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009:夢だよね

 螺旋階段を登りながら、七海はふと、幼い頃の事を思い出していた。まだ幼かった頃、螺旋階段を怖いと思っていた頃があった。

同じ場所をぐるぐる回って、どこか果てしない遠くに行ってしまうような気がして怖かった。

そして、階段の途中で足がすくんでしまった七海を抱きあげてくれた人。大丈夫、怖くないよ、と泣いている七海の頭を撫でてくれた人の事を思い出す。

「イズキお兄ちゃん・・・」

思ったよりもずっと長い螺旋階段。見上げる先は薄暗く先は見えない。下を見る勇気はなく、七海は不安に駆られていた。恭介と繋いだ手は相変わらずビリビリと痺れるようで、手を放そうとするたびに強い力で握られる。

「七海さん、今、イズキの事をお兄ちゃんと言いましたか?」

「え・・・あっ・・・あの、イズキは小さい頃近所に住んでた幼馴染のお兄ちゃんで・・・」

恭介の視線は心の中を見透かすような鋭いもので、七海は思わず目を逸らせる。

「・・・なる程。そうでしたか。」

恭介は明らかに自分に対して怯えている七海に苦笑し、もう少しですよ、と七海に微笑んで見せた。


 螺旋階段を登りきったところに、扉が一つ。ドアノブは細かな装飾の真鍮製で、見るからに重そうな大きな木の扉だ。

「この扉を開けるのは貴方の仕事です。」

扉の前まで来て、恭介は七海と繋いでいた手を放し、扉を開けるように促した。ドアノブは七海の手には少し大きく、ゆっくりと回すとかちゃりと小さな音をたてた。鍵は掛かっていないようで、そっと押すと微かに軋みながら扉が開く。

「え・・・・ここは・・・?」

開いた扉の先には、見渡す限りの花畑が広がっていた。

「驚きましたか?」

背後から、恭介の声。昨日からいろいろと驚く事ばかりで、驚く事にも慣れてきた。そもそも、全部夢なのかもしれない。

「ここは、私たちの存在を隠すための場所です。結界が張られて外と遮断された世界、と言えば分かりやすいでしょうか?」

恭介は七海の反応を見ながら話を続ける。

「私たちは・・・普通のヒトとは少し違っているんですよ。見た目はヒトと同じですが・・・中身が違っているんです。」

「・・・分かりにくい表現でしたか。ヒトの肉体の中にうっかり入ってしまった別世界の魂、と言えば、理解できますか?」

「うっかり入ってしまった・・・?」

「イメージの問題です。ホラー映画などで、人が何者かに取り付かれたりする事があるでしょう?まぁそんな感じです。」

ホラー映画は見た事ないんだけどな、と思いながらも、イメージは分かる。ってことは、私は死んでて、誰かの中に入ってしまってる・・・?

「・・・やだやだ!そんなのやだっ!」

想像したら、全身に悪寒が走る。死んでいる事にさえ気付かず、誰かの人生を生きているなんて。

「・・・ご安心を。あなたは死んでいないし、誰かの肉体を乗っ取っていると言う事もありませんよ。」

あなたは分かりやすい人ですね、と恭介に微笑まれ、考えていた事を言いあてられた七海は恥ずかしくなって俯いた。

「あくまでイメージの問題です。私たちは人であってヒトでない。それゆえに、私たちの事を欲しがる人間もいれば、消そうとする人間もいるわけです。

・・・そのあたりは、政治的な問題もあるので、追々ご説明しますが・・・、簡単に言えば、私たちには人間にない特殊な力があり、その力を欲しがる人もいれば、目障りに思う人もいる、と。」

「なんだか、アニメの話みたい・・・」

思わず呟いた七海に、そうですね、と恭介は相槌を打った。

「持っている力は人それぞれですが・・・共通して言える事は、この結界の中に入って来ることが出来ると言う事。・・・この店の存在が見えている時点で、貴方は私たちの仲間です。」

仲間、と言う言葉に七海の鼓動が跳ねる。

「・・・・・・・えっ!?ってことは、私、ヘンってことですか?!」

「変・・・かどうかは別として、普通の人間ではない、と言う事は確かですね。」

さっき、拓馬に触れた瞬間に起きた現象は貴方が起こしたものですよ、と言われた七海はハッとする。あれはいったい何だったのだろう。

「あの・・・それで、私の力って、何なんですか?」

七海の問いかけに、恭介は首を横に振る。

「力は、自分で理解し、コントロールしなければならないものなんですよ。だから、私にも貴方の力がどのようなものかは分かりません。」

「理解・・・コントロール・・・」

「そう。そのための場所が、ここです。ここでなら、何をしても外の世界には影響しません。好きなだけ暴れてもらって結構です。」

暴れるって、と七海は心の中で思いつつ、じっと恭介を見つめる。

「・・・残念ながら、私がお伝えできるのはここまでです。いろんな事を試されるといいでしょう。」

恭介はそう言って微笑み、それではまた、と開いたままだった扉から出て行った。

「あ・・・扉が・・・!」

恭介が扉を閉めると、扉が消え、七海は花畑の真ん中に一人取り残された。

「えぇぇぇぇぇぇ・・・」

これって、やっぱり、夢、だよね?

消えてしまった扉のあった場所まで行き、途方に暮れて立ちつくす。

「私は普通じゃなくって、何か変な力があって・・・?」

夢なら早く覚めて欲しい、と七海は思う。力をコントロールしろ、と言われたって何をどうすればいいのか分からない。そもそも、「力」って何なのだろう。

「やっぱり、螺旋階段は嫌い・・・。」

一面の花畑。こんな景色、生まれて初めて見た。色とりどりの花が咲き乱れ、甘くすがすがしい花の香りが鼻腔をくすぐる。どう頑張っても一歩歩く度に足の下に踏みつけてしまう花がそのまま萎れてしまうのが悲しい。

「いろいろ試せって言われても、何をしていいのか、わからないよ・・・」

誰もいない草原に一人になった七海は、ぼんやりと両親が亡くなった日の事を思い出していた。

不思議な力が欲しい、中二病的な事を人生で一度くらいは考え・・・ませんか?

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