将之さんの横に似合うのは
将之さんは演奏が終わると、私たちの前にやって来た。
「どうだった?」
「すごく、よかったです。しかも、こんな近くで見れて、感激です」
私がどう言おうかと迷う間もなく、横からゆかりが本当にうれしそうに言った。
「本当? それは何より、よかったよ」
将之さんはゆかりの言葉にうれしそうに答えた。そして、私の方を向きながら、もう一度聞いて来た。
「まどかちゃんはどうだった?」
「はい。すごくよかったです」
私はゆかりの言葉をそのままぱくって返した。
曲の事は分からないし、曲がよかったかと言われると、趣味じゃない。でも、そんな事はどうでもいい。将之さんがよかった。そう言う事だ。
「本当? それは何より、よかったよ。
じゃあ、もう一曲」
再び演奏が始まった。
そして、それから将之さんたちのバンドの演奏は三曲で終了した。
私たちのところにやって来る将之さん。
「すっごく、よかったです」
まだ何も聞かれていないのに、そう言ったゆかりの瞳は輝いていて、それがお世辞でない事を表している。
「また、聴きにきていいですか?」
美由紀は上半身乗り出し気味だ。
おい! だめだろ! と、手の甲で胸のあたりをびしっとしたいところ。
「だめに決まってんじゃん」
ちょっと、きつい口調の私。
「そうだねぇ。今週は俺たちはもう部室使えないんだけど、土曜にセンター街のハマヤのスタジオ借りて、練習するんだ」
「見に行っていいんですか!」
ゆかりの積極さは羨ましいかぎり。勢いもあって、将之さんは悩む暇もなく、頷いてしまった。
それを見て、美由紀とゆかりは立ち上がり、二人で手をつなぎ、ぴょんぴょんと飛び跳ねて、喜びを体全体で表した。
「はぁー」
本当にいいの? 私はため息をつきながら、将之さんを見た。
「まどかちゃんも、来てくれるよね?」
「お邪魔じゃないんですか?」
「そんな事、ない。ない」
本当に強引。
「なっ!」
振り返って、他のメンバーに目を向けた。喜んで! と言うような表情ではなく、仕方ないなぁと言う感じの表情で、他のメンバーは頷いてみせた。
こうして、私たちは土曜日に将之さんたちの練習を見に行くことになった。
土曜日。
センター街。この街の中心部の繁華街。そこに向かうには電車に乗って行く。
私と将之さんが使う駅は同じ駅。
と言う事は、駅から一緒に行ける可能性だってある。もちろん、早紀さんと将之さんが一緒と言う可能性もあって、その場合は一緒に行くのを諦めるしかない。
全ては天に任せた。
そんな気分で、私は駅の改札口近くで、身を隠す。待ち伏せの気分。
ここから、この街の中心部まで、電車で20分。
駅から、ハマヤのお店まで、徒歩10分。とすれば、もうそろそろやって来るはず。
将之さんが上って来る階段との対角線上と言っていい位置で、壁にもたれて待っている。
そろそろ。そろそろ。そう思ってから、10分。
ギターのソフトケースを背負った将之さんが姿を現した。
一歩。
私の足が踏み出す前に、停止した。
横に早紀さんがいた。
明るく輝くような笑顔。
お化粧もくどくなく、それなのにかわいさパワーアップ。
大人っぽい服装も、似合っていて、それでいてかわいい。
それに引きかえ、私は。
地味と言うより、もしかしたら子供っぽいに近い服装。
もち、お化粧なんかしていないすっぴん。
完敗。元々、勝とうなんて思ってはいなかったけど。
あまりに差がありすぎ。
元々分かっていた事だけど、将之さんの横に似合うのは私なんかじゃなくて、早紀さん。
100人中100人が、そう答えるに違いない。
悔しいけど、認めない訳にはいかない。
早紀さんに話しかけている将之さんも、すごく楽しそう。
二人に顔を合わす訳には行かない。
思わず、二人に背を向け、小走りに駅を出る。
目指すは私んち。家に帰るしかない。
俯き加減で、駅の階段を駆け下りる。
将之さんが私に気付いて、追いかけてくれる。なんて訳もない。
ううん。追いつかれて、こんな私を見せられるの?
ついさっきまで、あんな素敵な早紀さんの姿を見ていた将之さんに。




