↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

「そういうものなのだ」

作者: をはち
掲載日:2026/10/26

納得という名の麻酔が、ゆっくりと命を削っていく。


この村に越してきてから、毎朝、玄関先に人が立った。


同級生の子供が七人。そして、黒子のような黒い装束に身を包み、顔を完全に隠した大人が二人。


朝靄のなかに、ただ静かに佇んでいる。声も立てず、動かず、ただそこに「いる」だけだ。


「そういうものだ」


誰かがそう言った。あるいは、最初からそう聞かされていたのかもしれない。


奇妙なことに、その短い言葉は、あらゆる疑問を吞み込み、納得させてしまった。僕はもう何も問わなかった。慣れたのだ。


朝、靴を履くとき、彼らの黒い影が視界の端に触れることさえ、日常の一部になった。


翌日、同級生は六人になっていた。


「そういうものだ」と、僕は自分に言い聞かせた。


喉の奥がわずかにざわついたが、すぐに沈んだ。その日の帰り道、夕暮れの道を歩きながら、明日はまた一人減るだろう、と自然に思った。


予感は正確だった。翌朝、玄関に立っていたのは五人だけだった。


黒い装束の大人たちも、やはり二人。変わらない。


「そういうものだ」と、僕は僕に言い聞かせる。声に出さなくても、胸の内側で繰り返すだけで、何かが静かに納得される。


その日、学校の授業は音楽だった。僕はそれが苦手だった。指が正しく動かず、音がずれ、教師の目が冷たく光る。


ペナルティで百四十が加算された。


数字は、黒板に白いチョークで記された。放課後、学校の裏手へ行く。地上には何もない広場が広がっている。


木も草も石もほとんどなく、ただ平らな土が、夕陽を吸って鈍く光っていた。


黒い装束の大人が、地面に指を差す。


その場所を、僕ら五人は一心不乱に掘る。スコップの音が、乾いた土を噛む。


百四十センチ。正確に、その深さまで――


穴が完成すると、僕はそこに横たわる。土が上から盛られていく。冷たく、重い。口と鼻を塞がれないよう、両手で顔を覆う。


意識が飛ばないように、土を吸い込まないように。そうしておけば、暫くは呼吸ができる。


暗い、圧迫された空間のなかで、心臓の音だけが異常に大きく響く。


運良く這い出す者と、そこで尽きる者とが、分かれるのだ。


翌朝、僕は玄関に立つ五人を迎える。黒い装束の大人たちも、相変わらず二人。そして僕は、口減らしのための学校へ向かう。


「そういうものなのだ」


だから、仕方ない。この村では、朝が来るたびに、数が減っていく。


減っていくことが、正しいのだと、誰もが信じている。あるいは、信じさせられている。


玄関先の黒い影は、今日も、明日も、その先も、ただ静かに立ち続けるだろう。


そして僕は、また土の匂いを思い出す。百四十センチの深さ。両手で顔を覆った、あの暗い感触を。


「そういうものなのだ」その言葉だけが、この村のすべてを、優しく、冷酷に、覆い尽くしている。


読んで頂き有り難う御座います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 人数も意思も減らされていく事にも、穴での虐待じみた行為にも疑問が消え、静かに追い詰められてくのにも抵抗なく受け入れてしまう異様な話、引力ありました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。