「そういうものなのだ」
納得という名の麻酔が、ゆっくりと命を削っていく。
この村に越してきてから、毎朝、玄関先に人が立った。
同級生の子供が七人。そして、黒子のような黒い装束に身を包み、顔を完全に隠した大人が二人。
朝靄のなかに、ただ静かに佇んでいる。声も立てず、動かず、ただそこに「いる」だけだ。
「そういうものだ」
誰かがそう言った。あるいは、最初からそう聞かされていたのかもしれない。
奇妙なことに、その短い言葉は、あらゆる疑問を吞み込み、納得させてしまった。僕はもう何も問わなかった。慣れたのだ。
朝、靴を履くとき、彼らの黒い影が視界の端に触れることさえ、日常の一部になった。
翌日、同級生は六人になっていた。
「そういうものだ」と、僕は自分に言い聞かせた。
喉の奥がわずかにざわついたが、すぐに沈んだ。その日の帰り道、夕暮れの道を歩きながら、明日はまた一人減るだろう、と自然に思った。
予感は正確だった。翌朝、玄関に立っていたのは五人だけだった。
黒い装束の大人たちも、やはり二人。変わらない。
「そういうものだ」と、僕は僕に言い聞かせる。声に出さなくても、胸の内側で繰り返すだけで、何かが静かに納得される。
その日、学校の授業は音楽だった。僕はそれが苦手だった。指が正しく動かず、音がずれ、教師の目が冷たく光る。
ペナルティで百四十が加算された。
数字は、黒板に白いチョークで記された。放課後、学校の裏手へ行く。地上には何もない広場が広がっている。
木も草も石もほとんどなく、ただ平らな土が、夕陽を吸って鈍く光っていた。
黒い装束の大人が、地面に指を差す。
その場所を、僕ら五人は一心不乱に掘る。スコップの音が、乾いた土を噛む。
百四十センチ。正確に、その深さまで――
穴が完成すると、僕はそこに横たわる。土が上から盛られていく。冷たく、重い。口と鼻を塞がれないよう、両手で顔を覆う。
意識が飛ばないように、土を吸い込まないように。そうしておけば、暫くは呼吸ができる。
暗い、圧迫された空間のなかで、心臓の音だけが異常に大きく響く。
運良く這い出す者と、そこで尽きる者とが、分かれるのだ。
翌朝、僕は玄関に立つ五人を迎える。黒い装束の大人たちも、相変わらず二人。そして僕は、口減らしのための学校へ向かう。
「そういうものなのだ」
だから、仕方ない。この村では、朝が来るたびに、数が減っていく。
減っていくことが、正しいのだと、誰もが信じている。あるいは、信じさせられている。
玄関先の黒い影は、今日も、明日も、その先も、ただ静かに立ち続けるだろう。
そして僕は、また土の匂いを思い出す。百四十センチの深さ。両手で顔を覆った、あの暗い感触を。
「そういうものなのだ」その言葉だけが、この村のすべてを、優しく、冷酷に、覆い尽くしている。
読んで頂き有り難う御座います。




