祖母について・その3
3月も終わりに近づいたある日、私は自室で某家族アニメを見ながら爆笑していました。
そんなときに突然呼ばれました。渋々1階に下りると、すぐ母親に「おばあちゃんが危篤やから病院行くで」と言われました。
その時に私が思ったことは、「えー、あ●しンち途中やったのに……もうちょい頑張ってくれよおばあちゃん」でした。とりあえずこの時の私を一発殴ってやりたい……いや、いっそのこと顔の形が変わるくらいまでタコ殴りにしてやりたいです。
父親は仕事帰りに病院へ直行するということだったので、私と母親はタクシーを呼んで病院へ行くことにしました(母親は車を持っていなかった上に、凄まじくペーパードライバーだったからです)。
祖母の病室に着くと父親の他に、叔父家族などの親戚たちがずらっと集まっていました。
祖母は相変わらず管をいっぱいつけられた状態で眠っていて、隣には心音が鳴るごとにピッ、ピッ、って波打つアレ(正式名称は分かりません)がありました。
その光景を私はひどく空っぽな気持ちで見ていました。そして漠然と「あぁ、なんか……もうあかんな」と思いました。
ソファに座り、顔を手で覆うと、自然に涙が出てきました。
ピンと張りつめた状況で、やがてピーという甲高い音が聞こえました。「何時何分、ご臨終です」という、ドラマみたいな医者の声も。
顔を上げると、さっきまで波打っていた心音のアレが、これまたドラマのようにまっすぐになっていました。
あ、もう……動いてないんや。
現実味を帯びないその光景に耐えられず、私はまた涙を流し、声を上げて泣きました。
次の日、祖母が帰ってきました。
白い布団に北枕で寝かされた祖母の隣には、ぐるぐるに巻かれた長い線香と少しのお供え物が置かれた、小さな白い机がありました。
祖母に近寄り、ぺたりとその顔に触ってみました。遺体は冷たいと聞いたことがあったから、少しだけ興味があったのです。
うん、冷たい。
ドライアイスが布団に入っているから冷たいのだ、と父親が教えてくれました。
へぇ~、そうなんや。と思いました。
その日は親戚が来る以外には特に何もなく、父親が祖母に付き添って眠りにつきました。
お通夜の日、部屋は見たこともない状態になっていました。
広々とした部屋に深緑のカーペットが敷かれ、お雛様を飾るような大きな仏壇が置かれていました。そこにはろうそく二つと焼香があって、中央には祖母の写真があり、周りにたくさんの菊の花が敷き詰められていました。
亡くなった人に菊をささげるのは当たり前なのですが、私は「まさにおばあちゃんのために作られとるな」と、なんとなく特別な気持ちになりました。何故なら祖母の名前には『菊』という字が入っていたからです。『似たもの~』の『母』の名前は菊乃といいますが、由来はそこから来ています。
大体の準備を整えた後、別の場所に移動されていた祖母を棺に入れる作業を手伝いました。
祖母が入ったのは、目にも鮮やかな水色の棺。私の中で祖母のイメージは紫だったので、ちょっと意外に感じました。けれど水色と合わせられた祖母は、生前よりどこか優しく見えたので、これでもいいかなと思いました。
基本お通夜というのは夜にならないと始まらないので、それから私は制服姿で外出しました。
家の隣には割と大きな川があるのですが、そこで遊んでいた子供に声をかけました。
案の定「凛、何で制服着とん?」と言われたので、「今日ばあちゃんのお通夜やねん!」と明るく言いました。湿った空気にしたくなかったからなのか、それとも何も考えず能天気に発言しただけなのか……なんでかは知りません(自分のことなのに)。
病院で泣いて以来私は、家では一滴も涙をこぼしませんでした。それどころか変にハイテンションになっていました。たぶん病院で頭のネジが5~6本ほど抜けたんでしょうね。まぁ、元々数本抜けてはいたのですが。