変人これくしょん
ボォオオ……。
「あれ、今汽笛が聞こえたような……気のせいかな」
「……気のせいじゃないかもな」
「え?でも、うちの大学から海まで遠いしそんなことは……」
ボォオオ……。
「……あいつが来る」
「あいつ……?」
春風の気持ちの良い日。今日も今日とてSF研は活動をしている。
「Foo~!お疲れ~」
「あ、可変先輩こんにちは」
「俺、参上ッ!」
ドォン!
「Pさんも。こんにちは」
いつものようにメンバーが集まる。僕が今までにあった人たちだ。と、いうことは部長の言っていた“あいつ”は来ていないということになる。今日は来ないのだろうか?まぁ、毎回メンバー全員が揃うこともないとは聞いていたけど。自由なサークルというわけだ。
その時。
「お疲れ様です」
「!」
ああっ!SF研に来てから初めて聞く声だ。ということはこの人が例の……?とりあえず、挨拶しなくちゃ。
「こんにちは、はーーーーーあれ??」
だ、誰もいない……確かに、声はしたんだけど。どこに行ったんだろう?……そういえば、扉が開いた覚えが無い。あ、もしかしてファボ魔さんみたいな存在なのかな?
「……下、よく見ろ」
「んぎゃーーーーーーっ!!!!??ぶぶぶ、部長!?」
「……そうだけど」
今回は僕の背後に現われやがりました部長のせいで、僕は素っ頓狂な声を上げるはめになった。この人は何故僕の背後に急に現われるかなあ!?
もしかしてあれかな?誰かの背後に急に現われることが能力なのかな?
んなわけないか。ともかく言うことはただ一つ。
「びっくりさせないで下さいよ!!!!!」
「……あー悪い」
「はぁ……と、ところで“下”ってどういうことですか」
僕の質問に可変先輩がジェスチャーを交えつつ答える。
「下は下だよ。ほら、見ろよ見ろよ~Foo~!」
可変先輩に言われるままに目をこらして下……畳を見つめる。畳だ。和室というだけあってフローリングではない。畳がなんだというのだろう?……あれ?
畳のある一点が歪んでいる。目にゴミが入っただろうか。いや、そうではない。確かに歪んでいる。まるで、水面のように……。
それはシミのようで、そして……。
ザバァ。
「上陸完了ですね」
「お、おわっ……!?人がっ……」
畳から現われたのは人間……まるで軍服のようなファッションに身を包んだ、賢そうな人だ。
「おや、君が新入生君か。わがSF鎮守府へようこそ」
知的。ファボ魔さんとはまた方向性の違う知性を漂わせる人だ。
「はい。ええと、はじめまして」
「……鎮守府じゃねーよ」
「ウソツクナ」
……
「へぇ。提督さんって頭いいんですね……あ、馬鹿にしてるわけじゃないですよ」
「もちろん、理解していますよ」
この人は通称、提督さん。さっき僕が感じた知性のオーラはやはり間違いではなく、なんとIQ200の持ち主とか。本当かどうかはわかんないけど。まぁ皆何も言わないし、そうなんだろう。
「じゃあ、さっき地面に潜っていたのも」
「そう、私の開発したこの装置です……といえば信じてもらえますかね」
なんの変哲も無い腕時計。しかし、これを身に着けると周りが液状化するらしい。
「ええ、信じますとも。でも、その装置大丈夫なんですか?周りを溶かしてるって」
「その点は問題ありません。きちんと元に戻りますから。それに足元だけですよ。溶けるのは」
「どんな原理ですかそれ……」
「説明はちょっと長くなりますよ。そうですね、今回は『天才に不可能は無い』とでも」
「お~実力が伴ってる人が言うとかっこいいですねぇ」
ここで疑問。
「この装置ってノーベル賞ものではないですか?世間に公表しないんです?」
「まさか。あくまで自分で楽しむ為のもの。頭脳を安易に見せびらかそうとは、思いませんね」
「オイテイトク。スイブンセッシュハ、イイノカ」
突然、提督さんの言葉をさえぎるようにファボ魔さんが忠告をした。
「え?どうしたんですか、ファボ魔さん」
水分摂取?大事なことではある。特に夏の運動には欠かせない。最近は非常に暑いしね。しかし、何故今?
「まだ大丈夫……あれ、あにゅーーー」
「イワンコッチャネェ」
「ど、どういうことですか……?」
その答えは瞬時に得られた。
「じゅわああああ」
提督さんが、溶けていく。いや、蒸発?
「!!?う、うわ……何……??」
「しゅわああああああああ」
「うわわ、どうしたんですか提督さん!?」
「あああああああああああああ」
なんだろう。なんというか、スライム?
「ぶ、部長……どうしちゃったんですか、この人」
「……簡単に言えば弊害だな。……定期的に水分を摂取しないと……消えちまうってわけだ」
「そ、そんなのって……」
「……前にも言ったろ」
「あ……」
世の中、そう上手くはいかない……それにしても……いや、皆そうだ。SF研の皆さんは確かに常識を超えるというか、もうなんか考えたら負け、そんな力を持っているけど、同じくらいの縛りを受けているように感じる。
「皆さんは、辛くはないんですか……?」
「……まぁ上手くやってるしな……」
「そうじゃな。そういうものだと受け入れるしかないしの」
「でも……」
「俺は結構気に入ってるけどな」
「Foo~!俺もそーなの」
「イマサラ、ドウシヨウモナイシー」
「……まぁ、いつかお前にもわかると思う」
「へ?」
それってどういう……?
「しゅわあああああああああああああああああああ」
「わっと……あの、部長。治らないんですか?これは」
流石にやばいのでは?もう原型無いんですけど。
「……いいや、治る」
「じゃ、じゃあ早くしないと」
「……この部屋の条件なら放っておいても治るんだが」
「ダメですっ。すぐに助けないと」
「……はいはい……おい」
「じゅわあああああ!?」
部長がどこからか2Lのペットボトルを取り出し、それを提督さんに向かってぶちまけた。
「あっ……あ?」
「……“あ?”じゃない」
「……お恥ずかしい。助かりました」
おお。戻った。身体の構造や如何に?あ、それは妖狐さんや可変先輩にもいえることだけど。
「……とまぁ、私もこんな身でね。気になるでしょうがよろしくお願いしますね」
「はい!今度は他の発明品について教えてくださいね」
「あっと、残念ですがそれはできないです」
「ええ、どうしてですか」
「発明したものはこれだけだったりするんです」
「そんなぁ」
「すいません」
「ほれほれ。もう時間じゃ。和室を閉めるぞよー」
妖狐さんの声に一同が従い、和室を後にした。それにしても、もったいないなぁ。発明品が一個だなんて。
僕と妖狐さんと提督さんとPさん、あと可変先輩との帰り道。
ファボ魔さんがいないのはわかる。だが、確かに部室にいた部長はどこにいったんだろうか?
……。
「しかしまー良かったの。理解のある後輩で」
「ええ……実に助かります」
「やはり同士!いや、運命共同体か……共に戦う戦士として大事なことだな」
あれ、いつのまにか変な話に?
「あの、僕は戦士じゃないですよ……」
「Foo~!!!!気持ちいい」
「あのー、可変先輩」
「うん?」
「可変先輩のその……気持ちよくなるのはなんなんです?」
能力?
「変態じゃからの」
「変態だからな」
「変態ですもんね」
「は?は?は?キレそ~~~~っ」
可変先輩の悲しい咆哮が空へ消えていった。
先輩方と別れ、一人下宿に着く。さて、僕はこれからもう一仕事だな。
まだ、秘密を抱えてる人がいるもんね……。