正体見たり?
「こんにちはー。あれ、誰もいないのかな」
「……いや、いるぞ」
「おわーっ、部長、びっくりさせないでくださいよ……」
「……」
「心臓に悪いですよ……て、いない……!?」
夕暮れの和室。
僕は部長を捕まえ、気になる疑問を直球にして叩き込んだ。
「今日は!部長の秘密を知りたいと思います」
「……あ、そう」
あまり直球の効果はなさそうだった。まぁ、驚かしても驚きそうにない人だししょうがないか。
「なんですか、その反応は。素直に教えてくださいよーほらほら」
教えたところで減るものではないだろうし。むしろ何が減るというのか。
「……そんなこと言われてもな……秘密なんてもってないぞ」
「んん……じゃあ、部長は何ができるんですか?」
「……喧嘩売ってるのか?」
「あわ、そういう意味じゃなくて……」
「……冗談」
そういうと、部長は席(座布団)をたった。
「ちょ、どこ行くんですか」
「……用事。結構忙しい」
そう言うと、部長は消えてしまった。くそう。でも、逃がさない。絶対に秘密を暴くんだから!
……というわけで、次の日。
「まずは妖狐さんに聞いてみたいと思います」
「え、なんで俺?」
男子学生に変装している妖狐さんに直撃。この姿でいるということはまだ受けるべき講義があるのだろうが、暇そうにしているのだから問題ないよね。
「なんかタイプ似てるかなーと」
「なるほどねーうん、絶対違うと思う。対極でしょ」
「付き合いも長そうだし。何か知ってませんか?」
「付き合いに関しては他の奴と一緒くらいだけど……いや、ちょっと長いかな……」
妖狐さんが遠くを見つめ始めた。
「あのー」
「は!あー、そうだな、具体的に何を知りたいんだ?」
「うーん……じゃあ、食事してる姿を見て見たいです。まだ持ってないんで」
「持ってない……?まぁいいや、じゃあ、うってつけの場所があるぞ」
「本当ですか」
大学によっては休憩スペースが設けられているものなのだが、当大学にも当然それは存在する。そこには自動販売機がある。僕は妖狐さんに教えられたスポットであるそこへとやってきた。ここにいると部長の貴重な食事をしている姿を見れるそうだ。お、ウワサをすれば(僕しかしてないだろうが)なんとやら。部長だ。とにかく隠れよう。
部長は一直線に自動販売機へと進み、飲み物を購入した。そして……かなり満足そうな顔をして去った。あれ?ここで一息ついて……いかないの??謎は謎のまま。もう少し観察してみよう。
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和室。ロリババァ体型に戻っている妖狐さんに話しかける。
「妖狐さん。今日部長何も食べてませんでしたよ」
「ん?あやつは自動販売機で何か買っていったんじゃろ?」
「はい」
「で、それを飲んでたんじゃないかの」
「飲んでましたよ」
「それがあやつにとっての食事じゃ」
「はい?」
「まぁ信じられないかも知れないが……あやつにとってはアレが食事なんじゃ。多分。直接聞いたわけじゃないけどの」
「でも、確かに食事をしてるの見たことないし、学食でも見かけないしなぁ」
それに、前にも妖狐さん本人が「水しか飲まない」といった感じの話しをしてた気もする。
「その口ぶりだと結構観察してるってことかの?」
「はい。見ます?」
「へ?何を……」
僕は妖狐さんに手帳を見せた。B7手帳12冊分の観察結果だ。なかなかの成果。いや、少ないかも。
「うん、えぇと、多くないかの」
「どこがですか」
「これ、丸々……?」
少々複雑そうな顔を妖狐さんは浮かべている。
「そうですよ?」
「うわ、わざわざ日付、時間、場所まで細か……これもう、すとーきん……」
「しし、失礼な!ただの観察ですよ、観察!」
「そ、そうか」
そういうと妖狐さんは「頭が頭痛」と言って帰ってしまった。
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「というわけなんですよ」
夕方になり、部室にやってきた可変先輩とPさんと提督さんに説明した。
「それってよー、ストーカーじゃね?お前もなかなか立派な悪だな」
「Foo~!!無意識の変態行為ねぇ!」
「立件できそうですね」
「違いますよー!」
知的好奇心の結果をストーキングと言われるのは心外だ。
「先輩方も気になったことはあるでしょう?部長のこと」
「ま、多少はね?でも部長だけでなくお互いのこともよくは知らないし。背中の黒子の数とか……」
僕だって知らないのを貴方が知ってるわけないでしょうが。というか、あなたの変形機能も十分に気になるところですけどね。
「特に知ろうと思わないしなー。プライベートなことって特に……知られたくないこともあるっしょ?俺もあるし」
「そんなぁ……」
「うーん、そうですね……部長について知りたいなら……ファボ魔?」
「ナンダ?」
「今日は“あの日”では?」
「ア、ソウダナ」
「え?何の日です?」
「あ、あの日か!早いもんだな、一ヶ月って」
「え?なんのことですか」
誕生日?でも月イチのあれって……う、うーん?いや、まさかねぇ。
「まぁ、22時以降、そうですね……隠れていれば見れますよ」
「ちゃんと見とけよ~」
「は、はぁ……」
その時間は部室閉まってるはずなんだけどなぁ。
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22:00になり、先輩方は帰り、僕は残った。まぁ一分か二分程度いるくらいなら大丈夫だろう。
「隠れるって……どこかいい場所あります?といっても和室ですけど」
「ソウダナー。テンジョウウラハドウヨ」
ファボ魔さんがそう言うと、天井がスラッと開き、階段が降りてきた。もうこの程度では驚かない。前見たし。
「ソロソロ、クルゾ」
「えっあわわ」
慌てて天井裏に隠れると同時に、誰かがやってきた気配がした。
「……皆は……帰ったか。まぁ時間だしな」
部長だ。当然のようにやってきたが、もう部室は閉める時間……って、さっき思ったんだけどなー。
「カエッタゾ」
「……そうか……」
何か始めるのかな?
「……?……いや待て、ファボ魔お前、誰か天井、いるだ……ろ」
げっ バレた!?
その時だった。
「……!う、く……」
和室で謎の音が響く。今まで聞いたことのない音だ。僕は気になってちらり、とすきまから様子を覗く。
その音は、人間から発生する音だった。まるでこっちの命も削られていくような音。バスン、バスンといったような、身体が裂けていく奇妙な音だ。
部長の動きが止まったようだ。同時に、天井裏が開き、和室への階段がおりる。おそるおそる下へ降りた僕が見たのはおびただしい量の血液とその中で突っ伏している部長だった。
「……部長?」
返事がない。まさか、まさか。いや、間違いなく。
「あ、あの。ファボ魔さん、ぶ、部長は」
「シンダケド」
「!?」
「ソウゾウドオリ。シンデル」
「え、い、いや……」
どうして?何で?理解が追いつかない。自分はどうしたら?救急車?警察……?
「……ゴホ……ペッ……誰かと思えば、やっぱりお前か…………あぁもう、面倒な」
ヱ?
「……なんだその顔は。……あっと、待て、叫ぶなよ……とりあえず深呼吸してだな……」
「ひっ……ぎぃやああああああーーーー!!!!!をあああああアアアアーーー!!」
「……ん、ま、こうなるよな……」
「ちゃんと…………ちゃんと説明してください!」
人前で号泣してしまった恥ずかしさもあって、ややキレ気味に部長に突っかかる。
「……まぁ大体は見ての通りだけど」
全身血まみれの部長は汚れてしまった畳やら障子やらを取り替えながらそう言った。
「見た感じ、部長が死んだようにしか見えませんでした!」
「……正解だ」
「はい?」
「……お前、最近俺をストーキングしているだろう」
「え!?いや、ストーキングではないですけど……気づいていたんですか」
「……四六時中お前の姿が見えるとそりゃ疑うだろう」
「バレてたのかァ……それが何か関係が……?」
「……秘密を知りたがっていたじゃないか。これがそうだ」
「死ぬことがですか。でも、部長は生きてます」
「……そうだな、生きている」
「もしかして、死なないってことですか。すっごい。羨まし」
「……それは違うな。お前は……」
「え……?」
部長はいつも以上に暗い顔だった。ここまで何かを呪うような表情をした人を僕は見たこともないし、これから出会うこともなかった。
「詳しク話そうか」
部長が帰った後、僕は和室に残ってファボ魔さん(ホログラム)と話していた。
「まだ、信じられなイという顔だな」
「はい」
「死なないことがそンなに摩訶不思議か?」
「そりゃそうですよ。ありえないじゃないですか」
「ありえないなんテことはないぞ。特にコのSF研ではな」
「……なんかそれ言われちゃうと納得しそうです」
「考えてみロ。肉体変化すル奴がいる。変身するノもいるし、そもそも現実世界に存在していない奴もいる。それは俺ダけど」
「ま、まぁ確かに……」
「お前の気持ちモわからなくもないがな。初めテ知ったときは全員驚いてイたし」
「そうなんですか」
「そりゃそウだろ。いきなリ全身から血を噴出して 倒れるんだからさ。最初はドッキリかト思ったが、心臓は止まってるし、呼吸もしてないんだからそりゃパニックさ」
「皆さんはそのときどうしたんですか?」
「どうしたって言わレてもねぇ。対処を考えてルうちにあいつはケロッとした顔で起きたんだから。サらに パニックよ」
「はは……僕と同じだ」
「そうだな。あ、一つ知っておくといいことガあるぞ」
「?」
「あいつは死なないわけじゃナいってことだ」
「ええっ?でも……」
「ここデ、クイズタイム!」
「うわ、突然ですね」
「新入生、お前さんハ、交通事故にあいました。頭部が 粉砕しテます。さア、どうする?」
「そんなの、死んじゃいますよ」
「じャあ、次。君は銃弾デうたれた。計十発。さァ、どうする?」
「じゅ、十発!?死にますね」
「最後。君は全身少しずつ切断さレていく。どうすル?」
「どうもこうも、死にますよ……って、さっきから死ぬしかないじゃないですか」
「そうダな。普通はソうだ」
「普通……あっ!」
「そウだ。死んだホうがマシだ。そんナ状況は。痛みがないワけじゃない。あいつノ死なないことのフィードバックは死だ。お前が見たヨうに」
「……」
死なない代償が、死に続ける……?
「他人かラみりゃ羨ましい。死なナい、無敵ってな。でも、おかシいよな?同じヨうな変な能力持ちに 変わりはないのに、“生死”となるとちょっと特別なように思えてしまう」
「あんなの、死ねないクセに死ぬ最低デ最悪の呪いってな」
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数日後。
「部長、この前は、ごめんなさい」
「……?」
「能力だって、人によっては……その、嫌ですよね」
「……あ、その話か」
「あの…………」
「……あのさ」
「!はい」
「……特に気にしていないから、お前も気にしなくてもいい」
「で、でも……」
「……なんだよ。不満か?」
「だって、部長、やっぱり不機嫌じゃないですか」
「……当たり前だ」
「ほ、ほら」
「……ここ、どこだと思ってるんだ」
「部長の部屋です」
「……なんで部屋を知っている」
「そりゃあ、調べましたからね」
「……戸締りはしていたはずだが」
「合鍵です。3つほど作りました」
「……」
「……」
「……帰れ」