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何故、貴方が此処に居るのですかね?
私の方が不思議に思う。
昨日に引き続き今日も目も前に居るんですよ。
驚くしかないですよね。
何せ、今私たちが居るのは、庶民の憩いの場である居酒屋が立ち並ぶ場所で、御曹司でもある豊川さん《あのひと》が居られる様な場所では無い筈。
「おい、無視するな答えろよ。」
って、思考に耽っていたらそんな言葉が飛んできた。
あろうことか、私の腕を掴んでいる。
えっと、これはどういう状態だ。
困惑する私。
「私は鴨川の上司で再従兄弟の清水と言います。一度御社で顔を会わせておりますが、お忘れでしょうか?」
隣に居た和成が冷静に彼の腕を掴み私の腕から放させた。
力業では、私には対処出来ないもんな。
和成を見た御曹司は、眉を潜めて睨んでいる。
「そんな顔をして此方を睨んできても困るんですがね。」
平然と対応する和成に助かっては要るんだが。
「俺は、婚約者でもある佳澄さんが、次々と男を誑かせていると耳にしたから、釘を指そうと……。」
と言い出す。
それ、何処から仕入れたのだろう?
って言うか、私そんなに尻軽女じゃないし。
こんな性格だから、女性より男性の友達の方が多いのは仕方ないと思う。
それに、政略結婚しか望めないのも分かっていたから、異性を見てもトキメク(?)何て皆無だった。
「あぁ、婚約者なんですが、私、昨日初めて知ったので、全然実感がないんですよ。まさかと言う驚きしかね。」
今の自分の気持ちを口にして居た。
「……嘘、だろ……。」
困惑する彼からの言葉。
「彼女、昨日豊川さんに会うまで、何も知らされてなかったんですよ。貴方に言われて初めて知ったってのも事実であって、嘘は一切申していません。」
和成が後方支援をしてくれる。
「それに、婚約が成立してるのなら、何故もっと早くに会いに来なかったんですか? 会えない理由でもあったんですか?」
私が聞きたい事を和成が聞いてくれる。
「一年間は、会うなと彼女の父親から言われていたから……。一昨日、やっとその一年が終わったから昨日会いに来たら、他の男と仲良く店に入って行くのを見て……つい、あんな言葉を……。」
変な条件を付けられてるな。
普通なら気付くだろう。
婚約条件が一年会うなって、可笑しいだろう。それを鵜呑みにする方もする方だ。
その一年で、私に近付こうと思えば、幾らでも出来ただろうに……。
って言うか、この人ストーカーか何だろうか?
態々、私の会社まで着て、終わるのを待つって普通なら怖いよ。
個人の連絡先を知らなくても、会社の番号は分かるんだから、電話すればいいのに(私用電話は不味いか?)……。
「それ以外の条件は無かったのですか?」
不審に思いながらそう口にすれば。
「無い。」
と即答される。
ハァ~。
一体何を考えてるんだあの#父兄__ふたり__#は。
私は、米神を押さえる。
「そうですか。では、私から条件を一ついいでしょうか?」
私は、彼の目を見てそう聞けば。
「何だ?」
興味津々と言った顔で返してくる。
まぁ、この顔は大抵の事なら叶えられるってことでしょうか?
でも、残念でしたね。
そう簡単には行きませんから。
「婚約は、政略での結婚でしょうが、私は一切認めません。私を結婚にさせてください。それが出来ないのであれば、諦めて他の女性にアプローチしてください。」
淡々と口にする私。
元々、結婚するつもりもないし一生お一人様でも、問題ないと思ってた。
「はっ? それは、どういう意味だ?」
困惑する彼に。
「そのままの意味ですよ。私自身結婚する気が無いので、私をその気にさせてください。それが無理だと思うのなら、諦めて他の女性に婚約を持ちかけた方がいいと思いますよ。」
追加要項を読み上げるように伝える。
「その条件呑んだ。」
少し考えてからの返答は、意外なもので私が驚く番だった。
余程自信があるのだろ。
簡単には行かないと思うが……。
「そうですか。では、期限は今から一年ってことでいいですか?」
こういう事には、期限を設定しておかないと私が落ちるまで、続きそうだし、ね。
「あぁ、それでいい。」
自信有り気に答えられ、こっちが躊躇する。
一体何処からその自信は上がってくるのやら。
呆れ気味に彼を見ていた。
「覚悟しておけよ。」
って、それだけを口にして、踵を返し去っていった。
その言葉が、また余計な台詞だなぁ、何て思っていたりした。