私のお兄ちゃん
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私はその時まで、一目ぼれなんて事は無いと思っていた。何の根拠も無かったけど、恋とはある時ふと気付くと、その人の事が気になって気になって仕方ない存在になっていて、私はあの人の事が好きなんじゃないのだろうか、と言うようになるものだと思っていた。
もっとも、お兄ちゃん以上の男の人なんて、いないんじゃないかとも思っていたけど。
ダイニングに面した窓からは朝の日差しが差し込み、部屋の中を清々しい光で満たしている。
ダイニングテーブルに向かう私の手にはマーガリンとジャムが塗られた食パン 半きれがあって、目の前のテーブルの上には温かそうに湯気を上らせたミルクティーが置かれていた。
そのさらに前には、私のお兄ちゃん 優斗が口をもぐもぐと動かして朝ごはんを食べている。
このお兄ちゃんは私の自慢のお兄ちゃん。
きりりとした知性を感じさせる目。それは伊達じゃない。何しろ、この国で一、二を争う東都大学生だ。
通った鼻筋、今は動いているけど、引き締まった口元。はっきり言って、イケメンだ。
「ねぇ。お兄ちゃん」
私がそう言うと、うん? と言った表情で、お兄ちゃんは私を見た。
「ヨーグルトも食べたいなぁ」
そう言うと、お兄ちゃんは「困った奴だなぁ」と言う感じの表情を浮かべたあと、そのまま立ち上がり、冷蔵庫に向かい、冷蔵庫のドアを開けた。
「りんご、桃、ナタデココ。どれ?」
冷蔵庫の中を覗き込みながら、お兄ちゃんが言った。
「うーん。今日はナタデココ気分かな」
私がそう言うと、お兄ちゃんはナタデココが入ったヨーグルトを手に、戻って来た。
「うん」
そう言って、お兄ちゃんは私にヨーグルトを差し出した。
「ありがとう、お兄ちゃん。
やっぱお兄ちゃんがサイコーだよ。大好き、お兄ちゃん」
私はそう言って、にこにこ顔でヨーグルトを受け取った。
「何と言っても、お兄ちゃんは優しいのだ! 頭がよく、イケメンで、優しいなんて、最強よ。
こんなお兄ちゃん以上の男子なんて、いる訳がない」
私はいつだって、そう思っている。
それだけに、「お兄ちゃん、大好き」と言うのは私の本当の気持ち。
そんなお兄ちゃんに対して、私は?
お兄ちゃんが卒業した高校に進学して、高1。学年での成績も上位。
「お兄ちゃんのように、トップとまではいかないけど、まあつり合いがとれるレベル?」 と、私は自分では納得している。
でも、自分自身のかわいさには疑問がいっぱい。真面目な性格が手伝って、地味すぎる。そんな事、自分でも分かっているけど、なおせやしない。
でも、他の男子にもてたい訳じゃないから、かわいさなんて、関係ない。
こんな自分でも、このままでいい。
私がそんな事を思いながら、にへにへ顔でお兄ちゃんを見つめていると、お兄ちゃんが私に視線を向けた。
「まどか、早く食べないと、遅れるぞ」
「そう言って、私に注意するところも、サイコー」私は心の中で、また少しうっとり。
「はぁい」
私はそう言って、朝ごはんを食べるスピードをアップした。
いつもなら両親がいるのだが、遠方の親戚に不幸があって、今日はいない。それだけに、食べ終わると、食器を洗わなければならない事を考えると、確かに時間が無い。
ちなみに、今日の朝食、ミルクティーに食パン、ハムエッグを作ったのはお兄ちゃん。
「何でもできるお兄ちゃんはサイコー」私の心の中で、お兄ちゃんはますます大きくなるばかり。
片づけくらいは自分がしないと。そんな気持ちで、私は一気に朝食を終わらせた。
「ごちそうさまぁ」
両手を合わせて、そう言うと、立ち上がり、自分の食器をキッチンに運んで行く。
シンクに食器を置くと、もう一度ダイニングに戻り、お兄ちゃんの背後に立った。
「なんだ?」
「お下げしてよろしいでしょうか?」
最後の紅茶を飲みほしたお兄ちゃんに、ちょっと気取ってそう言った。
「ああ。ありがとう」
お兄ちゃんがにこりとしながら、そう言った。
「その笑顔、独り占め。
たとえ、お兄ちゃんがどこかの女の子と付き合ったりしたとしても、簡単にはお兄ちゃんを渡したりなんかしない。
だって、私とお兄ちゃんは16年もの付き合い。そんな最近知り合った子なんかとは、積み重ねたものが違いすぎる」
そんな事を考えながら、お兄ちゃんに笑顔を振りまいて、お兄ちゃんの前に広がる食器を重ねて、キッチンに運び、私は後片付けを終わらせた。