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003:天然なの?


見るからに高級な車に乗せられた七海は、楽しげに鼻歌を歌いながら運転する透の横顔をぼんやりと眺める。

嵐のように起きたいろいろな事に思考がついて行っていない。

「新しいアンティークショップを見に行って、カノンに一目ぼれして、イケメン店長さんに声かけられて、バイトさせてもらえる事になって・・・」

頭の中で起こった事を整理する。

「でも、今のバイトを辞められなくって、、それを言いに言ったら急にイズキが来て、でもイズキは私の事知らないって言うし・・・イケメン店長さんにぎゅってされてドキドキしてたら意地悪そうなイケメンさんが来て・・・」

あのイケメンさんはなんて名前だったっけ、と名前を思い出そうとしたが諦める。

「イズキの事を話そうとしたらイケメン店長さんに拉致られて・・・今に至る?」

「はい、よくできましたー!」

「えっ?!」

突然透が大声を出し、七海は驚いて顔を上げた。

「イケメンって言ってくれるのは嬉しいけど、店長さんはやめてねって言ったのにヒドイ・・・ところで、カノンって誰?」

ちなみに、僕の事はカイトって呼んでって言ったよね、と透は楽しげに言う。

「えっ・・・もしかして私って・・」

ばっちり口に出して言ってたよ、とウインクされて七海は真っ赤になってうつむいた。

「七海ちゃんも天然ちゃんだね。僕とおそろい。」

「おそろい・・・」

絶句している七海に対し、七海ちゃんは可愛いなぁ、と透は運転しながら楽しそうに笑いながら車を停めた。

「さっ、行こうか。」

「でも・・・」

「大丈夫。僕に任せて。七海ちゃんはただ黙って、僕の横にいてくれたらいいから。」

いいね、黙ってるんだよ、と念を押され、七海は黙って頷いた。

別に、何が何でも辞めたいわけではないのにどうしてこうなっているんだろう、と微かな疑問が脳裏をかすめたが続けなければならない理由もないし、いまさら引き返すこともできないならこの人について行こう、と七海は透の後に続いた。

 店の中に入った透は今日のシフトの子に店長さんを呼んでほしいと伝えると、少し不機嫌そうに眉をひそめた。

「ね、七海ちゃんもあの制服、着てたの?」

「え?!あ、はい、そうですよ?私がバイトを始めた時はもっと普通の制服だったんですけど、途中から変わったんです。」

「ふぅん。」

透の言う「あの制服」とはミニスカートのメイド服の事を指しているんだろうな、と七海は思う。今日からこれが制服だ、と言われた時は正直絶句したのを覚えている。

しばらくして、店長が出てくると、透はスッと立ちあがった。

「お忙しいところお時間をとらせて申し訳ございません。七海から聞いたのですが、七海がバイトを辞める事を止める理由をお聞かせ頂きたい。」

少し前までのふんわりした不思議ちゃんの空気は完全に消え、周囲を威圧するような強いオーラに包まれる。物腰は柔らかいのに横にいる七海でさえおもわず身をすくめた。

「え?いや、別に・・・急だったから・・もう少し続けたら、って・・・」

完全に圧倒されている店長に、透は続ける。

「それなら、辞めても構いませんね?」

「七海ちゃんが、それでいいのなら・・・」

そこで私に振る?!と心の中で思うが、黙っていろと念押しされた事を思い出して口をつぐむ。

「七海は辞めたい、と言ったはずだ。俺の大切な七海にこんな格好させやがって。辞めたいと言ってるのを引き留めたのは別の理由でもあったんじゃないのか?」

透の鋭い視線に射抜かれた店長は言葉を探すようにきょろきょろと視線を彷徨わせ、最終的に助けを求めるように七海を見た。

「答えによっては、貴方を社会的に抹殺しますよ。あの制服、この店がきちんと届け出をしているとは思えない。」

「あ・・あの・・」

全く別人のような透に七海はただおろおろと成り行きを見守る。

「俺の七海をどういう目で見てたのか言ってみろよ?」

『俺の、大切な、七海・・・』そのセリフに撃ち抜かれた七海は心が痺れるような感覚を覚えて隣に座る透の横顔を見る。

あわあわと言葉を無くしている店長を鋭く睨んだ透は、もういい、と呆れたようにため息をついた。

「兎に角、七海がバイトを辞める事は承諾してもらう。さっさと書類を持ってこい。」

有無を言わせぬ透の口調に、店長は慌てて事務所に走って行った。

「あ・・あの・・・」

「大丈夫だよ、もうちょっと待ってて。」

にっこり、と笑う透に先刻の鋭い印象はない。イケメン店長・・何者・・?と七海が思っていると、大汗をかきながら契約時の書類を持った店長が戻ってきた。

書類を受け取り、ざっと目を通した透はまぁいいだろう、と呟いた。

「変な気を起すなよ?今後俺たちに関わるような事があったら・・・容赦しない、とだけ言っておこう。・・・七海、もう用は済んだし、行こう。」

「は、はい・・・」

まるで別人のような透に戸惑いながらも七海は透の差し出した手につかまって店を出たのだった。

物語のはじめの、世界観が見えてくるまでの間が好きです。

どんな世界なんだろう、どんな人達に出会えるんだろう、

そう思うのが楽しかったりします。

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