第3回:変身
真昼の砂浜に菊永と桜野が裸であおむけに寝そべっている。2人は同じデザインの黒いショートボックス型の競泳パンツをはいている。
「やっぱり海はいいな」と菊永が言うと、「俺は兄貴と一緒ならどこでもいい」と桜野が応じる。すると、菊永の左腕の腕輪からあの巫女の声が聞こえてきた。
「菊永さん、桜野さん、お仕事です」
「仕事だって?」と菊永は驚いて体を起こして左腕の腕輪を見た。すると、腕輪にはあの巫女の顔が映っている。
「巫女さん?」と菊永は確かめるような口調で呼びかけた。
「わたしは日巫女。赤道が真っ赤に染まっています。すぐ行ってこれ以上赤潮が広がるのを防いでください」
「急にそんなことを言われても。第一、俺たちに赤潮を止めるような力はない」
「わたしの言う通りにしてくだされば、よろしいのです」
「ちょっとさっきから聞いてれば随分一方的な言い方だな。だいたいなんで俺たちが行かなきゃならないの」と、菊永と同様に体を起こしていた桜野が口をはさんだ。
「あなた方が選ばれたからです」
「それはどういう意味かな」と菊永が落ち着いた口調で日巫女に問う。
「あなた方がこの腕輪をしているのが選ばれた証です。世界を救うために働いてください」
「腕輪が何だ。さっさと消えろ」と桜野が言った。
「こういうことはしたくなかったのですが」と日巫女が言うと、腕輪から桜野の左腕に電流が流れる。桜野は痛みに苦しむ。
「やめてくれ」と菊永が日巫女に頼む。
「では、わたしの言う通りに」
「言う通りにする。勇、お前もそうだな?」
「する」と桜野は苦しみながらやっと答えた。
「わかりました」と日巫女が言うと、桜野の痛みが止まった。
「まず、立ってください」
2人は日巫女に言われた通りにした。
「腕輪に日の光を当てて、『変身』と言ってください」
2人そろってそのようにすると、腕輪が金色に光り、この金色の光が2人の体全体を包んだ。そして、菊永の姿が青い装甲をまとったものに変わり、桜野の姿が同じような赤い装甲をまとったものに変わった。
「これは何だ」と桜野が驚きの声を上げた。
「説明してくれないか」と菊永が日巫女に尋ねる。
「これは世界を守る神聖戦士の姿です。菊永さん、あなたは神聖戦士ニキになったのです。桜野さん、あなたは神聖戦士アラです」
「神聖戦士ニキ」と菊永はゆっくりとつぶやいた。
「神聖戦士よ、ただちに赤道へ向かってください」
「赤道は遠い。どうやって行けばいい?」と菊永が尋ねると、「神聖戦士は空を飛べます」
「どうやって空を飛ぶ?」
「ただ飛びたいと思えばいいのです」
「勇、行くぞ」
ニキがこう言うと、2人の神聖戦士は空高く舞い上がり、はるか南を目指して飛んで行った。