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【2】とりあえず説明して下さい。(混乱が極まり始めていますよ…?)



 どうやら、人生には予想も出来ないようなことが起きるそうです。

 そう。

 竜から求婚とか求婚とか求婚とか。



***



 「俺と結婚してくれと言われましてもねぇ」


 そんなの無理に決まっています!!

 理由……?

 相手が人外だからに決まっています。


 「あなたは竜で私は人間。しかも、初対面。ありえなさすぎますから!!て言うか、怪我!!問題はそっちですよ!!」


 こうして話している間にも、竜さんの綺麗な腹部からは血がだらだらと。うわぁ!!やばいです。

 ルア、ライ、お願いだから早く来てください!!


 『俺たちは初対面ではないぞ?俺たちは十年前にーー』


 「すとおおおおっぷ!!」


 小首を傾げた竜さんの言葉をかき消すかのようにその場に現れたのは待ち焦がれた人たちでした。

 転移の術を行使し、私を守るように竜さんの前に立ちふさがったのはルア。そして、非常に険しく、怖いとも言える表情をし、腰に装備していた剣を抜刀したのはライです。


 「死にたくなければ余計な事は言うなよ。ーーいいか?お前はアナスタシアに治療してもらったらすぐにこの森から出て行け。そして、何の用か知った事ではないが、さっさと竜の国に帰れ。ここはお前が来ていいところじゃない」


 「そうだ。竜なんかがアナスタシアに干渉するんじゃない。お前がここに現れた理由にはレイシス様……、それに竜王も関係しているんだろう?ーーようやく手に入れた俺たちの平和な日々を壊すな」


 いつになく不穏な気配を漂わせる二人の声と表情は険悪そのものでした。

 やはり、この竜さんと知り合いなのでしょうか?

 二人の言葉を聴き、呑み込んだ竜さんでしたから。

 ただ、三者の間にあるのは一触即発の気配。

 竜さんの目が細められます。


 『レイシスごときの人形なんかに興味はない。失せろ。俺が今……いや、これからの人生に必要としているのはこのアナスタシアだけだ』


 一瞬、二人に冷たい目を向けた竜さんでしたが、私を見るとすぐに優しく微笑みました。


 『俺はずっとお前を求めていたんだ。十年前から。けれども、邪魔が幾度も入り、お前に再会することが出来なかった。だが、ようやく会えた。そして……』


 甘さを孕んだ声で言葉を紡ぐ竜さんの体が突如、神々しいまでの光を放ち始めました。

 え……っ!?これは何事ですか、竜さん!!

 そう叫ぼうとした私でしたが、目の前に生まれた光景に意識が奪われてしまいました。

 ーー何てことでしょう。


 「これでようやく、お前を俺だけの伴侶にすることが出来る。俺の悲願が今、叶うんだ。世界よ、歓喜するがいい」


 どこか傲然と言葉を発した竜さんーーいえ、あの。

 あなた、さっきの竜さんですよね?だって、声が全く同じなんですから。でも、そのお姿は??

 私と距離を詰めてくる青年。その見目姿は大変素晴らしいです。

 腰まで伸ばされた綺麗なストレートの銀の髪は首元で緩く括られており、胸元に流されています。そして、何といっても目元が……そうです。思わず目を背けたくなるほど官能的なのです。赤い柔らかな瞳は伏し目がちで、そこに長い前髪が掛かっていて……なんかもう!!色気がすごいのです。

 それでもって、長身痩躯の美形。美形。美形です。

 うざいと思いますが、もう一度。

 美形。


 「しかも、服装まで大変素晴らしいとか本当になんなんですかっ」


 全身を金の細やかな意匠が施された丈が長めの漆黒のジェストコールで包んでいるという時点でなんかもうかっこいいのですが、程々にはだけた胸元から見える適度についた筋肉がまた……っ!!色気倍増ですよ、これは……っ!!

 しかも、腰、そして服越しに左太ももに巻きつけたベルトがオシャレで。

 ばっちり、優れたスタイルをアピール出来ていますよ。


 鼻息を荒くして青年のファッションを堪能している私と反対に、青年の歩みを邪魔したルアとライはそれぞれの武器を彼に突きつけました。


 魔術を得意分野とするルアは生み出した氷の刃を。

 剣術を得意分野とするライは抜刀していた剣先を。


 だけど、それらは。


 「鬱陶しいぞ……。俺を不快にさせるな」


 青年が軽く右腕を振ると、一瞬にして消えました。

 跡形もなく。


 「……ちっ、さすがはあの竜の双子の片割れなだけはあるな。次は本気で行くぞ」


 そのかわいらしい顔に苛立ちを孕ませたルアは再度魔術を放とうと試みる動作をし始めました。ライも剣を構え直して斬りかかろうと。

 ーーですが。


 「ま、待ちなさい!!」


 さらに火花を散らせる三者の間に私は勢いよく割り込みました。


 「なんで血なまぐさい事をしているんですか!!ルア、魔術を使うのはやめて下さい。ライ、早く剣を納めて下さい!!あなたもほら、殺気を放たないでくださいよ。めちゃくちゃ怖いです」


 これ以上、私に冷や汗をかかせないでください。

 お願いですから。本当に怖いんです。


 そう懇願すると、青年が即座に物騒な気配を漂わせるのを止めてくれました。

 ですが、ルアとライは私を一瞥した後にわずかに戸惑うような表情を浮かべましたが、それはすぐに消え、次には先刻と同様のものが貼り付けられていました。


 「何でですか!!やめてください、戦いなんて」


 「ごめん、アナスタシア。こいつはどうしても殺さなくてはいけないんだ。でも、君にそんなとこは見せたくない……だから、先に家に戻っててくれないか」


 「俺からもそう頼むよ」


 「ライまで!!」


 何てことでしょう。

 この二人、本気でこの青年を仕留めるつもりみたいです。


 「もう……!!ほんとに何なのですか!?ばかぁ!」


 もうこうなったら、実力行使で行くしかない!!

 今まで彼らに一度も勝ったことが無いくせにも関わらず、思わずそう意気込んで、拳を振り上げた時でした。


 「アナスタシア……」


 耳元で甘い声がしたと思うと。


 「!?」


 アナスタシアの腰に細くも逞しい腕が回り、彼女の細い肩にさらりと、長い銀の髪が落ちた。


 「やっぱり、まだあった。嬉しいな…」


 気づけば、私をを抱きしめる青年が彼女の鎖骨下に手をかざしていました。


 「あの時、お前に渡した俺の【竜冠】……。ここにまだ、息づいているようだ」


 彼の腕から逃れようと咄嗟に身をよじっていたが、青年の腕は力強く、ビクともしませんでした。

 そうしている間に、青年が服の間から覗く鎖骨をなぞるように指を動かしていました。


 「……っ!?」


 どこ触ってるんですか!!この変態!!、と叫びたかったが、次に起こった現象にその叫びは飲み込まれた。

 青年が触れたところから突如、陽光の様に強烈なそれでいて、どこか神秘的な光が放たれ、視界を奪われました。


 「……!!」


 ルイとライの呻き声も聞こえ、そして、背後の青年からは感嘆にも似た声が漏れました。

 やがて。


 「ああ、これでお前は本当に俺の妻になる。どれだけ、この日を待ち望んだか、お前には分からないだろう?なあ?アナスタシア」


 ちかちかする視界に苦しみながらも、瞼を持ち上げると、そこには。


 「……な、何なのですか。これは……!!」


 私の鎖骨下に、純白の丸い宝石の様な物が浮かび上がっていました。

 きらきらと輝きを放つこれは、


 「……真珠?」


 「違う。これは、俺の【竜冠(りゅうかん)】だ」


 りゅうかんーー?

 それは、一体……と恐る恐るその【竜冠】とやらに触れると。

 何故か、蕩けるような笑みを口許に刻んだ青年が衝撃の言葉を発してくれました。


 「【竜冠】は、俺たち【竜神族(りゅうじんぞく)】の命そのものだ。俺たちは未来永劫共に生きる為に、自身の伴侶の体にこれを埋め込むという習性があるんだ」


 命。

 命。

 命……ですって!?


 なんて物を私の体に!!

 て言うか、あなた、やっぱり先ほどの竜さんなんですね!?なんか、さっきまで流れてた血が止まっているんですけど。すごいですね、優れた再生能力でもあるのでしょうか。って、そんな事はどうだっていいのです!!

 問題はこっちです。


 「なんで、私にこんな物を埋め込むのですか!?それに、私をあなたの伴侶にってーー」


 「()、埋め込んだ訳じゃない。お前は記憶を失っているから覚えていないが、ーーアナスタシア」


 説明をし始めた青年ーーもとい、竜さんでしたが、何故か言葉を一度区切り、私の耳元に唇を寄せて来ました。


 「お前にこれを埋め込んだあの時(・・・)から、お前は俺のものだと決まったんだ」


 甘い囁き。

 まるで、絵本に出てくるような美しい悪魔の妖艶な微笑み。

 腰に回された細くも逞しい腕に力がこもり、私への強い独占欲が自惚れではないことが分かります。


 美しく、凄艶。


 それがこの竜さんに抱いた最初の印象でした。


 彼から醸し出される色気。

 彼の瞳に宿るどこか仄暗ささえ感じる恋情の火。

 ーーそれらに当てられ、私の脳は正常な働きができなくなってしまっていました。



 だから、私は気づいていませんでした。





 いつも優しく甘いルアが暗みを帯びた目を私に向けていたことに。

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