第9回:白蛇
8月21日に本文を改訂しました。
ニキ、アラ、オオガラスの3人がさらに進むと、薄暗くて広い場所に着いた。その場所の少し高くなったところに玉座があり、身長4メートルくらいの白蛇人間が座っていた。白蛇人間は顔と身体は白蛇なのだが、人間のように両手両足があった。
「オロチ様、神聖戦士を連れて参りました」とオオガラスが恭しい態度で言った。
「お前、やっぱり」とアラはカラスをにらんだ。カラスは特にこれに反応しなかった。
「神聖戦士よ、よく来た」とオロチは中年男性の威厳のある声で言った。
「オロチよ、頼みがある」とニキが言った。
「言ってみよ」
「地球を覆っている大いなる闇を今すぐ消してほしい」
「それはできぬ」
「なぜだ」
「汝は誤解している。大いなる闇が生まれた原因は人間の悪しき心にある。世界中の人間の悪しき行ないが積み重なって大いなる闇が生まれたのだ。余はそれを目に見えるようにしたに過ぎぬ」
「それは本当か」
「これを見よ」とオロチが言うと、空中にスクリーンが現れ、戦争、テロ、環境破壊、人権抑圧など様々な形で人間がこれまで犯してきた愚行の映像が映し出された。
「人間が生み出したものは人間が消すほかはない」とオロチは言った。
「よくわかった」とニキは言うと、アラの方を見て、「勇、これ以上ここにいても仕方がない。急いで地上に戻ろう。クシタマ」と言った。すると、ニキの右手の中に黄色に輝く玉が現れた。玉から金色の光が差し、この光がニキとアラの体全体を包んだ。そして、2人の姿が消えた。
数秒後、ニキとアラは菊永と桜野が住んでいるマンションの1室に戻った。
「変身解除」と言うと、ニキとアラは菊永と桜野の姿に戻った。
「兄貴、このまま夜が明けなかったら、地球はどうなる?」
「気温が低下していって氷河期になるだろう。寒いだけなら、人間はどうにか適応できるだろうが、植物が光合成をしないから酸素がだんだん減っていく。そのうち呼吸できなくなってしまう。こっちのほうはどうしようもない」
「じゃあ、これからどうする?」
「日巫女からもらった巻物には『青きニキタマと赤きアラタマとがひとつになり光の柱になれば、世救わるる』と書いてある。青いニキタマと赤いアラタマがひとつになるというのは神聖巨人テントウを呼び出すということだろう。だから、光の柱になるということの意味がわかれば何とかなるはずだ」
「日巫女にきいてみれば」
「そうだな」と菊永は言って、左腕の腕輪を通じて日巫女に呼びかけた。
「日巫女、神聖巨人テントウが光の柱になるというのはどういう意味なんだ?」
「わかりません。ただわたしが言えることは、人間の心の中には悪しき闇と善き光があるということです」
「悪しき闇と善き光」と言って、菊永は考え込んだ。
一方、大いなる闇はパリ、ロンドン、リオデジャネイロ、ニューヨークの上空も覆っていた。今や地球全体が大いなる闇に覆われていた。