第5回:黒雨
8月16日にカラスの設定を少し変えました。
数日後の朝、菊永と桜野は公園でランニングをしていた。2人ともタンクトップにハーフパンツという服装だ。2人は走るのをやめ、芝生の上に座って休んだ。
「いい汗かいたな」と菊永が言うと、「体を動かすと、気持ちがいい」と桜野が応じた。すると、菊永の左腕の腕輪から日巫女の声が聞こえた。
「菊永さん、桜野さん、お仕事です。シベリアで黒い雨が降っています。すぐ向かってください」
「了解」と菊永は答えると、桜野のほうを向いて、「勇、行くぞ」と言った。
2人は立ち上がり、腕輪に日の光を当てて、「変身」と言った。2人の腕輪が金色に光り、この金色の光が2人の体全体を包んだ。そして、菊永の姿が青い装甲をまとった神聖戦士ニキに変わり、桜野の姿が同じような赤い装甲をまとった神聖戦士アラに変わった。2人の神聖戦士は空高く舞い上がり、はるか北を目指して飛んで行った。
シベリアへ向かって飛んでいる途中、ニキは左腕の腕輪で日巫女に呼びかけた。
「黒い雨の原因は何なんだ?」
「オオガラスというカラスの化け物です」
「ということは、そいつを何とかすればいいんだな」
「そうです。オオガラスはカラスといっても人間と同じように手足がありますし、人間の言葉を話します。そして、とてもずる賢いのです。用心してください」
「わかった。作戦をよく考えることにしよう」
シベリアのバイカル湖の北西上空に黒い雲が広がり、この雲から黒い雨が地上に降り注いでいた。雨が当たった植物はたちまち枯れてしまった。ニキとアラは黒い雲の上まで上昇した。雲の上は晴れあがっており、2人は前方に身長2メートルくらいのカラスの化け物を見つけた。
「お前がオオガラスか?」とニキが問いかけた。
「その通り。君は?」と少年の声で返事があった。
「俺は神聖戦士ニキ」
「同じくアラ」
「それで、僕に何の用?」
「黒い雨を降らすのをすぐにやめろ。お前ほど頭がいいのなら、地上にどれほど迷惑をかけているのかわかるだろう」とニキが言った。
「いやだ」
「なぜだ」
「人間だって空や海や陸を汚しているじゃないか。なぜ僕だけがやめなきゃいけないのかな」」
「たしかに人間は環境を汚している。だが、これは生きていくために必要なことをしている結果、そうなっているんだ。汚したくて汚しているんじゃない。お前は何のために汚している?」
「人間は傲慢だ。『生きていくために必要なこと』だと。そのせいでどれだけたくさんの生き物が死んでいるのか知っているか。僕は人間にこのことを思い知らせるために人間のすみかを汚してやる」と怒りがこもった口調で言う。
「本当にすまない。許してくれ」
「許さない」
「多くの生き物の苦しみを知っているお前が人間を苦しめるのか」
「うるさい。僕の邪魔をするな」
「仕方がない。勇、やれ!」
アラは腰に下げていた剣を抜くとカラスに斬りかかって行った。カラスは翼から羽根を手裏剣のように飛ばした。アラは飛んできた羽根を剣で払った。ニキが「サキタマ」と言うと、右手の中に緑色に輝く玉が現れた。玉は投網に変わった。ニキはアラのほうに注意がいっているカラスに投網を投げた。投網はカラスの体全体に覆いかぶさった。
「これも想定内」とオオガラスは言うと、その体が大きくなり、投網が破れた。そして、カラスはさらに大きくなり身長がおよそ40メートルになった。アラは果敢にカラスに近づいて行って両手から電気を出してカラスに電流を流した。
「痛くもかゆくもない」とオオガラスは余裕のある態度で言った。
これを見て、ニキが「サキタマ」と言うと、右手の中に緑色に輝く玉が現れた。ニキは玉をカラスの顔をめがけて投げた。玉はカラスの顔の前で破裂して煙幕になった。
「勇、逃げるぞ」とニキが言うと、ニキとアラは全速力でその場から飛び去った。