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私とカサカサと 〜新聞紙を丸めないで〜

作者: 緋月 夜夏

初めての短編&現実恋愛です。

現実恋愛よりもコメディの要素が強いかもしれません。


本日の授業は全て終わり、クラスメイトは少し前まで残っていた人もいたけど、今この教室にいるのは私を含めて2人だけ。


「あはは〜振られちゃった。」


言葉の軽さとは裏腹に目の端に涙を浮かべているのは私、春野はるの 蜜音みつねの幼馴染である蝶野ちょうの 女々(めめ)

彼女は私達のもう1人の幼馴染ーー蟻川ありかわ ひかりに告白し、玉砕したらしい。


「好きな人がいるからだってさ。きっとミツの事だよ。」

「そう…かな。」

「そうだよ。あ〜あ。やっぱりかぁ…」


こう話している間にも女々の目からは涙が溢れそうになっている。

私は胸を貸してあげようかとも思ったけど、寸前でやめた。

彼女が泣いている原因の1つは私にも関係したいるみたいだったから。


「よ、良かったね!両想い、だもんね!」

「…」

「私、は…幸せに、なって、くれるなら…」


続きを言おうとしたみたいだけど、もう駄目だった。

頰に一筋の涙が流れると、ダムが決壊したかのように彼女の目からは涙が溢れる。


「私!大好き、だった、のに…酷いよぉ…」


彼女がそう呟くのが聞こえたけど、私はそこに立ち尽くすしかなかった。



数分で回復したのか、涙はもう止まっていた。


「ごめんね。泣いちゃったりして。もう大丈夫だから。」

「そっか。」

「ミツも頑張ってね!それじゃ!」


そう言い残して、先に帰ってしまった。

私達はお互いの想い人が同じ人物であることを知っている。


(本当なら喜べるはずなんだけどなぁ…)


幼馴染の泣き顔を見た後だからなのか、嬉しいという思いは無かった。


教室を出ると、そこには件の人物、光が立っていた。


「女々とすれ違わなかった?」

「ああ。でも、俺には気づいてなかったよ。」

「ふ〜ん。で、誰か待ってるの?」

「ああ。蜜音を待ってたんだ。」

「…何か用事だったの?」

「ああ。」


光は大きく深呼吸をして言った。


「明日の放課後。この教室に来てくれ。」


そう告げると逃げるように去っていってしまった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



私はいつの間にか家の玄関に立っていた。

玄関の扉を開けると、お母さんが夕食を作っているのか玄関までいい匂いが漂ってきている。


「ただいま。」

「あっ、おかえりなさい。今日は遅かったのね?」

「そう?」

「いつもなら学校が終わるとすぐに帰ってくるじゃない。あっ、もしかして彼氏とか?」

「…私部屋にいるから。」

「あっ、もうそうやって怒らないで。もう少しで夕ご飯できるって言ってるでしょ?今日はみーちゃんの好きなオムライスよ。」

「…そう。私、手を洗ってくるね。」


そういったところで、玄関の扉を開ける音がした。


「ただいま。」

「あなた、おかえりなさい。」

「おかえり。」


お父さんが帰って来たみたい。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



夕食を食べ終えて部屋に戻るとベットに倒れこんだ。

まさか女々が振られるとは。

てっきり光の好きな人は女々だと思っていた。

だから、私も諦めようと思っていたのに。

私の顔は今、にやけているのだろうか。

お母さんにはバレていないだろうか。


(明日放課後って…そういうことだよね…)


勘違いかもしれない。でも…

想像して顔が赤くなってしまう。

こんなことは初めてだけど、案外冷静でいられている、はずだ。


(早く明日にならないかな…)


ドキドキしていると胸を押さえながら、私は眠りについた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



《ジリリリリリ》


目覚まし時計が鳴っている。

いつも通りに手を伸ばして止めようとするけど、全然当たらない。


(あれ?私、場所変えたんだっけ…?)


見て確認しようとしてもなかなかピントが合わない。

こんなことは今までなかったんだけど。


(というか、なにこれ?)


ぼやける視界の中で2本の髪の毛が気になった。

私は黒髪のはずなのにその髪の毛だけは茶色をしている。


(しかも太すぎない?邪魔だからーー)


とりあえず抜いてしまおうかと思い、手を伸ばして、私は気絶した。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



目を覚まし、先程見た光景を思い出す。

そして、深呼吸をして、もう一度手を見た。


(どういうこと…?手が…)


およそ人間の手には見えない。

明らかに昆虫の足だ。


(これは夢?というか、夢であって。)


起きたら手が昆虫になっていたなど信じたくはない。


(いや、もしかして、手だけじゃない!?)


慌てて体を見ようとするも、上手くいかない。


(というよりも首が回らない?…もしかして、手だけじゃない!?)


絶望しかけたが、まだ早い。


(この目で確かめるまでは…!)


一縷の希望に縋るように、周りを見渡す。

全然見えない。

でも、なんとなく感覚で物の位置などはわかる。


(ここは、私の部屋だ…)


眠ったのだから当然だけど、こんな事になっているのに、普段通りの部屋で安心してしまう。


(とりあえず鏡を…)


部屋にある姿見の前に向かう。

ふと気になったのだが、どうやって動いているのだろう?

昆虫ならば足は6本のはずだ。

対して人間は手足なら4本。

真ん中の足が動いてないとか?

そんな考えを巡らしているうちに、姿見の前に来たが、全然見えない。


(そういえば視力が落ちたのも昆虫なったせいなのかな?)


これからどうすればいいんだろう?

とりあえずお母さんに相談とか?

扉もちょうど空いてるし、お母さんを探そう。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



部屋中を探し回ったが、お母さんもお父さんもいないらしい。


(どうすればいいの…?)


相談相手はここにはいない。


(そうだ!女々の家に行こう!)


私と女々、そして光の家は隣同士。

早速向かう事にした。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



ベランダにやってきた。

家を探索している間に、私が飛べることは確認済み。

やっぱり昆虫なんだって、落ち込んだけどそんなこと言っている場合じゃない。

私は女々の家のベランダに飛んだ。


ベランダに着くと、外から中を覗く。

覗き魔みたいで気がひけるけど、私は緊急事態だ。


(見えない…けど、いる。)


相変わらずはっきりとは見えないが、中にいることがわかる。

私は空いている窓から中に入った。


中に入ったものの、全然気づいてくれない。


(勉強に集中しているみたい。)


仕方がないから目の前まで飛んでいく。


(女々!私!蜜音だよ!)


届け!私の想い!


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」


女の子の発したものとは思えない声をあげて出ていってしまった。

女々の声は空気を震わせていた。


(完璧に虫だ…)


虫の感覚を自覚して軽く凹むが、すぐに女々の出ていった廊下の方から空気を震わせて何かかやってくる。


「お母さん!早く!私の部屋にゴキブリが!!」

「少し落ち着きなさい!全く、私だってそんなに得意じゃないのよ…」


女々がお母さんを呼んで来たみたい。

お邪魔しています。


(って、今、女々はなんて言った?)


ゴキブリ?

えっ?




嘘!?

私、Gなの!?

ありえない…

神様なんでこんな事に…

私が何か悪いことしましたか?


「あれだね。女々、新聞紙はある?」

「う、うん。あそこ…」


女々のお母さんが何かを丸めている。

すると、私の上から風邪を切る音が聞こえてきた。


(嘘!?そんなことされたら死んじゃうよ!?)


「外した…なかなかすばしっこい。」


女々のお母さんが再び私を潰そうとしている。


(駄目だって!Gは潰したらいけないって聞いたことないの!?)


私は女のお母さんから逃げるようにベランダから私の家へ戻った。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



落ち着いて、もう一度状況を整理する。

私は今、Gの身体をしているらしい。


(黒い悪魔…あれ?そういえば目の前の髪、というか触角だと思うけど、茶色だ…茶色い悪魔?なら、そこまで怖くないかも!)


現実逃避をするくらいには私も傷ついている。

だってGだよ?

女の子なのに!


(はぁ…これからどうしよう…)


女々には話が通じなかった。

まぁ、目の前にGが飛んできたらああなるのも仕方ないけどね。


(次は、光の家に行こう…)


止まっていても仕方がない。


(それにほら!光となら、心で通じ合えるかもしれない!)


早速、光の家に近いベランダに向かった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



夏ということもあってか、光の家の窓も開いていた。


(お邪魔しま〜す。)


中に入るが、光はいないみたい。


(あれ?いないのかな…)


今度こそ手詰まりかと思ったが、光の机には勉強道具があるみたい。


(ちょっと席を外しているだけみたい。)


もう少し待ってみよう。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



(まだかな?)


結構待っても戻ってくる気配がない。


(もう戻れないのかな…?)


どれだけ悲しんでも、涙は流れない。


(おなかすいたな…Gって何を食べるんだろ?)


諦めてそう考えていた時、私の身体は自然と動いていた。


(え?)


目の前にあるのは髪の毛。

これを食べろと?

神様、流石に酷くありませんか?


(うぅ…光、早く戻ってきてよぉ…)


そんな願いか届いたのか部屋の扉が開いた。

扉を開けたのは多分光だ。


(光!私だよ!助けて!)


光はこちらを見て、一度固まった。


(もしかして、通じた!?)


やはり私達の心は繋がっているのかもしれない。

光は部屋の扉から廊下へ戻っていった。


(光のお母さんとお父さんにも相談するのかな?もしかしたら私も元に戻れるかも。)


光が戻ってくる。

手には筒状のものを持っているみたい。

カチャカチャと振っている。


(光、放課後って言われてたけど、私も光のこと…)


《プシュゥゥゥー》


(…え?)


身体が寒い。

光に何かをかけられたみたい。

そんな、私の言葉、伝わってなかったの…?


私の意識はそこで覚醒した。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「うわぁ!!」


跳ねるように飛び起きた。


「ゆ、夢…?」


目の前にはいつもの風景。


(良かったぁ…)


「ちょっと、みーちゃん!?どうしたの?」


お母さんが勢いよく扉を開けた。


「あっ、ごめん。ちょっと夢を見て…」

「なんだ、そうだったの。お母さんびっくりしたわよ。朝食出来てるわよ。」


そう言ってお母さんは戻っていった。

いつの間にか目覚まし時計も止めていたみたい。

私は学校の制服に着替え始めた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



朝食も食べ終え、家から出ると、女々が立っていた。


「おはよ!」

「おはよう。」


いつも通り一緒に登校しようとしたところで、後ろから扉の開く音がした。


「あっ…」


私を見て立ち尽くす光。


「お、おはよう。お、俺、急いでるから。ほ、放課後に、またな!」


走って行ってしまった。


「わぁ!ミツ良かったね!放課後だって!」

「…うん。そう、だね…」


昨日とは正反対に私の心は沈んでいた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



放課後、今日も教室に残っているのは2人だけ。

だが、昨日とは相手が違う。


「蜜音…」

「…うん。」


光が頬を染めている。


「俺、お前のことが好きだ!」

「…そっか」


光の言葉を噛み締めて、告げる。


「ごめんなさい。」

「…えっ?」


予想外だったのか、光は目を丸くしている。


「私、生き物の命を大切にしない人って嫌いなの。」

「どういう…?」

「それじゃ。」


私は教室を出た。



仕方がない。

夢の中の事だったのはわかっているけど、あの明晰な夢は、そんな軽いものではなく、私の心に大いに影響を与えてしまった。


「殺された瞬間の事、覚えてるし。」


夢の中でだったが、あの恐怖はそう簡単に忘れられるものではない。


「それに…」


大事な時に、心を通わせることもできない人と、付き合う気はないの。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



家に帰ると、今日も夕食の匂いがする。


「おかえりなさい。もうすぐできるわよ。」

「はーい。」


手を洗い、部屋に荷物を置いたところで、異物に気がついた。


()()は、机の上にいた。


《カサカサカサカサカ『バシンッ』…》


「あっ!つい…」


近くにあった雑誌で潰してしまった。


「お母さーん。」


私はお母さんにどうにかしてもらおうと、部屋を後にした。


《…ピクッ》


《カサッ》


《カサ》《カサ》《カサ》《カサ》《カサ》《カサ》《カサ》

《カサ》《カサ》《カサ》《カサ》《カサ》《カサ》《カサ》…




《了》

最後までお読みいただきありがとうございます。

思いつきで書いてしまいました。


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