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会話の中に

運命の人

作者: parupuntist
掲載日:2026/09/12

Created on Mar.20th.2001

「ただいま。どうしたんだ、息を切らして」

「はぁ、おかえり、あなた、随分と遅かったのね」

「ああ、会議が長引いてな……ん?」

「何?」

「おまえ、随分と服が乱れているじゃないか」

「え?」

「髪もバサバサだし……何だ、このピザの箱は……まさかおまえ」

「まさか何よ」

「とぼけるな! こんな時間にピザの配達か? さっきすれ違ったぞ!」

「だから何だって言うのよ!」

「若者が、オレを見たとたんうつむいて、逃げるように帰った。おまえ!」

「何よ! あたしが何だって言うのよ!」

「おまえ……あいつと!!」

「な――何もないわよ!」

「ああ!? そんなにあのピザ屋がいいのかよ! 確かに、おまえ好みの痩型で長身の優男だからな!」

「うるさいわね! あなたこそ何よ!」

「何だよ!」

「シャツのボタンが! 一つずつズレてるじゃないの!」

「え!?」

「え!? じゃないわよ! そのシャツ、今朝あたしが着せたのよ!?」

「あ……だから何だよ!」

「会議でシャツを脱いだりするの? どんな会社よ!」

「あ……暑かったんだよ!」

「外は大雪じゃない!……これ何? マッチ? 『クラブ・マリリン』ってどこよ?」

「そっ……住所書いてあんだろが!」

「バカよ、あなた! 住所なんて……え?……ちょっと待って」

「何だよ」

「これって……あなた、そこのピザの箱、住所あるから見て」

「何でオレが……」

「いいから見て! 早く」

「わかった、わかったよ、見りゃいんだろ見りゃ……あれ?」

「ね?」

「本当だ……何だこりゃ……どうなってるんだ?」

「おかしいでしょ? ピザ屋とクラブの住所が同じだなんて」

「建物がビルか何かだったら――いやビルじゃなかった」

「なかったって……あなた、やっぱり!」

「ちょっと待てよ! それより、何かヘンだろ?」

「何かって……ミスプリじゃない?」

「……地図あったか?」

「地図?」

「ああ。調べてみるんだ、ここ」

「それならナビにアクセスしてみたら? 最新の地図が見られるじゃない」

「そうだな。どこだっけ?」

「居間よ。そんなことも忘れたの?」

「うるさいな……ああ、あった、これか」

「それよ」

「えーと……お、出たぞ。マッチ取ってくれ」

「あたしが?」

「そうだよ、いいから早くしろ」

「何よ威張って……はい」

「ん……こいつの住所は……ここだ、ほら」

「……本当にここなの」

「そうだよ。間違ってると思うんなら見ろよ、このマッチ」

「……そうね、ここね……でも、どうして?」

「わからない」

「何もないわ」

「ただの空き地だ。地図が古いのか?」

「見て。最終更新が今から一時間前になってるわ。一時間で家がそっくり消えたりするかしら?」

「そんなわけがないよ。ミスじゃないのか、地図の」

「お役所のサイトよ。この前、ニュースで言ってたわ。e‐Mapの誤りは0.001%以下だって」

「だったらその0.001%なんだよ、これが」

「あなた、素直じゃないわね」

「ならどうすんだよ。行ってみるのかよ、この雪の中。電車だってストップしてるんだぜ」

「……歩けばいいのよ」

「はぁ? おまえ……本気で言ってるのか?」

「本気よ! あなただって確かめたくないの? どう考えてもおかしいじゃないの!」

「確かめたいさオレだって! だが見ろよコレ……ここからどれだけ離れてると思ってんだよ!」

「……確かに遠いわよ……でも、このままここでじっとしていろって言うの? イラついて眠れないわ!」

「あのな! おまえ、いいかげん……待てよ……そうだ。おい、このあいだ通販で買ったやつがあるだろ――ほら、何て言ったっけな……」

「……あ。……あれ? あのスノボみたいな?」

「そう、それだ! えー……エアボ! エア・ボードだ!」

「あれが何なのよ?」

「おまえな! まあいい……あれなら雪の上を進めるだろうが。浮いてんだから!」

「あっ……そうね。でも、あれは一枚しかないわ。どっちが使うのよ。あたし?」

「オレだ」

「あたしよ!」

「オレだ!――いや、 ちょっと待て。これじゃ解決にならん」

「じゃあどうするのよ?」

「……要するに二人とも行きたいんだろ? だったら、そうすればいい」

「でも板は一枚よ?」

「だから! オレがおまえを、負ぶって行く」

「バカじゃないの?」

「バカだと!? だったらおまえがオレを負ぶって行けるのかよ!?」

「……そうね……無理だわ……」

「そうだろうが。だからオレがやる」

「……わかったわ。でも……途中で落とさないでよ」

「そこまで信用ない? オレって?」

「そうじゃなくて、あなたが体力的にどうかってことよ」

「……ああ、まかせろよ。絶対におまえを落としたりはしない」

「……わかったわ」

「板は?」

「そこよ。テレビの左」

「これか。意外と大きいな。これなら安定した姿勢を維持できそうだ」

「そうね。……あなた、手袋はしなくていいの?」

「ああ、そうだな……それよりおまえ、コート着ろよ。外はかなり寒い」

「じゃあ、手袋取って、コート着てくるわ」

「ああ。俺は玄関で待ってる」

「わかったわ。すぐ行くから」

「ああ。……あれ、鍵は……玄関にあるじゃないか。ここも屋内だっていうのにかなり冷えるな……」

「お待たせ。これ、手袋よ」

「ありがとう。それなら寒くなさそうだな」

「外へ出ましょう」

「そうだな。うわ……まだ当分やみそうにないな……」

「まったくね……鍵はかけた?」

「かけたよ。じゃあ行こう。そこに立って」

「本当に負ぶって行けるの?」

「行けるさ。初めて逢った時のこと、忘れたのか?」

「まさか。ぷっ、サーカスにでも入れると思ったわ」

「アホ。よっ……おまえ、少し重くなったんじゃないか?」

「……ふふふ、コートのせいよ」

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