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「わかった、直ぐに行く」
父が答えると。
「応接室にお通ししてますので」
使用人さんが、それだけ告げると去っていった。
それを目で追っていたら。
「お前は、絶対にこの部屋から出るなよ。わかったな」
それだけ言って出ていく父。
出るなって……。
こんなところで何してれば良いのよ。
あーあ、何でこんなことになってるんだろう。
ただ、婚約の事を聞いて直ぐに帰るはずだったのに……。
取り敢えず、蒼汰に事のあらましだけメールしておくか。
鞄からスマホを取りだし、文面を打つとそのまま送信した。
あれから、三十分経っても父が戻ってくる気配もない。
何時までここで缶詰してれば良いんだ?
アルコールも入ってるからだろうか、何時もより眠くなるのが早い。
もう、待ってられない。
ここを抜け出そう。
そう思ったら、即行動。
書斎のドアに耳を当てるが、何にも音がしない。
近くに人が居ないのだろう。
これなら、抜け出せるか。
書斎の戸を静かに開けて、そこから顔を出しキョロキョロと辺りを見渡す。
誰も居ないのを確認して、そのまま足音を忍ばせながら、玄関に向かい廊下を歩く。
その通りには、応接室もあるが、気付かれないよう気配を消しながら、歩みを進めた。
玄関まで辿り着き振り返ってみたが、誰にも気付かれていないようだ。
私は、自分のヒールに足を突っ込み音を立てないように玄関の戸に手をかけゆっくりと開けて、身体を滑り込ませ閉めた。
他から見たら、怪しい人間だろうなぁ、何て思いながら……。
ふー、やりきりましたよ。
見事門も突破し、浮かんでも居ない額の汗を袖で拭う。
その足で、駅までの道を急いだ。
家に辿り着くと上着をハンガーにかけ、ベッドにダイブした。
はしたないとは思うけど、今は疲れてしまって、このまま寝てしまいたいくらいだ。
だが、汗だけでも流したい。
眠いけど、シャワーだけでも浴びよう。
そう思ってノロノロと準備し、バスルームに向かう。
シャワーを浴び終えるとベッドに潜り込んだ。
今日一日、否後半だけでどっと疲れた。
今日の事は、全て忘れよう。
そう思いながら目を瞑った。