005:契約
「そそ、契約。僕と契約しよ?」
にこにこ笑う透の真意がつかめずに、不信感満載の目で透を見る拓馬に救いを求めたが、また目を逸らされて七海は俯いた。
「・・・あぁもう!そんな顔すんなよ!」
しょーがねーな、と拓馬は大げさにため息をついて、透の前で固まっている七海を自分の方へ引き寄せた。
「リーダ・・・カイトさん、あんまりコイツのこといじめんなよ。まだ免疫ないんだから・・・」
もしかして、かばってくれてるの・・・?七海は透と自分の間に入ってくれた拓馬を見上げる。良く見なくてもイケメンな拓馬の横顔は思わず見とれるほどだ。
契約しよう、とか魔法少女かよ、とつっこむ拓馬に、しゅんとする透。年齢に反して拓馬の方がしっかりして見えるのは気のせいだろうか、と七海は思う。
「七海ちゃんは僕よりも拓馬の方がいいんだ?」
悲しそうな瞳で拓馬の肩越しに覗きこむ透に思わず拓馬のジャケットの裾を掴んだ七海に、拓馬は驚いて振り向き、自分を見上げる七海と目が合うと慌てて目を逸らせた。
「だから、あんまり執着すると嫌われるって。カイトさん、今日はそのくらいにしとけよ。」
怯えさせてどうすんだよ、と自分の後ろに隠れている七海を顎で指す。
「だって・・・七海ちゃん可愛いんだもん。」
しゅんとするカイトに背を向けて、拓馬は七海に向き直った。
「おい、七海、お前あんまり隙だらけだとそのうち食われるぞ?気をつけろよ。」
七海って、呼び捨て、と鼓動が跳ねる。
「な、何赤くなってんだよ・・・」
こっちまで照れるじゃねーか、と拓馬は七海から目を逸らせた。
「いいなー、若い者同士いちゃいちゃして、僕は仲間に入れてもらえないんだね・・・。」
「いっ・・・いちゃいちゃなんかしてねーよ!」
まぁいいけど、と透は拗ねたように言い、明日はバイトに来れる?と店長らしい事を口にしながら七海を手招きした。
「はい、講義が終わるのが2時過ぎなので、それ以降なら大丈夫です。」
手招きをされて、透のそばに歩み寄った七海は手帳で講義の時間を確認して答える。
「じゃあ、待ってるからね。」
「!!!」
「はいっ!契約完了致しましたー!」
「なっ、リーダー何やって?!」
嬉々として拍手する透と、フリーズする七海、驚いて声を上げた拓馬。
「何って、契約のキスだけど?問題ある?」
拓馬だってしたじゃないの、とわざとらしい上目づかいをする拓馬に誤解を招くような事言うなと怒る拓馬。
そんなやりとりさえ遠く聞こえる程度に、七海は動揺していた。
キス?キスって何?契約?私、イケメン店長と今、キスした??
「ほら見ろよ!可哀そうに・・・。免疫ないからやめとけって言っただろうが!」
「そんなに怒るなんて・・・さては拓馬・・・七海ちゃんに惚れたな・・・?」
じろり、と探るような視線を投げる透に、拓馬は一瞬言葉を失う。
「勝手な事言ってんなよ!こんなチビ誰が相手にするかっての。」
そう言い捨てて、拓馬は店を出て行き、後には茫然としている七海と楽しそうな透が残される。
「七海ちゃーん!」
茫然としている七海に、諸悪の根源である透は全く悪びれる様子もなく目の前でひらひらと手を振る。
「・・・契約・・・キス・・・?」
「あらら・・本当に免疫ゼロだったの?ってことは、僕が七海ちゃんの最初の・・・」
「・・・違います。」
我に返った七海は透の暴走気味なセリフを遮る。良く理解できない事が、理解できないスピードで起こりすぎて混乱しただけだ、と自分の心を落ち着ける。
「店長!」
「ハイッ!」
「今日は帰ります!」
「・・・・あ、そう、そうだね!もう外は暗いし、送って行くよ。・・・って言うか、店長ってひどいな・・・カイトって呼んでて言ったのにな・・・」
しゅんとする透に、七海は何と言うべきか言葉を見つけられず、黙って店を出ようとしたが、透の腕に拘束された。
「送って行くよ。僕と契約した以上、僕は君を守る義務があるからね。」
突然、透を纏う空気が変わる。周囲を威圧するような、圧倒するような、強いオーラに七海は息をのむ。
「・・・忘れちゃだめだよ。僕と君は契約したんだ。君は僕らの仲間だから、僕は君を守る。大丈夫、そのうち全部解るから。何も心配いらない。」
君を守る、と言う魔法の様な言葉に七海の心拍数が上がる。
透の運転する車の助手席で、七海は幼いころ大好きだった、お姫様が騎士に守られる物語を思い出していた。
店長さんのぶっとび感がちょっと好きな私。
自分で作っているキャラなんですけど(笑)
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