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【1】求婚されました。(ぶっ飛びすぎでしょう…?)

「ーーアナスタシア、君は彼らに選ばれた(・・・・)。だから、私は貴女から彼らを消す」


 私はたまに同じ夢を見ます。

 夢景色にあるのは、灰色のローブを着た知らない男の人とーー幼い私。


「私を恨んでくれても構わない。これは、貴女にとって嫌な事なのだから。でも、これはあの方が望まれた事。だから、私は貴女から彼らを消す」


 許してくれ。

 そんな事は彼は一言も言いません。ただ、あの方の為、と繰り返します。


「さよならーーアナスタシア」


 私はこの言葉の先にある結末を知っています。だって、この夢は何回も見ているから。


ーーそう。


 私は気絶するのです。


***


「アナスタシアーー ! !あったよ、フランの葉!」


「えっ、ほんとうですか!?ナイスです、ルア!!」


「ふふ、ここにいっぱい生えてるよ!」


 私はカータの森に差し込む陽光の下で私を嬉しそうに呼ぶルアの元に駆けます。

 ルアの隣にしゃがみ、彼がここだよと指差した所を凝視します。途端、目を輝かせてしまいました。


「すごいすごいです!!ルア、間違いなくフランの葉です!うわぁ、ほんとにすごい!嬉しいです。これで本に書いてある幻の秘薬を作れます!」


「ふふ、すごいはしゃぎ様。でも、これでアナスタシアの薬学師になるって夢に一歩前進したね」


 そうなんです。

 実は、この緑一色のカータの森に住む私、アナスタシア・ミセルは、薬草を使って薬を作るーー薬学師を目指しているのです。

 でも、まだ薬学師の卵にしか過ぎなくて、日々努力に励んでいるのですがーーまあ、危うくボロい我が家を燃やしそうになったとか、活動時に数分に一度は爆発音を森中に響かせて今ではすっかり動物達に怯えられてしまっているとか、そんな余計な話はしないでおきましょう。うん、そうしましょう。


「おかげでライの元に気持ちよく帰れそうですね!」


「そうだね。あいつの美味しい昼ご飯が食べられるよ。はあ、お腹すいたぁ〜」


「ご苦労様です、ルア」


 見上げた先にいるのは、ルア・カーティス。

 私と同じ17歳の少年で、7歳の時からずっと一緒にいる幼馴染みなのです。実は、私達は両親が他界しているもの同士なので、一緒に住んでいたりします。

 肩下辺りまでのばされた白髪の髪は首元で括られており、私の労いに柔らかく細めたその目はどこか神秘的な金色。背丈はとても高く、見上げる私の首が痛くなるほどです。

 それでもって、非常に整った顔をしているのです。むかつきますよね?私の方は平凡という言葉がピタリと合うようなのっぺり顏なのに。あまりにも理不尽ですよね。くそう。


「じゃあ、早く帰ろう!!」


「うわっ!!」


 突然、ルアに抱き上げられました。それも、お姫様抱っこです。以前、読んだ本の中で悪者に連れ去られたお姫様が助けに現れた王子様にこんな風に抱かれてたシーンがありましたが……とても恥ずかしいです。


「じゃあ、転移するからね〜」


 そう言ったルアは片手で虚空に魔法陣を描き始めました。文字通り、転移をするようで、探し求めていたフランの葉を得た今、目的を果たした以上ここに滞在するのは終わりです。だから、私達が住んでいる家に戻ります。あ、実はこの世界には魔法があって、魔法を使える人のことを魔術師というのですが、このルアもその一人なのです。あ、ちなみに私は使えません。


「ぎゃああああっ!!」


そして、転移は目が回るのです。

……うぅ、気持ち悪い。



***



「おっ、やっと帰ってきたな。おかえり。アナスタシア、ルア」


「ただいま!!」


「ただいま〜」


 我が家に帰ってくると、ライが爽やかな笑顔で私達を出迎えてくれました。

 彼はルアと双子なのですが、容姿は反対です。黒の短髪に金色の目をしています。あ、反対なのは髪色とその長さだけですね。実は彼も美形です。それも、どこか野性味のある色香があって……ルアはかわいい系の美形ですが。彼の手には木製のフライ返しがありますが……一体、どんな料理が待っているのでしょうか。自然でできた小さな我が家からはほのかな甘い香りが漂ってきます。


「今日の昼メシはアルゴの実のシチューとチェリーパイだ。結構腕を使ったんだぜ?」


「チェリーパイ!!」


 鼻をひくひくさせていると、苦笑したライがウインクをして衝撃発言をしてくれました。

 チェリーパイ!!

 なんて甘美な響きなのでしょう。名前からして美味しいのですが、あの芳醇さはたまりません。チェリーパイ、最高です。そして、あんな美味しいものを神業とも言える速さで作れるこのライも最高です!!

 ルアもとっても嬉しそうにしています。


「早く食べましょう!!」


 まっすぐにシチューとチェリーパイが待っているだろうテーブルを目指そうとした時でした。


『 ーーアナスタシア』


 突然、頭の中に一滴の水が落ちるかのように私の意識を引き付ける声が落ちてきました。


「え…?誰…っ!?」


「アナスタシア?」


 驚きの声をあげた私にルアとライが怪訝そうにしていますが、私は彼らに答えることなく、気づけば家の外に出ていました。

 何故か、この声の主の元に行かなくてはいけない気がしたのです。


「どこにいるのですかっ!?」


 声主に居場所を尋ねるべく、森に向かって叫ぶと。


『……エイフィスの木だ』


 帰ってきた声は弱っていました。苦しさに喘いでいるような。

 その返答を聞くと、私はエイフィスの木がある方へ駆け出しました。

 着ている長いスカートを翻し、全速力で無我夢中で走ります。エイフィスの木がある方へと。

 アナスタシアっ!! と私を追ってきたルアとライに振り向きもせず、ただまっすぐと。

 やがて、森の奥から陽光よりも強烈な光が私の視界を奪いました。


「うぅ…!!なに、この光!?」


 正直とても辛いです。

 何しろ、目を刺すような光ですから。

 ですが、この先に私に語りかけてきた人がいると思います。何故でしょう。不思議とそんな気がするのです。

 ーーどのくらい走ったのでしょうか。

 息が切れるほど全速力で走って着いた所は薄紅色の蕾をたくさん付けた大きな木々がある所です。

 これはエイフィスの木と言って、家に所持してある本によれば、このカータの森にしか生きない木だそうです。超、超、レアな木なのです。

 しかし、今はそんな事どうでもいいのです。


だって、目の前に白い竜がいますから!!


『アナスタシア…よく来てくれた。感謝する』


 優しい声音を私の脳に響き渡らせたこの竜は、まちがいなく先刻、私に語りかけてきた方らしいです。

 しかし、驚きました。

 まさか竜だったとは。

 竜なんて初めて見ました。

 本によると竜は人間が住まう所にもたまに現れるようなのですが、不思議とこのカータの森には姿を現してくれませんでしたので。


それにしても、なんて綺麗なんでしょう。


 森を貫きそうな巨大な体躯を覆う銀にも似た白の鱗はきらきらと輝いていて、折りたたんである同色の翼もとても艶やかです。竜独特の縦長の瞳孔が入っている目は真紅色に染まっていて、しかし、血というより咲き誇る薔薇を思わせます。


「はじめまして、竜さん。どうしてこんな所にって……ええ!?」


 驚きの声をあげずにはいられませんでした。

 それもそのはず。

 神々しい目の前の竜さんは横腹部から血を流していたのですから。それも、たくさんの。


「竜さん!?この傷は一体…いや、それより手当です!ちょっと待っててください。今、手当の準備をしますから」


 幸いにも私は薬学師。

 薬の調合はお手の物です。


『いや、たいした事ではない。放っておいてい…』


「何を言ってるんですか!!あなた、怪我を甘く見てるんですか!?どんだけ馬鹿なんですか。ありえません。ここは大人しく私に従っておいて下さい!!」


 遠慮する竜さんに目を吊り上げ、戸惑いを浮かべた竜さんを後にして薬草を探しにいこうとした時でした。


「アナスタシア!!」


 私が駆けてきた方から二つの私を呼ぶ声が聞こえてきました。

 そして、疾風のごとく私の前に現れたのは。


「ルア、ライ!!」


 白と黒。

 対極の二人でした。


「アナスタシア、急に走って一体どうしたんだ?って、え……!?」


 普段は滅多に驚かない実は強者であるルアとライが私の背後にいる存在を見て、目を見開かせました。

 やはり、私とこの森で暮らすこの二人も同じように驚いてしまうくらいこの森にとっては異常な出来事だったんですね。


竜さん、あなたの出現は。


「な…っ、竜だと!?しかも、お前は…っ!!」


「よせ、ライ!ここにはアナスタシアが居るんだ。口を滑らせるな!!」


 ライがいかにも知り合いーーそれも、まるで天敵にでも会ったような顔つきになったのですが、ルアが鋭く咎めます。

一体、この二人はどうしたのでしょうか。


「ルア、ライ…どうしたの、ってこんな事訊いてる場合じゃなかった!!二人とも、私に協力して下さい。オルハの葉とハディスの根を取ってきてください!!それらは私達の家にありますから。竜さんが酷い怪我をしているんです!!」


「え…?いや、けど…」


「早く!!」


 戸惑う二人でしたが、有無を言わさず命令口調で促しました。

 私の声に押されたのでしょう、二人が転移の術を行使して私達の家に向かってくれました。

 ごめんなさい、叫んでしまって。でも、それほどこの竜さんの傷は深いようなんです。

 私は二人が薬草を持ってくるまでこの竜さんの様子を見ておきます。


「ちょっとだけ待ってて下さい。すぐに手当をしますから」


『いや…、ほんとうに大丈夫なんだが』


「黙ってて下さい!!」


 しゃべって傷口が開いたらどうするんですか。命取りになりますよ。不要なおしゃべりは。

 私の怒鳴り声に心なしか竜さんがしょんぼりしたかのように一度頭を下に下げましたが、すぐに私を見ました。


そして。


『アナスタシア、俺と結婚してくれ』


「だから、しゃべらないでって言ってるでしょう!」


ーーって、え……??


今、なんと?


『やっと見つけた。俺の伴侶。俺の“ つがい ”…これで、ずっと一緒に居られるな』


竜さん、あなた本当の馬鹿なんですね。



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