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「報告、ご苦労。下がって良い」
「はっ。」
上官室。
報告を終えたソウは、サクとアキの元へ急ぐ。
結局。
あのマークの部分の皮膚だけ持ち帰り、報告した。
明らかに人為的とは言うものの、何が書いてあるかは読めない。
だが確実に文字なのだ。
誰が見たってそう言い切れるくらい。
「ーーーーーサク!」
部屋の扉を開ける。
そこには、何やら本を呼んでいるサクがいた。
「…あれ。アキは?」
「いつもの所じゃない?」
「あー…」
いつもの所、と言われ、ソウは頭を掻いた。
アキは、慣れ合おうとしない。
誰にも、ソウ達ですら。
それほど、ここに来る前の出来事が酷かったのか。
ソウ達三人、「cherub」は孤児の中でも特にひどい境遇の持ち主だった。
ただ捨てられた訳ではなく、三人共ニュースになったり、中には極秘であるほどの虐待を受けていた。
ソウは荒れ、反抗し、
サクは常にビクビクして、
アキは表情が無かった。
そんな三人が集まった時、なにか通じる物があったのか。
周りに神経を尖らせていたソウも、なにか動けばビクビクするサクも、人前では絶対に寝ないアキも、
三人では、仲良く寝た。
それから少しずつ、少しずつ打ち解けた。
だが。
アキは、その後もどこか一線引いていた。
アキはたまに笑う。
でもその後、少し切なそうな表情をする。
そして、どこかへ行く。
最近は、笑顔ですら見せなく、自由時間は一人で行動する事が多い。
「…よんでくる。」
そう呟き、ソウは屋上へと向かった。
ソウが消えた扉を、サクは溜め息をついて見ていた。
ーーーーーー
「アキ!」
そう小さく叫んで屋上の扉を開ける。
すると、目の前にアキが倒れていた。
ぎょっとしてアキの元へ急ぐと、ただ寝ているだけな様子だった。
少しホッとし、上着をアキにかける。
「……ないで…」
「?」
「いかないで……」
目は閉じているから寝言だ。
だが、その目から一筋の涙があった。
「……アキ。」
「………あ。」
苦しそうな顔をして呻く。
ソウは頭を撫でてやった。
「…………アキ。俺達は、どこにもいかない。大丈夫だよ、大丈夫」
だから、
だから、いつか
本当の家族になろう。
三人で。
ーーーー
「やっときたー。おそい!」
サクが膨れながら言う。
「…悪いな。」
アキは寝起きのだるそうな表情。ソウがアキの腕をつかんでいるのを見て、サクは少しだけ表情を緩めた。
「さて。本題に入ろうか」
サクの隣の机に座り、置いてあった紅茶をすすりながらソウが呟く。
「さて…って。いいけど。
先ほど僕達が見つけた何かのマーク。あれが解明された。」
「ほう。」
アキは寝起きのだるそうな表情。ソウがアキの腕をつかんでいるのを見て、サクは少しだけ表情を緩めた。
多分…これは組織名だと思う。今まで先輩達が倒したサクジンの遺体の写真をよく見直すと、何体かこれと同じマークがあった。」
「…組織?」
ソウが反応する。
「そう。考え直すと、サクジンが発生した経緯も不自然なんだ。今から17年前の年、"消された一年"の事は習ったよね。」
「ああ…災害や戦争とかが起こりすぎて、あまりにも沢山の物を失ったと言われる…」
その時、自分は一才。アキが生まれ、サクはまだお腹にいたころだ。
「酒井ミズキはサクジンが発生する前後の四年間、研究所からいなくなった。その研究所では、実験体として人が使われていた。そしてその責任で政府に追われ、捕まって処刑されたんだ。
その酒井ミズキがいた研究所が、aspiration。」
「!…つまり、酒井ミズキが…」
「…考えたくはないけど、サクジンを作ったのかも知れない。」
ソウがぎり、と奥歯を鳴らす。
「僕は酒井ミズキについて調べるように言われた。アキとソウは、少しでも生き残る確率をあげるため、さらに訓練していて。」
「うっ」と、ソウが小さく声を漏らした。
そこには朝から夜まで今までより更にハードな訓練内容が書かれていた。
「…分かった。私達は、訓練頑張る。だからサク、頑張って。」
アキが差し出された紙を受け取りながらそう言った。
「うん。アキ達もね」
サクが人懐っこい笑顔で微笑む。
ソウは少し穏やかな気持ちになる。
「じゃ。検討を祈る」
ソウが呟き、三人は部屋を後にした。