部外者入室禁止の軽音部部室
放課後の廊下。
私とゆかり、美由紀の三人が並んで歩く。目指すのは軽音部部室。
二人のテンションは高い。
私はそんな二人に合わせて、笑顔を作ってはいるけど、それほどテンションは上がっていない。
と言うか、緊張感の方が大きく、このままの状況が続けば、胃がちくちくと痛みだしそうな気さえする。
軽音部の部室は斜面に建つ校舎の地下室にあった。
きっと、大きな音を前提にその場所にあった部屋が割り当てられたのだろう。
その地下に通じるコンクリートの階段は駅の階段くらいの幅がある。
駅の階段と違うのは薄暗いところ。
一歩、一歩。階段を降りはじめる。
その先の薄暗い空間のどこかに、軽音部の部室のドアがあるはず。
ドラムの音や歪んだギターの音が漏れ聞こえてきている。
階段を降り切った廊下も薄暗い。
初めて、足を踏み入れる場所。
辺りをきょろきょろと見渡してみた。
左右にドアらしき物がいくつか見える以外はずっと壁が続いている。
そのドアにもガラスは使われておらず、部屋の中は全く見えなくなっている。
最初のドアに近寄ってみた。何か貼り紙がある。
三人で、貼り紙に目を向けた。
「部外者立ち入り禁止」
ドアの上に目を向けると、「軽音部」と札がかけられている。
「本当に入っていいのかな?」
私の言葉にゆかりたちも不安げな表情で戸惑っている。
ドアの向こうからは、激しい音楽が聞こえてきていて、中の様子は全くつかめない。
私たちが戸惑っている内に、聞こえていたギターやドラムの音が鳴りやんだ。
入るなら今。
そんな感じでゆかりが頷くと、ドアをノックして、ゆっくりとドアを開けた。
薄暗い廊下と違い、軽音部の部室の中は明るかった。
それも、天井からの照明と言うより、窓から差し込む自然光で。
斜面に建てられているだけに、地下室とは言え、片側には窓があった。しかも、その窓から、この街が見晴らせるじゃない。
なんと、いい場所なのか。思わず、私はそっちの方に感心してしまった。
「おじゃまします」
控え気味の声で、ゆかりが中に入って行く。
ギターを持っているのが将之さんなところから言って、きっと今、楽器を弾いていたのはホワイト・ノイズなんだろう。
なんとかヴォーカルの近藤さんは分かるけど、他のメンバーは分からない。
将之さん以外の人は、私たちにきょとんとした眼差しを向けている。
「来てくれたんだぁ」
将之さんがかけていたギターを外しながら、言った。その言葉に、その他の人たちが将之さんに問いかけた。
「誰?」
「この前の子?」
ヴォーカルの近藤さんが将之さんに言った。
「そう。まどかちゃん。と、」
将之さんがゆかりたちを知っている訳も無く、そこで言葉が止まった。
「石橋ゆかりです。ゆかりと呼んでください」
「大西美由紀です。美由紀って、呼んでください」
「そ、ゆかりちゃんに、美由紀ちゃん。練習を見に来てよって、言ったんだ」
「将之。どう言うつもりなのよ。ここ部外者入室禁止なんだよ」
私はびくっとしながら、声の方向を見た。聞き覚えのある声。やはり早紀さんだった。
「あん? あれって、本当の規則じゃないだろ?
勝手に入って来ようとする子たちを入れさせないためのもので、いわば魔よけのお札みたいなもんだったじゃん」
その言葉に、ぷっと吹き出しそうになるくらい、安心して心が緩んだ。
「最初はそうだったかも知れないけど、今となってはもう規則みたいなものよ。
一度破ると、あと歯止めが効かなくなっちゃうわよ」
一度緩んだ気分が、また締め付けられる。
「入部検討中と言う事で、見学。なら、いいだろ」
将之さんはにこにこ顔。
険悪な雰囲気にならないようにと言う事なのかも知れない。
やっぱ、来たのはまずかったのかも知れない。
「ふーん。そうなんだ」
早紀さんの唇はとがり気味で、不快感が浮かんでいる。
「早紀が言うとおりだ。そんな事を言って、部外者を入れ出したら、きりがないぞ」
将之さんに非難口調で、部の人が言った。私もその言葉は理解できた。
将之さんは、お札のような貼り紙が半ば本当のルールに化けてしまっているとは思っていなかったようだし、私だって部外者立ち入り禁止だったなんて、この部室の前に来るまで知らなかった。
でも、もうルールになってしまっているのなら、例外をつくると収拾がつかなくなる。
きっぱりと、部外者はお断りしなければならない事は、残念だけど、私だって賛成せざるを得ない。
って、なんで、私って、こんなに真面目なの? 私って、本当ばか。




