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6.嫌な予感がする夢物語(アナスタシア)

「アナスタシア様! お誕生日おめでとうございます」


 今日は、私こと、アナスタシアの誕生日だ。私はこの国の大貴族の家柄。そして、当然、誕生日のパーティーを開くとなれば、王都から多くの人を招く。特に、今日のパーティーには国王夫妻も参加される。


 なぜなら、私が誕生日を迎えたことにより、ついに私は結婚ができる年齢となるからだ。


 そして、婚約者であったウィンツ様と結ばれる日だ。

 私は、パーティー会場として使用している屋敷の舞踏会場の入口に立ち、来てくれた参列者を笑顔で迎える。

 このパーティーの主催者として。淑女として。そして、明日よりはウィンツ様の妻として……。 


 花々で飾られた豪華な会場。真新しいテーブルクロスの上には、贅を尽くした料理が並べられている。果物は国中から選りすぐりのものを選んだ。パーティー会場の右奥では、宮廷にも劣らぬ技術を持った楽士たちが演奏をしている。


 左奥には、この日のために私が長い年月をかけて用意した嫁入り道具が取りそろえられている。


 衣装タンスなどには細かい彫刻が施してある。それの彫刻は、私の家の家紋である鳳凰と、そしてウィンツ様の家であるペガサスの家紋が並んでいる。それはまるで蒼穹を雌雄で協力して飛ぶ比翼の鳥のよう。


 鳳凰とペガサスが空中で戯れている意匠の彫刻だ。

 その意匠の意味は、私とウィンツ様が末永く、愛を紡いでいくという意味だけで無く、家と家の繋がりがより強固になることも示している。

 私は、このパーティーが終われば、この準備した嫁入り道具と共に、ウィンツ様のお屋敷で生活することになります。

 お父様、お母様……。いままで私を育てて下さってありがとうございます。

 結婚式で花嫁衣装をお母様に見せたいというはやる気持ちが私にはありますが、今日は私がこのパーティーをしっかりと取り仕切り、そして、貴族の淑女として立派に育ったということを周囲に認められなければなりません。

 もう少しでパーティーが始まります。

 ですが、少しだけ心配なのは、私の愛する婚約者、明日よりは私の旦那様であるウィンツ様がまだ会場に来ていないということです。


 慣例で言えば、まっさきに会場入りをしているはずなのですが……そして、『素晴らしい人を嫁に貰うな。お前は国一番の幸せ者だ!』なんていう言葉を、皆様から言われているはずなのですが……。

 ウィンツ様は準備に手間取っているのでしょうか。もしかしたら、緊張をされているのかも知れません。


 大丈夫でしょうか。国王様がパーティーの開始を宣言した後、真っ先に私とウィンツ様でダンスを踊らねばなりません。

 まぁ、私のウィンツ様なら何も問題はありませんね。 


 私は、笑顔で、お客様達を迎えます。

 あっ! やっとウィンツ様もいらっしゃった。って、ウィンツ様の隣にいるのは、あの平民のサリーではないですか! なぜあの女がここに? 平民が参加して良いようなパーティーではございません。

 それに、あの女には招待状を送ってなどいません。

 どうやって私の屋敷の中へと忍び込んだのでしょうか。私の婚約者であるウィンツ様に近づくだけでは飽き足らず、私の屋敷にまでまるでドブネズミのように忍び込むなんて、平民の下品さを体現しているような女ですわ……。

 きっと、あの女の目当ては、会場に用意した素晴らしい料理の数々かしら。まったく浅ましい女。


 料理はタップリと用意してはありますが、あの平民。まるで作物を食い荒らすイナゴのように料理を貪り食べるのではないかしら。


 それは、せっかくのパーティーの品格が損なわれてしまいます。

 あの女は、追い出しましょう。

「ウィンツ様、お待ちしておりました。もうすぐパーティーは始まりますわ」

 本当は、来るのが遅いと小言の一つでも言いたいのですが、私は夫を常に立てる貞淑な妻になるの。そんなことを公の場で言って、旦那様の評判を下げるようなことなど致しませんわ。

「それにサリー。良く来てくれたわ! と言いたいのだけれど、招待状はお持ちかしら?」

 あれ?

 ウィンツ様は、私に対して抱擁することもなく、私と会話することもなく、会場の入口に立つ私を無視して、中へと入っていかれます。


 それに、なぜ、ウィンツ様は、サリーと手を繋いでいるのでしょうか?

「ウィンツ様?」

 状況が飲み込めず、唖然としている私を無視して、ウィンツ様とサリーは会場の真ん中へと進んでいきます。

 そして、会場の真ん中。そこでウィンツ様は立ち止まります。


「国王陛下! パーティーが始まる前に、将来のこの国を支えるための人材を育成するための王立学園で、陰湿なイジメをしている者がおります! この場を借りて、その者の罪を暴きたいと考えておりますが、よろしいでしょうか?」


 堂々と王様に向かってウィンツ様は言います。ですが……そんな俗事をこの祝いの席でするのは……。私の婚約者様は一体なにを考えているのでしょうか。

 止めるべきでしょうか……。


「今日は祝いの席である。日を改めよ。何よりそちの結婚の日ではないか。この国を思う忠義だけ受け取っておこう。さぁ、美しきそちの花嫁が待っているぞ。国中の民からの祝福を存分に受けよ」


 流石は名君と歌われる王様。場を弁えていらっしゃるわ。それに、わたしのことを美しき花嫁だなんて——国王様ったら!


「と言いたいところではあるが、良かろう。次の世代が育つべき学園で、陰湿なイジメとな? 先々代より教育に我が国はもっとも力を入れてきたと言っても過言ではない。ウィンツよ、申してみよ」


 え? 王様? 私のパーティーは? 急にパーティーの流れが変わりましたわね。

 しかし、王様が許可をお出しになってのですから、ウィンツ様をお止めすることなどできません。


「感謝致します。では、申し上げます。学園で陰湿なイジメをしている主犯がこの場におります。それは、あの女です!!」


 ウィンツ様は、そしてそのイジメの主犯を指差しています。


 その指先の方向は……え? もしかして私? え? ウィンツ様?


 そして、婚約者の私を「あの女」呼ばわりだなぁんて……。


「アナスタシア! お前との婚約は破棄する!!」


 ・


 ・


 ・


「うわぁぁぁぁ」

 私は、飛び起きるように上半身を起こす。


 ここは? あ、自分の部屋か……。って、夢か……良かった……。

 金曜日の夜の妄想が原因で、夢の続きをみちゃったのね……。

 まだ、五時半じゃん……。二度寝しよう……って……夢の続きみたらどうしよう……。夢で出てきたウィンツ様って、夏井先輩とそっくりだったし……。

 私と夏井先輩が婚約している夢ならいいのだけどなぁ。だけど…………この夢の展開って……。


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