない〜。あと一分三十秒残ってる。
「ここへは何をしにきたのですか?」
「嫁を探しに」
へぇ〜。一応、婚活しに来ているという自覚はあったのか。たしかに、ビジネススーツというよりは、洒落たスーツだね。スーツの肩幅がぴったり合っているから、オーダーメイドかな。
うん、年収が高いのは嘘ではないかも知れない。まぁ、年収一億は流石に盛り過ぎだろうけどね。
「直ぐに見つかると思いますよ」
プロフィールに書いてある年収が本当だったらだけどね。
「だろうな」
ものすっごい自信。もうやだ、この人。でも、あと1分も時間が残っているよ。
「頑張ってくださいね」
「もう、面倒だからお前でいいや」
「は?」
「なにを間抜けな面をしている?」
いや、私は怒っているのだけど? さすがにちょっと腹が立つ。芸風かも知れないけど、度が過ぎる。何様、俺様、人様々だけど、礼儀を欠いている人はね。
「失礼な人だと思っているだけです」
「お前こそ、俺を誰だと思っている?」
「存じ上げません。自己紹介もしてないですよね?」
「プロフィール・カードって言うのか? それを見せただろ?」
……。私は、彼のプロフィールに目を落とす。
「十文字 葵 さんですか。山田 舞です」
「どこにでもありそうな名前だな。まぁ、十文字 舞。うん、悪くないな」
おい。私の苗字を勝手に変えるな。
「あの? 私の苗字は山田なので」
「いや、結婚したら、苗字変わるだろ? それに、例えばお前の名前が、ヤマダ カオルだったとして、それで、『脇』という苗字の男と結婚するか?」
えっと……ワキ カオル……。う〜〜ん。
「いえ、私は、マイという名前なので……」
「じゃあ、蔓木野という苗字の男と結婚するのか?」
「つるぎの? 剣の舞! ハチャトゥリアンですか?」
「なに訳の分からないこと言っている?」
「す、すみません……」
ちょっと私が恥ずかしい思いをしたところで、この男との三分間は終了した。そして、今回、私のカプリングは成立しなかった……。もちろん、あの失礼男の名前など書いてはいない。
気分最悪だわ……。丸損した気分。
もう、この企画会社の婚活は利用しないようにしようと固く決意をして私は会場となっているビルを後にしたのだった。