序
遠い、未来の話である。
幾つもの時を重ねた先に、人類に痛めつけられた地球は、とうとう反撃に出た。
ある地域では地震が、ある地域では旱魃が、ある地域では長雨が、ある地域では火山の噴火が、人々を襲った。まさに天からの災いである災害に、人々が重ねた文明など、太刀打ちできるものではなかった。
しかし、それほどの天災に見舞われながら、まだなお人々は互いに争うことを止めなかった。
いやむしろ、天災から逃れるためであるかのように、人々は互いに争い合った。
世界中で、多くの国が亡び、興り、そしてまた滅びた。
そのたびに人の数は減り、文明は姿を消し、確かに分かっていたはずの世界の理は闇に溶け、いつしか人々は、自らが暮らす大地以外の知識を失っていった。
そんな、混乱の世。
一人の男が現れた。
男は、その力で人々をまとめ上げ、混乱の世に終止符を打った。
人々に向かって争いの無意味さを説き、隣人への愛を謳う。
そして、男は王ではなく、神となった。
彼の言葉は「教え」として人々の間に広まり、「教え」をもとに世界の秩序が打ち立てられた。
「教え」を伝えるのは、寺院。そしてそこに属する僧侶たち。それが、世界の基盤となった。
男の死後、「教え」は様々な解釈を生み、多くの寺院とそれに属する僧侶を生んだ。様々な宗派に分かれた寺院は、結局また争いを起こし、それさえも「教え」の一環と自らを擁護した。
しかし、その中で一つだけ、どの寺院とも一線を画す寺院が存在する。
いつしか『始祖』と呼ばれるようになった男が、唯一建てたと言われる寺院。
人々の住む大陸の中央、今では世界屈指の高地となった土地、その中ほど辺り。いくつかの崖を越えた上に、その寺院は在る。
世界の寺院の、始まりの地。
そこに建てられた寺院は、世界の全ての権威をその眼下に収めて、建つ。
全てを統べる、至高の寺院。
誰が呼び始めたか、かの寺院だけは他と全く違う名で呼び習わされている。
その名も、天上の教会。
威容を誇るその寺院に、彼が現れたのは、教会暦766年のことであった。