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中井さんって、誰?

 私の学校の校則。

 下校途中の買い食い禁止。寄り道禁止。

とは言っても、守ってばかりじゃつまらない。


 そんな事をするのは私たちばかりなんかじゃない。 

 学校と駅のちょうど真ん中あたりにあるこのお店の中には、私たち以外にも、私の学校の生徒たちがいる。

 見覚えのある顔の女生徒と男子生徒。

 上級生の女生徒たち。


 私たち三人は窓側のテーブルについた。

 窓に目を向けると、下校している生徒たちの姿がよく見える。逆に言えば、向こうからもこちらがよく見える訳で、校則違反ばればれである。でも、そんな事は誰も気にしない。


 私たちは予定通り、ジャンボパフェを頼んだ。

 色とりどりのフルーツの隙間を埋める白いクリームと、その下に隠されている濃厚ミルク味のアイスクリーム。

 口に入れる前から、その美味しさが脳の中に甦り、生唾もの。


 「いただきまぁす」


 私はスプーンを手に持つと、さくっとパフェのてっぺんにある生クリーム部分をすくって、自分の口に運んだ。

 美味しい。やはり、ここのパフェは一味、いや二味は違うと、感動に浸ってしまう。


 「うーん、美味しい。やはり、ここのパフェはやめられない」


 そう言った美由紀の表情はかなりのものだった。

 わりとかわいい顔立ちだけに、そんな表情を見せたら、男はいちころなんじゃないかと、私は思いながら、次のクリームを口に運んだ。

 そんな時、突然、ゆかりが叫んだ。


 「あっ!今の、中井さんだ!」


 窓の横を誰かが通り過ぎたのは感じていたけど、元々窓の向こうは道なので、さっきから何人もの人が通り過ぎている。

 いちいち通り過ぎる人の事なんか、私は全然気にしていなかった。

 中井?

 誰それ?

 知らない人だ。

 知らない人を振り向いてまで、見る必要はない。

 ゆかりの言葉から導き出された私の結論。

 私の全神経は、口の中に広がる濃厚でいて、くどくない甘さを堪能する事にだけ集中していた。


 「えっ? 今の?」


 美由紀の口調は少し興奮気味で、立ち上がって窓の向こうを覗こうとしている。


 「残念、顔、見えなかったよぅ」


 美由紀は見ようとしたのに、その中井さんを見る事ができなかったらしい。全くもって、残念と言う表情で、がっくしと椅子に再び腰を下ろした。

 二人の反応からして、どうやらある程度の有名人らしい。


 「誰よ? その中井さんって?」


 私は率直に聞いた。

 その問いに、ゆかりと美由紀から驚きの表情を向けられた。


 「えぇー、まじ? まどか、中井さん知らないの?

 本当にうちの学校の生徒なの? もぐりって言われるわよ」


 そこまで言うか。まあ、この二人が騒ぐくらいだ、きっと、ざ・モテ男って感じのイケメンで、有名なんだろう。

 でも、そんな事は私には関係がない。

 男は見かけだけじゃない。中身も大切。

 そして、もち私のお兄ちゃんは中身だけじゃなく、見かけもいい最強なのだ。


 「そうですか。はい、はい」


 興味ないをアピールするかのように、そう言って、再びスプーンからクリームをすくって、口に運んだ。


 「うちの学校の二年生で、成績優秀、スポーツ万能、ルックス最高のギタリストよ」


 これで、どうよ? って、感じの押しで美由紀が身を乗り出してきた。

 パフェから視線を美由紀に移した。 


 「はあ? ギタリスト?」

 「そう。軽音部でバンドやっているのよ」

 「ふぅん。

 成績優秀、スポーツ万能、ルックス最高なんて、うちにもいるしぃ」


 そこまで言ってから、手にしていた空のスプーンをくるりと回しながら、言った。


 「それに優しいんだから。もう最強よ、最強!」

 「はい、はい。確かにまどかのお兄ちゃんは最強かも。

 私にくれないかなぁ?」

 「何で、そうなるのよ。お兄ちゃんは私んなんだからね」


 美由紀の言葉に、ちょっと本気になってしまって、自分でも痛い奴と思ってしまった。


 「でもさあ、今も女の人と一緒に歩いてたけど、早紀さんだっけ? やっぱり、できているのかなぁ?」


 ゆかりがテーブルの上で頬杖をついて、ぼんやりとした視線を私の頭部の少し上あたりに向けながら言った。


 「そりゃあ、あの人もなかなかきれいだよね。きっと、そうなんじゃない。残念だけど。」

 「そっかぁ。やっぱ、そうだよねぇ。残念だわぁ」


 二人からマジ残念オーラが放たれている気がした。

 マジで狙ってたんかいと思いあきれ気味で、私は二人の話から外れて、パフェを口に運んだ。

 うーん。美味しくて、幸せ。

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