歪さの成れの果て
義姉さん・・・僕の兄の妻だった人が死んでからもう30年になる。あの時から兄の、そして義姉さんに恋焦がれた僕の心は死んでいた。
義姉さんは15の時に兄に嫁いできた。当時兄は若くして出世していた有望株であった。しかし、兄の目は義姉さんを見ていなかった。どこか別に想い人がいるようであった。
「旦那様・・・」
義姉さんは僕の事をみていなくて。兄ばっかり見ていた。
「僕の事を見て」
僕の思いは届かない。そんなこと分かっていた。
ある日、僕は兄に呼び出された。
「私が死んだら妻を貰ってくれ」
「じゃないとあの人が可哀想だ」
それは、兄の敗北宣言にも捉えられた。それでも、僕は感情を押し殺して「わかった」とだけ答えた。扉の向こうで踵を返した人が義姉さんじゃなければいい、そんな事を願いながら。
終わりの日はあっけなかった。その日は木漏れ日がさしていたけれど僕の心は全く晴れていなかった。その日僕が手に入れたものは義姉さんの診断書だった。余命半年しか義姉さんには残されていなかった。
そちらに気を取られていたのだろう。僕はを開けるまで屋敷の喧騒に気がつかなかった。兄に銃口が向けられている。そして、撃たれた瞬間義姉さんが兄の前に躍り出た。
「義姉さん!!」
叫ぶ事しか出来なかった。
義姉さんはそれから3日生きた。しかし、僕の思いを伝える事は出来なかった。
「私は後妻を貰うつもりはない」
義姉さんの葬式が終わった後、ついぞ子をなすことはなかった兄は言った。
だったら・・・
「なんで義姉さんの事、もっと大切にしてやらなかったんだよ!」
気が付いたら兄を殴っていた。兄は甘んじて僕の拳を受け入れた。
あの後、僕は妻を迎えた。義姉さんの血縁の、しかし義姉さんではない人だ。前世で深い縁でもあったのか2人の子に恵まれた。息子と娘だった。娘には義姉さんの名前を貰った。僕が義姉さんの事を永遠に忘れないように。
何時からか妻も娘も自分に義姉さんの事を投影していると気が付いたようだけど、僕は敢えて何も言わなかった。
そして、兄が死んだ。
「ああ、義姉さん。僕も今から其処に行きます」