#5・・・実践
「ここはどこだ?」
「え?ここ?ここの名前は私も知らないわよ。」
「? 何で?」
「だって、私が寝たのは森だって言ったでしょう?起きた時には、もう石ころになってたんだから。」
「ふぅん・・・」
もう一度手を見つめる。
寒い。そういえば海の中にいたんだった。
いっつか氷が周りに張るんじゃないか。
こんなことを考えていたら、また手が震えだした。
「う、うわっ!」
「!!」
とりあえず、目をつむる。
手の震えが収まってきた。
目を開いてみると、手がカチコチに凍っていた。
いや、手が氷になっていた、というべきか。動くのだから。
手のひらには、氷をかたどった様な紋章が浮かび上がっていた。
「すごいわね。二つの属性の魔法が使えるなんて。」
「え?これってすごいのか?」
「ええ、普通は一つしか使えないわ。まぁ、あなたは外から来たから、ありえない話ではないけれど。」
「へぇ・・・・」
電気の手を思い浮かべる。手が青く光る。
凍った手を思い浮かべる。手が氷になる。
元の手を思い浮かべる。紋章の柄はなくなったが、枠が残ったまま元の手に戻った。
「こりゃあ面白いな。」
「うん、まぁともあれ、きちんと魔法は使えるようになったわね。」
「おうよ!」
「じゃあ実践といきましょう。」
「え?」
周りを見渡してみると、蜘蛛が三匹ほどいた。
「あいつらとやりましょう。魔法は使う人によって発動の仕方が違うわ。あなたの魔法を見せてちょうだい。」
そう言い、アテナは近くにあった瓦礫の上に登った。
どう使うか、か・・・。
手を雷の手にし、手のひらを相手に向け、電撃を飛ばすイメージをしてみる。
カッ!
「グゲゲゲゲッ!?」
雷が当たり、蜘蛛の体がしびれる。
蜘蛛はその場に倒れ、ピクリとも動かなくなった。
「おぉー!」パチパチ
氷の方も試してみよう。
雷と同じ様なイメージを氷の手の方でしてみる
ピキキキッという音を立てて、蜘蛛の体が固まった。
「おぉー!!」パチパチ
もう一匹の蜘蛛がこっちに飛び掛ってくる。
大きく縦に刃を振りかざしてきた。
この距離で魔法を使ったら自分にも当たるな・・・。
右に飛んでよけ、蜘蛛の懐に飛び込む。
蜘蛛の体を掴んで、勢いよく地面に叩きつける!
ドカァァァン!
こんな音が鳴った。そんなに強くやったつもりじゃなかったが・・・。
後ろを向いてみると、蜘蛛の頭は、完全に、地面に埋まっていた。
「おおー!!!」
作っておいた氷も壊しておこう。
近くにあった大き目の石を手に取り、蜘蛛の氷のほうへ投げつける。
石は氷の頭に当たり、バリンという音を立てて、砕け散った。
「うん、上々の出来ね!」
アテナが瓦礫から降りてくる。
「これなら、世界を巡るって言うのも、無理じゃないかもね。そうだ、エビス、二人で世界を巡ってみない?」
世界を巡る・・・か。
「ん?そういうことを言うってことは、お前ってワープとか出来るのか?」
「モチのロンよ。」
「まぁ、神様ってんだからなぁ・・・。」
・・・話が変わるが、これまでの間、アテナはずっとニヤニヤしていた。
何かあったのだろうか?
そもそも、何でいきなり名前を聞いてきたんだ?
(実はあの時、キスする必要はなかったのよね。まさか私が、人間に一目惚れするなんてね・・・えへへ、絶対エビスと一緒に、世界中を駆け巡ってやる!)