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その日は、前から予定を立てて伺う旨を伝えていた大企業、豊川ホールディングに二人で行った。
ビル内に入れば、何やらざわついてる様子に和成(主任)に目を向ける。和成も不思議そうな顔をしながら私に視線を寄越す。
素知らぬ振りをしながら、受け付けに足を向け。
「すみませんが、吉川専務は居りますでしょうか?」
そう声がけをすれば、周りの目が怪しくなり、先程以上にざわめく社内。
私、何かやらかした?
不安に思いながら、和成を見上げれば和成が訝しげな顔をしている。
受付嬢の娘が、訝しげな顔をしながら。
「吉川ですか?只今急用が出来て外に出ていますが、アポイントの方はお取りになって頂いてたのでしょうか?」
その返しに私達は、顔を見合わせた。
私達が来る時間はきちんと伝えていた筈、それなのに居ないって?
「えぇ、たちかわ商事の鴨川と清水(主任)ですが、今日の十四時にアポイントを取っていたのですが…」
困った風に言えば。
「そうでしたか…。少々お待ちください」
そう言うと何処かに電話を要れ始めた。
それを見ながら、周りに気を巡らす。
すると。
「直ぐに代わりの者が見えますので、あちらのソファーで座ってお待ちください」
「わかりました」
そう答え、指し示された方に足を運ぶ。
その間も、社員さんに監視されてる感が、半端なかった。
暫くすると、周囲がざわつき出した。
何だと、そちらに目を向ければ、やたらと整った顔立ちの男が近付いてきた。
和成と同時にソファーから立ち上がる。
「お待たせして申し訳ありません」
やけに低姿勢の言葉だが、鋭い視線で私達を見てくるところを見れば、専務関係で何かあったのだと考えに至る。
そして、私に対して鋭利な刃物ではないかと錯覚しそうな視線が突き刺さってくる。
何?
初対面で、それはないと思うんだけど……。
それともどこかで会ったことがあるのかと不思議に思いながら、彼を見る。
「副社長の豊川です。諸事情で、吉川は席を外していまして、案件の方は私がお伺い致します」
口許を緩めても目は相変わらず射抜くような鋭い眼差しを向けている。
私は名刺を取りだし。
「たちかわ商事の鴨川です」
自己紹介を含めて差し出した。
そんな私を彼が驚いた顔で見てくる。
何?そんなに変?って言うか、ビジネスなんだから、当たり前の事だと思うけど?
続けて、和成も挨拶し出す。
二人で、相手の出方を見てれば。
「ここでは何ですので、こちらへ……」
そう促されて、場所を移動することになった。