軽音部コンサートチケット
軽音楽部。
そこに、噂の中井先輩と言う人がいると言う事は、もう私も知っている。
ギタリストらしい。
軽音と言うくらいだから、ロックかなんかなんだろうけど、私はその手の音楽には疎い。と言うか、興味がない。
私が所属しているのは茶道部。と言っても、実は幽霊部員。
部員数確保のため、美由紀に誘われるままに入部しただけ。
実際に部活にはほとんど参加した事がないのは、言ってはいけない事実。
軽音部が市内の小さなホールを借り切って、コンサートをするらしい。
そのチケットの販売は文化部に協力要請が回ってくるのが恒例と言う事だった。
茶道部への割り当てから言って、幽霊部員でありながらも、私のところにも5枚のノルマが割り当てられてしまった。
1枚500円。これを500円で買って、500円で捌かなければならない。
しかも、お金は前払いで、すでに私はなけなしの2500円を支払っている。捌けなければ、損を被ると言う事になってしまう。
とは言え、中井さんがいると言う事もあって、欲しいと言う友達は多いので、捌けないと言う事は無さそう。
すでに3枚は友達に引き渡し済みで、1枚も引き受け手は決まっている。
その一枚を智美が受け取りに来た。
高校に入ってからのクラスは別々だけど、智美は中学の頃からの友達だ。どこで仕入れたのか、幽霊部員のはずの私が茶道部だと聞きつけて、チケットを売って欲しいと言ってきていた。
よほど楽しみなのか、にこにこ顔全開だ。
「まどかぁ。500円だったよね」
「そうだよ」
私は机にしまってあったノートを取り出すと、そこに挟んであった封筒を取り出した。
封筒からチケットを一枚取り出して、残ったもう一枚を封筒に押し戻した。
「はい」
智美に手渡した。智美が500円玉を私に渡して、商売は完了。
そんなやり取りを見ていた容子が駆け寄ってきた。
「まどか。それって、軽音部のコンサートチケット?」
いつものかわいい仕草はどうした? と言いたいくらい真剣な顔つきだ。
「そうだけど」
「まだあるのかなぁ?」
両手の指を口のあたりで絡ませ、首を傾げて見せた。
「あるけど。最後の一枚」
「売ってくれるぅ?」
「お金払ってくれるんなら、別にいいけど」
別に誰に売っても、同じ500円。私が支払ったお金が戻って来るなら、それは誰だってOKなだけに、完全に売る気になっていた。
「マジで? 最後の一枚なのに?」
智美は驚いた顔つきになっている。
マジ信じられない。そんな感じだ。
売らない方がいいほどの何か理由があるの? そう思わずにいられない。
「なんで?」
「だって、それが無かったらコンサート見に行けないんだよ」
「いや、行かないし」
「うちの軽音だよ。中井先輩だよ」
「知ってるよぅ」
「なんで、なんで?」
「私、ロックにも中井先輩にも興味ないし」
そうなのだ。ロックにも興味はないし、中井先輩と言う人も知らないし。
もしも、それがお兄ちゃんだったら、ロックに興味が無くてもいくかも。
いえ、お兄ちゃんがロック好きだったとしたら、私も好きになっていたはずだ。
そんな時、ふとあの将之さんの顔が一瞬よぎった。
あの人のコンサートだったら、私は行ってみたいと思うかも知れない。
「ねぇ。早く頂戴」
私の気分が変わらない内にと思ったのか、容子は500円玉を私に差し出している。
「はい。じゃあ、これね」
そう言って、封筒から最後のチケット一枚を取り出して、容子に渡した。
「マジでぇ」
智美はそう言ったけど、 これで私のノルマ5枚は完売。
そんな気分だった。




