002:新しいおもちゃ?
「・・・バイト、すぐ辞められそうになかったです・・・」
翌日、七海は再びアンティークショップを訪れていた。今のバイト先の店長に辞めたいと申し出たが、ずっといてほしいとなぜか引き留められてしまった。
今のバイトはまだ始めたばかりで、それほど役に立っているとも思えないのに、と言う七海の言葉に、イケメン店長の瞳にふっとある種の感情が閃いた。
「なるほど。」
「何が、なるほど、何ですか?」
「君・・・あ、自己紹介がまだだったね。僕は犬飼 透。カイトって呼んでくれたらいいよ。この店の店長してて、年齢は32歳。まだお兄さんって言ってね。ちなみにこの店は副業で本業は別にあるんだけどそれはまた仲良くなったら話すから、早く仲良くなろうね?」
突っ込みどころ満載の自己紹介に七海が唖然としていると、君の名前は?と破壊的な笑顔を向けられた
「七海・・・藤崎 七海です。すぐそこのK大学の2年生で・・・」
「あ、後は言わなくていいよ。身長は152センチ、体重は40キロ、指輪のサイズは7号だね。あ、もちろん左手薬指のね。」
そう言って透はいたずらっぽくウインクした。
「な・・なんでそんな事・・・」
「当たってた?見たらわかるんだよ。職業病かな」
他にも当てて見せようか?とさぐるようにじっと視線を向けられて恥ずかしくなった七海はもう平気です、と慌てて透の次の言葉をさえぎった。
何だ残念、と大げさに残念がって見せた透だったが、急にまじめな顔になって七海の顔を覗き込んだ。
「でも、今のバイトを辞められない、って言うのは関心しないね。」
ち・・近い・・・。近いです、店長、と心の中で思いながら、七海は思わず一歩後ろに下がった。
「あ・・す、すみません!」
気付かないうちに後ろに来ていた人にぶつかった七海は振り向いて慌てて謝ろうとしてさらに驚いた。
「え・・?・・・イズキ!?」
「・・・?お前、誰?って言うか、透さん、ちょっと可愛い子だからってそんなに顔近づけたら怯えられても当然っすよ。」
か、可愛いとかやめてよ・・と内心照れながらも、七海はもう一度突然現れた背の高いイケメンを見上げた。
「・・・イズキ、だよね?甲斐イズキ。」
「・・お前、どうして俺の名前を知っている?」
すっと鋭くなった瞳。刺すような視線で強く腕を掴まれた七海は恐怖に似た感情を覚える。
「イズキ、女の子に対してそんな態度は関心しないな。七海ちゃんはここでアルバイトすることになってるから、仲良くしてもらわないと僕も困るし。」
そう言ってにこにこしながら透は七海の肩を抱き寄せた。
いろんな事に大混乱している七海は、にこにこしている透と不機嫌そうなイズキを見る。
「店長さんとイズキは知り合いで、イズキは私を知らなくて、私はイズキを知ってて・・・?」
「七海ちゃんって思ってる事を言っちゃうタイプなんだね。可愛いなぁもう。」
そう言ってぎゅっと抱きしめられたところで七海はハッと我に返った。
「あ、あのっ!あの、私!」
「ん?どうかした?」
真っ赤になって慌てる七海をさらにぎゅっと 抱き締めてにっこり笑う透に、七海は言葉を無くしてぱくぱくと口を動かした。
「可愛い金魚ちゃんみたい。」
「き・・・金魚・・・」
「・・・ま、可愛いって事は間違ってないな。リーダー、そろそろその可愛くて可哀そうなおもちゃ、放してあげなよ。」
また出たイケメン、と透の腕に拘束されたまま、七海は店に入ってきたイケメンを見て思う。
がっちりした印象を受けるイズキより少し背が低く、スッとした印象のイケメンは透の腕の中であたふたしている七海に意地悪な視線を向けた。
「リーダーの前で隙みせると、簡単に食べられちまうから気をつけろよ。その感じじゃ男慣れしてなさそうだし、お前、すぐ騙されそうだしな。」
「食べられ・・・」
絶句している七海をよそに、透は来たばかりのイケメンに不満そうな顔をする。
「男慣れしてなさそうだとか、七海ちゃんに失礼な事言っちゃダメ。」
「・・・そこかよ。」
呆れるイズキを軽く無視して透はそれはそうと、とようやく七海を抱きしめていた腕を解いた。
「七海ちゃん、とりあえず、今行っているバイトを辞めてこようか?」
「え・・・?」
「だって、そうしなきゃここで働けないでしょ?それは僕が困るから。」
出た、リーダーの超横暴発言、と呟く声が耳に届く。うん、確かに横暴だ、と七海も思う。
「拓馬、何か言った?」
「や、何も?」
「リーダーって呼んじゃダメ、って言わなかった?」
「・・・そっちかよ・・・」
「店長さんって、天然・・・?」
七海は思わず言ってしまってハッと口をふさぐ。
「うん、よく言われる。七海ちゃんは可愛いから何を言っても大丈夫だからね。でも、店長さんって呼ぶのはやめてほしいなぁ・・・」
傷付いちゃうんだからね、と拗ねて見せるイケメンはそれでもイケメン過ぎて思わず見とれる。
「拓馬、今度その呼び方したら抹殺するからね。」
そう言って透が拓馬を睨む。その視線は少し前まで見せていた優しいまなざしとは異なる鋭いもので、七海は思わず身をすくめた。
「透さん、そのチビが怖がってますよ。」
「ち・・・チビって、イズキ酷いっ!」
「あれ?イズキこの子と知り合い?」
「・・・いや?そう言えば、お前どうして俺の名前知ってるんだよ。」
数分前の会話に戻ってしまった・・・と思いながら七海が口を開こうとした瞬間、透に口をふさがれた。
「・・・むぐっ・・んーー!」
「面白そうな話は後で!とりあえず、バイト辞めに行こうっ!」
そのまま文字通り攫われるようにその場を連れ去られた七海は透の車に乗せられて、バイト先に向かうのだった。
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