昼休みの教室
楽しげな声が広がるお昼の教室。
私はパン一個を持って、私の友達たちがお弁当を食べている机に向かって行った。
私の胸の中の何かがいつもとは違う。
それが私の顔にも表れている。そんな気がしてならない。それを友達たちに悟られたくなくて、足を速めた。
早足で近づいて行く私に、友達の中の一人、ゆかりが気付いて視線を向けた。
ゆかりははっきり言って、体型がいい。所謂、出るところが出ていて、へこむところがへこんでいる。
それに加えて、明るく、笑顔を向けられると微笑み返さずにいられないほどの兵器級のかわいさだ。
容子とクラスの男子の人気を二分している。
でも、ゆかりの性格はストレート。自分のまま、素直に生きている。そんな感じのところが、私は好き。
「お帰り、まどか」
ゆかりが私にも兵器級の笑顔で言った。
私の挙動に不審を感じてはいなさそう。とりあえず、表面上は問題無しのよう。
「あ。うん」
そう言いながら、椅子を寄せてみんなの輪の中に加わって、買ってきたばかりのパンを机の上に置いた。
「あれ?飲み物は?」
そう言ったのは美由紀だ。
ウェーブが少しかかった髪と、少し小柄な体型は背の小さな子が好きな男子を引き付けていると私は感じている。
そんな美由紀が少し不審げな表情で私を見ている。飲み物を買うのを忘れた事で、そんな視線を向けているのであって、私の胸の中の違和感を見透かしているのではないはず。
「うっかりしてたみたい」
ちょっと作り笑いをしながら、そう言った。
何だか、逃げ去るかのようにあの場所を離れたくて、飲み物の事はすっかり忘れてしまっていた。
突然の出来事で、動揺してしまった。それが正直な気持ちだ。
座って、パンを手に取った。
「でさぁ、さっきの話の続きなんだけど」
みんなの話が再開された。
私はそんな話を耳に入れながら、手に取ったパンに目を向けた。パンが無くなる。
そんな焦りから、目の前のパンをとってしまったが、やはりちょっと重そうな感じ。
そんな思いに続いて、込み上げてくるのはさっきの出来事。
男の人の手。
眼鏡の奥の瞳。
そして、あのきれいな女生徒の笑顔。
私は二、三度軽く首を横に振って、パンを一口かじった。
一口、二口かじるたびに、口の中に広がるソースの味。
ちょっと強いソースの刺激もあの二人のイメージを私の頭の中から、消し去ることができない。
まだ、何か引きずっている気がする。
落ち着いて、自分鼓動を感じて見ると、いつもより少し速い。
どうしたの、私?
そんな思いで、自分の世界の中をさ迷っていると、美由紀の声が聞こえてきた。
「で、どうするのよ、まどか?」
「えっ?何が?」
名指しされた事で、現実に引き戻されたけど、何の事だか分からない。
「やっぱり、聞いてなかった」
「ごめん。ちょっと、ぼんやりしてて。で、何?」
「久しぶりに、帰りにジャンボパフェを食べに行かないかって、話よ」
ジャンボパフェ。
学校と駅の間には坂があり、その坂の中ほどにあるカフェの特徴的なメニューの一つ。
地元の山ろくにある牧場の新鮮な牛乳を使ったアイスが美味しく、その量も半端じゃない。
「ええっ!まずいなぁ。あれは美味しいんだけど、量が中途半端じゃないからなぁ」
「何言っているのよ。たまなんだから、いいじゃない」
「二週間くらい前にも、行ったじゃない」
「そんな昔。大丈夫。行こうよ!」
正直、私も食べたい気はあったので、ついついその気になってしまった。
「じゃあ」
私はにこりとしながら、同意した。