かわいい仕草なんて、私には無理
「ねぇ。まどか。次の数学の宿題なんだけど、写させてくれない?」
一時限目の国語の授業が終わると、クラスメートの容子が机に座っている私のところにやってきて、拝むような素振りをしながら言った。
どちらかと言うと、この子はかわいい感じの仕草をよくする。
しかも、少し丸い感じの顔つきも、大きな瞳にはピッタリな感じで、黒くストレートな背中まである髪も男子をひきつけるのか、かなりの人気だ。
私もかわいい仕草をしてみたいと思わないでもないけど、私には無理。キャラが違いすぎる。
もっとも、私がこの容子のようにモテモテでないのは、そんな仕草ではなく、私自身が地味でかわいくないからに違いない。
それだけに、私がそんな仕草をしたら、痛いに違いない。
「いいけど。宿題やってないこと多いよね」
別に容子の人気にひがんでいる訳でも、妬んでいる訳でもない。宿題を見せてと言うのがあまりに多すぎるので、私の口調はちょっときつかったかも知れない。
そんなところを敏感に、そして過剰に容子は感じ取ったようだ。
「まどか、怒ってるぅ?」
「怒ってないわよ」
怒っていないのに、怒っている? と聞かれて気分はいいものではない。私の表情はちょっと、むっとしていたようだ。
「あーん、やっぱ怒ってるぅ」
胸のあたりで両手を合わせて、少し首を傾げ、口先を尖らせた表情。私に見せてる訳ではないはず。周りを気にしての仕草に違いない。
そんな容子に近くにいた男子が反応した。
「何だ、何だ?
藤原、宿題くらい、見せてやれよ。減るもんじゃないし」
クラスメートの山下が横から、口を挟んできた。
私は感づいていたけど、こいつも容子の事が好きな男子の一人だ。
「困っている人を見たら、助けるのが当然だろ」
山下はそう言って、容子に「なぁ」と頷いてみせた。
容子は山下にありがとう的な視線を向けて、小さく頷いてみせた。
ノートを見せないとは言っていない私に、宿題を他人に見せてもらおうとしている容子。逆でしょと思わない訳ではないが、なぜだか私が悪者みたいな扱い。
いつもの事だけど、結局、かわいい子の前では私のような者が損をする。
どうしてこうも男子は見た目のかわいさに弱いのか。全く。
「ノートを見せないなんて言ってないでしょ。でもね、宿題って言うのは自分でするものなのよ。人のを写して何になるって言うのよ。それは時間の浪費なだけよ」
私は言いたい事を言って、ノートを容子に差し出しながら、山下を睨み付けた。
「おお、怖い。お前、そんなんじゃあ、もてないぞ」
「結構よ。私はあんたみたいなのに、もてたいとは思ってませんから」
その言葉は真実である。
私は山下のような男子に好かれたいなんて思った事など、爪の先1mmほどもない。
いえ、このクラスの男子全てを見ても、好かれたいと思うような男子はいやしない。
そんな私と山下を置き去りにして、容子はノートを受け取ると、さっさと自分の机に向かって行った。