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「あんたは俺のものだ!!」
突如聞こえてきた殺し文句。
繁華街の中、誰しもがその声に振り向く。
今時の漫画や、恋愛小説じゃあるまいし、恥ずかしくないのかねぇ。
何て、冷静な自分が居る。
だって、当事者ではないと踏んでるから、ここはさっさと離れるべきだ。
私は、仲の良い男友達の腕を引っ張って、その場を離れようとした。
「ねぇ、次はどこに行く?」
何て話ながら歩いていれば、腕を掴まれ足止めされた。
見れば、先程の恥ずかしい台詞を吐いた奴が、私を睨み付けてきた。
仕事帰りにバッタリと高校からの友人達と遭遇し、そのまま飲みに行くことになった。
近況報告やら、昔話に花を咲かせていたら、程よく酔いが回ってきたところでお開きになった。
店を出て、もう少しだけ話をしたかったから、一番仲の良い男友達に声を掛けようとしたら、冒頭の声が聞こえてきたのだ。
一体何なのよ。
只の凡人OLの私が、何で俺様イケメンに捕まらないといけないわけ?
っていうか、顔も知らない人に足止めされるって、何?誰得?
何て、訳のわからない思考になってる自分が居る。
取り敢えず、訳がわからないから。
「何かご用ですか?」
丁寧な言葉なのに、何故か低く冷たい声が出た。
もちろん睨み返しているが。
「何かって…。お前なぁ、婚約者に向かってそれはないだろ」
絶句しながら、冷たい声で返された。
「ハァァ?婚約者ですって!何の冗談ですか?そんな話は聞いてないんですがね」
うん、一度たりとも婚約者が居るなんて、両親からも兄からも聞いたこと無い。
胡散臭そうなので、ここは撤退した方が良さそうだ。
「あなたの勘違いだと思います。それでは」
私はそう言って、腕を取り戻し男友達の腕を引っ張って、その場を後にした。
これが、騒動の始まりだった。