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はいらなきゃ?SF研究会  作者: 如月霞
そのサークル危険につき
8/13

片足どころか両足を

 この大学では放課後というのは特にないが、最後の講義が終わるとそれに近い感覚だ。その後、多くの人は各々のサークルに顔を出しにいく。しかし、今日はどのサークルもどこか雰囲気が違っている。

 サークル紹介から数日。新入生が本当にサークルに入るかを決める時期なのだ。そこで、どのサークルも気合を入れた歓迎会を企画しているのだ。講義棟の外に出れば、どこからかファンキーでグルービーなイマい音楽と、おいしそうな臭いがするのである。

 で。この僕が行こうとしているサークル……SF研究会は、果たしてどんな歓迎会をしてくれるのかな?


 「こんにちは!」


 元気よく部室に入る。扉が勝手に開くのにはもう慣れている。

 部屋には――。誰もいなかった。机も無いということは、可変先輩もいないのだろう。いや、一人いるか。


 「ファボ魔さん、いるんでしょ」

 「ンー、イルゾ」


 どこからか聞こえてくる電子音声にも慣れた。


 「今日は皆さん来てないんですか」

 「イヤ、サッキマデイタケド。カイダシニナ」

 「買出しですか?」


 ということは、SF研究会内部で歓迎会するってことと考えてもいいだろう。最悪のパターンで、歓迎会無しも想定していたのだが、これはなかなかに嬉しい。特に、あの部長とかは「……面倒だから無し……で」とか言いそうだし。もしくはそれに似た無気力発言。


 「……失礼な奴だな」

 「えー?だって……!?わッ!!!?」

 「……なんだよ」

 「うひゃーッ!!?????」


 後ろーーッッ!!!

 

―――――――――――――――


 「……だから悪いって」

 「いーえ、許しませんー!」


 何ゆえ、こうも後ろから突然現われたがるのだろうか。


 「まぁまぁ、美味しいもの食べて楽しくいきましょう」

 「Foo~そうそう。美味いは正義ってそれ一番」

 

 僕と部長の間に割って入った提督さんと可変先輩の持つ袋には、ネギ・豆腐・肉・しらたき・きしめん……。妖狐さんやPさんの袋にも似たようなものが入っている。

 これは鍋!?この季節に??


 「鍋、するんですか」

 「そうじゃ。あ、もしかして鍋嫌だったかの」

 「いえ、好きですよ。でも、どうして鍋なんですか?」

 「なんか、鍋食べたい……食べたくない?食べましょうよ!ってことで」


 ちゃくちゃくと、鍋会が始まろうとしていた。僕も鍋を満喫するとしよう。

 しかしだ。ここは部室。果たしてどうやって鍋をやるのか。やっぱりカセットコンロ?……というか、鍋なんてしていいの?

 このご時勢、何をするにも許可が必要だったりするのだ。部室だって公共の施設。このサークル棟で火を使うことは許可されているのだろうか?飲食はいいとして、こんな鍋会のような規模のパーティーをするわけだし、ちゃんと許可を取っているのだろうか?

 僕の心配を余所に、てきぱきと食材を出していく先輩たち。

 

 「……ファボ魔、キッチン」

 「ホイキタ」

 

 何ですかそれ。と言う前に、部室が変形し始めた。

なんのことはない。キッチンが出現したのである。僕の、いやその辺りのアパートにある狭いキッチンとは比べ物にならない。もしかすると、一般家庭のキッチンにすら勝利するだろう。

コンロが出現するだけではなく、食器棚や大型冷蔵庫、調理器具も現われる。一体何に使うかも分からない謎の器具。CMでしかみたことのない妙な形をしていて、やたら多い包丁のようなもの。その気があれば、ここで料理店を開けるだろう。

 先輩方はそれぞれ何事もなかったように、作業分担しながら料理をしていく。


 この狭い部室のどこにこんな設備を収納していたのでしょうね?空間が歪んでいるとしか考えられないんだけども、そのへんの説明はいつかされるんだろうか?

 悶々と僕が考えていると、部長が一枚の紙を渡してきた。その紙は、いわゆるサークルの名簿だ。これに名前を書くことで手続きは終わる。晴れて正式なメンバーというわけだ。


 「名簿。名前を書けばいいんですか」

 「……あぁ……いいのか?」

 「え?」

 「……それに名前を書くってことは……入部するってことだが」


 なんだ、そんなこと。


 「入りますよ。入るに決まってるじゃないですか」

 「……そうか」

 

 名簿に名前を書く。そのとき。「パァン!」という音が鳴り響く。


 「うわ!」

 「入部、オメデトサン」


 驚く僕の頭上に紙吹雪が舞う。どうやら、クス球めいた何かが割れたのだろう。大掛かりな仕掛けだ。ちょっと……いや結構うれしいかも。


 「準備、できましたよ」

 「……ん。じゃあ皆席に……」


 いつのまにやら、大きな机の上にはおいしそうな鍋が煮立っている。


 「ほら。お主にはお茶じゃ」

 「あ、ありがとうございます」


 僕は未成年なので当然飲酒はできない。先輩方のグラスには……それ自体が発光しているとしか見えない、謎の液体が注がれている。なんだこれ。

 

 「えーと、先輩がたのソレは……」

 「君が大人になったときにきっとわかりますよ」

 「今知りたいんですけどね」

 「ささ、早いところやろうぜ」

 「ちょっと……」

 「……始めるぞ」

 「もう、いいですよーだ。絶対いつか聞き出してみせますからね」

 「……はいはい。各自、グラス持って……」


 「……長い話しは食べてるときにでも。……乾杯」

 「「「「「かんぱーい!!」」」」」

 「アレ、ソウイエバ、オレノナクナイ……?」


―――――――――――――――


 ほどよく盛り上がる頃、部長が立ち上がる。

 

 「あれ、どこかに行くんですか」

 「……ちょっとコンビニに買足しにでも」


 鍋の材料は人数分あった。しかし、エネルギー消費の激しいらしい妖狐さんと可変先輩が大食い選手並のスピードで量という量を食べてしまっていた。〆のきしめんが、〆の役割を果たさなかったのである。


 「あー、じゃあ、アイス買ってきてアイス。『ヒーローぽっきんアイス』ならなお良し」

 「あ、それ我も欲しい!」

 「……じゃあ全員分買えばいいな」

 「頼んだ!夜道だし悪人に注意な」

 「……そんなにホイホイ出くわしてたまるか。」

 「でも前いたじゃないか」

 「…………」


 嫌な顔をして、部長は部室を後にした。


 部長が部屋を出た後も、先輩がたはわいわいと騒ぎあっている。可変先輩にいたってはほぼ全裸になった。妖狐さんと提督さんは隠し芸というか、ギネスレベルの芸を見せ始めていた……。

 もう一度、部員名簿に目を通す。ここに名前を連ねていることが何故だかとても安心する。この空間で、この人たちといると何故こうも安心するのだろう。実家にいるのとはまた異なって、同等かそのくらいで……。ともかく、今まで生きてきた以上に落ち着くのだ。

 もしかしたら、この人たちもそんな気持ちだったりしてね。


――――――――――――――― 


 「…………まぁ、悪人はいなかった。……いなかったが、だ」


 ザ・夜道。部長が部室を出てから数分後の、大学に近いそんな路地。コンビニまであと数分で着くというそんな道。そんな道中、部長は既に地面の陥没に巻き込まれたり、飛んできたトラックのタイヤが直撃したことで首の骨を折り死んでしまったりと、ボロボロの状態である。しかし、部長にとっては日常茶飯事のことのため、特に何をするわけでもなく、ただコンビニに向かって歩き続ける。

 そんな部長の目の前に、人影が迫る。


 「……ついに不審者か」

 「んん?その声は……」

 「……あなたは……」

 

 部長の目の前に現われた人物は、会社の帰りだろうか、スーツを着た人物であった。


 「やぁ。その格好みると相変わらずってところかな。新入生くん」

 「……部長」

 「おいおい、今は君が部長だろう?」

 「……そうですね」

 「あれからもう……何年かな。永い時間が経ったね」

 「……2年ほどしか経ってませんけど」

 「はは、ジョークだよ。あれからどうだい?部員は集められたかい?」

 「……5人ほど……いや、6人」

 「その1人は一体?」

 「……新入生がさっき正規部員になったので」

 「そうか。そんな時期か。僕があの時3年だったらな。もしくはもう1回留年できてたら、君たちにも歓迎会を開けたんだけど」

 「……あなたは、どうしてそこまでして……」

 「僕自身、楽しみにしていたからだよ」

 「…………折角だし、寄って行きます?」

 「うーん、そうしたいけど、明日も仕事が早くてね。大変だよ」

 「……大変なのは仕事とは……別でしょう?……足の指、減ってますよ」

 「えっ?ははは、いや参ったな。バレた?いや、この前、グランプリがあってね。どうしても……って、もしかして見たのかい?僕の作品」

 「……そりゃまぁ。とにかく、身体は大切にしないと」

 「それ、君が言う?いや、逆に説得力あるか。……と、もうこんな時間か。すまない、バスが来るから失礼するよ」

 「……いえ、無駄話つき合わせちゃって」

 「いやいや、無駄じゃなかったよ。SF研が消滅してないってわかったしね。それじゃ、新入生君」

 「……もう新入生じゃないですよ」


 部長だった者と、部長になった者は、再びそれぞれの道へと歩き出すのだった。


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