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はいらなきゃ?SF研究会  作者: 如月霞
そのサークル危険につき
2/13

可変先輩・More than meets the eye

 「あの、先輩のこと“可変先輩”って呼んでもいいですか?」

 「え、なんで?」

 「……“変態”って呼ばれるのとどっちがいい」

 「あ、じゃあ“可変先輩”でいいです」

 「じゃあ、そう呼びますね!」

 「Foo~!」


 この大学に入って数日。講義にも慣れてきたし、友人もまぁできた。

そろそろ所属するサークルを決める季節だ。といっても、SF研にしか行ったことがないし、そもそもそこにしか興味が無い。

 少々不安なことがあるとすれば、SF研に入らんとする生徒が僕だけなことだ。ちなみに、この前SF研に行こうと友人を誘ったが、引きつった顔で断られた。ちょっと悲しい。


「あ、和室が開いてる。今日もSF研に行こうかな」


 部室が開いているかどうかは、今、誰もが利用しているというSNS……情報発信ツールから、SF研究会のアカウントの“呟き”を見れば、サークル活動しているか判断できる。たいていの場合、「和室開きました」といった感じだ。ただ、それだけの内容では何をしているのかなど全くわからない。過去の呟きを遡ってみても、同じようなことしか呟いていないのだ。新入部員獲得にあまり積極的ではないのだろうか?

 ……いや、だとしたらサークル紹介すらしないだろう。この呟きには、多分僕にはわからないような意味が含まれているんだろう。一年を通して、ただ「和室開けました」を貫き通す、その言葉に何かの意志……パワーを感じる。

 そんなことを考えながら、部室の前までやってきたわけだ。


 「お邪魔しまーす」


 和室の扉を開けようとしたとき、やはり扉は自動で開くのだった。

 そこには……。


 「あれ?誰もいないや」


 和室には、誰もいなかった。しかし、和室が開いているということは誰かがいたということだろうし。

 トイレにでも行ったのだろうか?少々疑問に思いつつ、座布団を押入れから出そうとすると、やはり押入れの襖は自動で開くのだった。押入れにもセンサーが付いているのだろうか?今度部長に聞いてみよう。

 座布団を敷き、机に頬杖をつく、あれ、そういえばこの前ここへ来たとき、机なんてあったっけ……。


 「あー重い、重いですよこれは……ヌッ!!!!」


 机から声!そして、ひとりでに動き出す机!


 「おわーーっ!!!?」


 驚きと恐怖で飛びのいた。すると机はむくむくと立ち上がり、表現しようのない音をたてながら人の姿に変形した。


 「ウォン……」

 「か、可変先輩……」


 奇妙な唸り声とともにゆったりと変形を終えた可変先輩は少し驚いたように僕に声をかけた。


 「なんだ、君か。死ぬかと思ったよ」

 「こっちはびっくりして死ぬかと思いましたよ……」

 「Foo~!」

 「可変先輩って本当に何にでもなれるんですね」

 「ま、多少はね?でも、他の人間に変形……というか、変装はできないけどね。あぁ、動物くらいまでならやろうと思えば」

 「へぇ、そうなんですか」


 では、花や植物はどうでしょう?なんてくだらない話を僕が吹っかける前に、可変先輩は出し惜しみをするように話し出す。


 「まぁ、変装ってならもっと上手いやつがいるし……このサークルには」

 「え?」


 まだまだ僕が知らないことは多くありそうだ。



 時間は過ぎていき、午後六時。

部室の中では何をやってもよい。本を読んでも、テレビを見ても、課題をやってもよいのだ。なんなら、室内で花火をしても多分何も問題はないのかもしれない……。

 とにかく、できることは無限大だ。とりあえず、今日のところは僕はおとなしくしていた。


 「あ、そうだ。腹減った…減らない?」


 可変先輩がふいに僕に問う。確かに夕食をするにはもってこいの時間だ。


 「う~ん、結構おなか空きました」

 「この辺にぃ、旨い学食、あるらしいんすよ」

 「へぇ……というか、食堂のですよね」

 「そうだよ。じゃけん、行きましょうね」

 「あ、はい」


 美味しいかどうかは別にして、ここの大学にも食堂がある。学生に人気なのは主にバランスの整った「マルチ」定食か、すぐに出てくる「アクセル」定食だ。他にも季節ごとに個性的な定食が現われるという。今日は何を食べようかな?とりあえず、出る準備しないと。

 和室に人が残らない場合、管理の問題上、一度和室を閉めることとなっているそうだ。僕らは一応忘れ物が無いか確認し、外へ出ようとする。可変先輩が先に出る形になったのだが……。


 「??あの、可変先輩」

 「ん?」

 「和室の扉、自動なんですよね」

 「そうだよ」

 「なんで可変先輩は今自分で開けたんですか?というか、この場合は自動のスイッチ切ってるってことですか?」

 「いいや、そんな切り替えスイッチないです」

 「ええ?だって今」

 「あいつね、俺のとき開いてくれないんだよね。皆のとき開くのにね。泣きたくなりますよ~」


 システムに嫌われたってことなのか。本当にいるんだな、そういう人。



 さて、食堂。夕食時ということもあってか、わいわいと賑やか。

 僕はハンバーグ定食を頼んだ。税込み400円。一方可変先輩は定食を3つほど並べている。一体いくらしたんだろうか。


 「可変先輩、かなり食べるほうなんですね」

 「変形にエネルギー使うからね、しょうがないね」

 「そういうものなんですか」


 僕にはわからないが、本人がそういうのなら、そうなんだろう。しかし、普段からこの量を食べるのなら、食費はどうなるのやら……。

 ちなみに、僕と可変先輩が食べ終わったのは同時だった。皆は良く噛んで食べようね。


 「あー食った食った……そうだ、これから夜景、見に行かない?」


 可変先輩が意外な提案をしてきた。


 「夜景?いいですね。屋上にでも行くんですか?」


 今日の天気は晴れ。月明かりが少々気になるが、なるほど確かに大学の棟によっては絶好の夜景が見れるかもしれない。しかし唐突。可変先輩、意外とロマンチストなのかな?


 「屋上?や、その必要はないです。とりあえず外、行きましょうね」


 食堂を後にし、可変先輩について行くと、そこは大学裏の人気の無い草むらだった。


 「ここで何を?」

 「ま、見とけよ見とけよ」

 「ああっ!」


 その瞬間!可変先輩の頭部が胴体にめり込み、胴体が折りたたまれ、腕が高速で回転をし始めた。もう質量とか原型を無視しているんじゃないかと思うほど人間の形を失った可変先輩はヘリコプターと化した。


 「乗って、どうぞ」


 もう突っ込みが追いつかない。気を抜けばこのトンデモない光景に失神しそうだ。


 「乗れといわれても……」


 あんまり乗りたくない。けど興味はある。

 乗るか。 

 驚くことに、操縦席は普通だった。乗り心地は微妙だけど……。


 「すごい。操縦桿まである」

 「おぉんっ!」


 操縦桿にふれると、可変先輩が呻いた。


 「そこ、感じやすいから……操縦の必要はないです」

 「ぅぇ……先に言ってくださいよ」


 思わず操縦桿を蹴り飛ばしたくなる。


 「じゃ、行きますよ~行く行く!」


 バララ、と音を立ててヘリコプターと化した先輩は僕を乗せて空へと舞った。

 本当に飛んでしまった。


 「す、すごい!本当に飛んでる……!これ、どんな原理ですか!?」

 「まぁ、おんぶとか抱っこに近いかな」

 「へぇ」


 生まれてからヘリコプターに乗ったことは無いし(無論ヘリコプターになった人間に乗ったことも無い)、こんな上空から夜景を見たことも無かった。なかなかに美しい。空には星も輝き、幻想的な空間にいる気がする。なるほどこれは、大学のどこから見ようと得られない光景かもしれない。

 そんな素晴らしい夜景を見ていると、可変先輩が果たして人間かどうかなんてもうどうでも良くなっていた。

 そんな夢心地な気分も「ハァ、ハァ」という荒い息遣いによって終わった。


 「あの、大丈夫ですか?息が・・・…というか、高度下がってますけど」

 「熱い……重い……もう、限界ですよ~限界」

 「し、失礼な!……ごほん、あの、限界ってどういう」

 「そりゃスタミナ使うし。燃料で動いてないからね」

 「ええ……じゃあつまるところ」

 「墜ちたな」

 「あああああああああ!!!!!!」


 ヘリコプター先輩と共に落下していく。この高さだ。助かることは無い……なんとも短い人生だった……。


 「……そんな簡単にあきらめなくても……いいんじゃないのか?」


 え!?


 「……ほら、さっさと捕まりな」

 「ぶ、部長!?なんで?」


①ビルの8階ほどの高さに

②なんで部長が

③いるんですか

④生身で

と、冷静時なら聞いていただろうが、今はそれどころではない。


 「……なんでって、部室にいったら誰もいなかったからな……やたら低空飛行するヘリがいたし……とにかくはやく捕まれ。死にたいか」

 「あ、ありがとうございます……!」


 空中浮遊している部長に飛び移る。続いて、落下中のヘリコプター先輩も部長にしがみつこうとする。


 「助かるわぁ~」

 「……いや、お前は墜ちろ」

 「まーッ!!!?」


 そのまま近くの公園へヘリコプター先輩は墜ちていった。爆発……は、しなかったが、「グシャ」という嫌な音がした。


 「あ、あの、部長」

 「……なんだ」

 「なな何で浮いてるかは後から聞きます。部長は墜ちませんよね」

 「……そんなヘマしない……ほら」


 部長の言うとおり、無事に地上へ降りた。


 「あ、部長、本当に助かりまし……?!」


 ――今日はもう帰りな――と、咳き込んでいる声のほうを向いたが、そこには、部長の姿は無かった。あの人、何者なんだろう?

 僕の気持ちとは裏腹に、星はいつものようにスッキリと瞬いていた。



 近くの公園。


 「オォン……誰か、助けて……」

 「……よう」

 「あ、助けて……すごい痛い。絶対折れてる、これ」

 「……病院に……行くわけにもいかないか……ちょっと我慢しろ」

 「あッッッッッッッッ」


 声にならない声を出す可変先輩と、赤く染まっていく部長の姿があったが、一体何をしていたのかは誰も知らなかった。


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