9.2人で道具の打ち合わせ開始! 新スキル発動!
第9話「2人で道具の打ち合わせ開始! 新スキル発動!」
「だぁかぁらぁ、もう少し構造が細かく分からねえとなんだよ」
責める、という感じはないのだが、職人ガルド的には「もっと詳しく」と強く言いたいのだ。
今、澪は[ギロチン式爪切り]、[電動バリカン]、[ピンブラシ]の3点の構造を説明しようとしていた。酔いから覚めたガルドに対して。
だが、道具をいくら上手く使えても、作り手ではないから、どうしても分からない構造が出てくる。
(えーん、こんなことになるんなら、もっと道具の構造を勉強すれば良かった)
寝る時間もまともに取れない日々で。
ソーシャルネットワークアプリの中にアイスタグラムという、動画や写真をメインにしたアプリがあるのだが、その中に、「トリミング道具を愛し、誰よりも詳しい道具オタクを自称するグルーマーさん」がいた。
竹田先輩に責められる日々の中で、色んなトリマーさん、グルーマーさんを見ては憧れる気持ちになり、勇気をもらうのが日々の癒しだった。
「私ももっとしっかり勉強しておけば…いえ、今からでも頑張ります、頑張って思い出します!!」
澪は拳を握り締め、珍しく強い口調で言った。ここで自分の知識の無さに負けるわけにはいかない、せっかくゼロから一緒に作ってくれるガルドがいるのだ、とにかく脳をフル回転させて思い出さねばーーと、心から思った。
その時、澪の眼前にスキル表示の小窓が突然浮かび上がった。
【トリミングツール理解】レベル1
突然、スキルが天から降ってきた。澪はびっくりして天井を、その向こうの空を見上げる。姿は見えないが、あの虹色の沢山の尾を背負ったもふもふの神様が、見てくれている気がした。
「なんか、今、新しいスキルが使えるようになりました……」
嘘みたいな話だが、本当に目の前にスキル名が浮かんできたのだ。澪がそう報告すると、ガルドは「しめた!」とテーブルを叩いた。
「スキルってのは、ある日突然使えるようになる、そんな事もあるんだ。生まれ持ってるやつの方が少ない。澪はもう何個もスキルがあるのに、また増えたってのか?」
「はい、トリミングの道具理解って。でもレベル1って付いてます」
「なるほどな。それは理解が深まるほど、レベルが上がりそうだ。俺のスキルと似てる。で、どうなんだ?」
澪は黒板のような板に、チョークらしきものを握り締め、[ギロチン式爪切り]の絵を描き始めた。形は丸みを帯びたアルファベットのVみたいな感じ。
・爪を入れるホール(リング状)……ここに犬の爪を差し込む。爪の位置を固定でき、切る位置を安定させる事ができる。
・スライド刃……ホールがある方と別の、動刃のように動かす側の持ち手の先端が、スライド刃になっている。ハンドルを握ると、下から刃がスライドしてくる構造。そのまま爪をスパッと切り落とす。文字通りギロチンに似ている構造。
・支点……ハンドルの交わる中央に支点のネジあり。ここが重要で、手の力を支点で増幅し、刃が強く押し出される仕組み。てこの原理で硬い爪も切れるのだ。
・バネ……ハンドルの間に入っており、切った後自動で開くために付いている。連続作業を楽にするための構造。
・重要ポイント……刃はただの板ではなく、片側が斜めに研がれている。片刃包丁のようになっており、爪を押しながら割らずにスムーズに切断するため、そのような刃の形状になっている。
澪は以上の特徴を、場所を示しながらびっしり書き込んだ。
正直、黒板ボード(と勝手に呼びたい)では、書きづらい。ノートとペンが欲しい。でもこの世界には、どうにも紙が復旧してなさそうな気がする。今後、もし沢山の従魔をトリミングする事になった時、カルテ管理が大変そうだ。
「おおっ、これは分かりやすいな!」
ガルドが黒板ボードを両手に抱え、じっくり読んで納得している。どうやら職人ガルドにもきちんと伝わったようだ。澪はホッと胸を撫で下ろした。
「動かす方を動刃と呼びましょう、動刃とボールのある本体の接続箇所に、ピンなどで、支点を作ればいいと思います」
「なるほどな。んでバネは、動刃の下側と本体の下側を繋げばいい……しっかし、澪、お前の手の大きさに合うコレを作るってことは、相当細かいな」
確かに。ガルドは一流の職人だが、機械工業化された現代とは使える道具も大きく異なるはず。澪のいた世界では、機械化が進んで、人の手より機械で作る工程の方が多かったと思う。大きさ的に、人の手では難しいものもあるかもしれない。
「難しいですかね……」
澪が申し訳なさそうに言うと、ガルドはにやっとして、澪の頭をわしゃわしゃ撫でた。
「心配すんな。俺を誰だと思ってんだ。任せてみろ」
ヴァルクもやってきて、澪の手をぺろりと舐めてくれた。
その温かさが胸に沁みる。もちろんルーチェも立ち上がって、澪の膝に手を乗せてピョンピョン跳ねて応援してくれている。ルーチェの気持ちは、契約をし魔力を繋げ合わせている従魔だからか、とても細やかに伝わってくる。
「これくらいなら、何度か試作してみて、お前の意見も聞いて、割と早くできそうだ。それに、お前にはバッグも用意してやる約束だったな」
ガルドは椅子から立ち上がり、奥の部屋に消えて切った。キッチンらしき部屋とは別の部屋だ。部屋の方からガサガサと何かを探している音がする。
しばらくして、ガルドは1メートルくらいの、クルクル巻かれたなめし革を持ってきた。色が、澪のイメージではなめし革といえば茶色だが、彼が持ってきたのは落ち着いた藍色のものだった。
「よっこらせっと。これはな、ジャイアントスネークのなめし革だ。軽くて柔軟だから、小柄なお前が持つのに丁度いいだろ。ほら、ハサミとコーム、それに魔力ブロアーを出してみてくれ」
澪は言われた通りに、もふもふ神様3点セットをテーブルに並べた。
ガルドはミオの体格をチラリと確認した後、魔力ブロワーを指さす。
「これには、持ち手と肩掛けを作ってやるから、斜めがけにして運ぶのはどうだ?」
大きな鞄を用意するよりも、出し入れの手間が省けて、すぐ使える。ガルドの考えが澪には有り難くて、笑顔で頷いた。
「それから、ハサミとコーム、これは貴重品だし、落としたり盗まれてもいかん。だから蓋つきの収納を使って、それを魔道具にしてやる」
「魔道具!」
ついに来た、と澪は思った。ガルドが魔道具職人であり、鍛冶屋なのは聞いていたけれど、魔道具とはなんぞや? と思いつつ、聞かずにいたのだ。
「魔道具って、魔力を使うと動く、便利な道具みたいなやつなんですか?」
ガルドは頷く。
「昔は、魔法って形で沢山のことができたらしい。が、今は魔法使いは殆ど居なくなってな。俺たちにも少しの魔力はあるが、魔法を使えるほどじゃねえ。代わりにスキル持ちがいて、すごいスキルを持つやつは世界中から重宝されてるよ。……澪、お前もいつかそうなるかもしれない、けどな、お前のことを利用しようとする悪い奴が大勢出てくるはずだ。気を付けんだぞ。で、話が逸れたが、魔道具は、魔力を通すと色んな機能が使える道具のことでな」
ガルドは先ほど出した自分のハサミで、藍色のなめし革を器用にカットしてゆく。あっという間にカットされた、恐らくシザーとコームのための鞄の4枚のなめし革。
普通ならそれを革用針と糸で縫い合わせていくのだろうが、ガルドは違った。
彼の指先が赤く光る。高熱を持つかのように、強い赤い光だ。
(あぁ、これがガルドさんのスキルなんだ)
何が起きているのかは分からなくても、目の前で起きている事が特別な事だと言うことは、澪にも分かった。
ガルドは切った革を丁寧に合わせるとそこを赤く光る指でなぞり出した。なめし革が溶けてゆき、その部分が溶着されてゆく。
「俺のスキルは、何でも溶かす超高熱を出せること、そして、それを使って何でもくっつけることができる。それから、何種類かの魔道具としての機能を持たせることができる。そのための刻印を入れるぞ」
スラスラと4枚の革を溶着すると、鞄の蓋の部分に、指先で絵を描くように何かを描いている。革を溶かさず描いているから、温度の調整ができるようだ。
「ほれ、できたぞ。魔力を注いでみろ」
渡されたら鞄の蓋には、ガルドの工房の看板と同じマークが描いてあった。澪はワクワクしながら、そのマークに自分の魔力を少しずつ流してみる。
ギューっと何かが引っ張られる感じがして、気付いたらマークがほんのり光っていた。
「すこし、魔力を吸い取られただろ、大丈夫か? 気持ち悪くなったり、目眩がしたらちゃんと我慢しないで言えよ。ほら、これでこの鞄を開けたり、持てるのは澪、お前だけになった」
持ち主限定の魔道具にしてくれたらしい。
澪のいた世界はスマホがあって何もかも便利だったけど、この世界の魔道具も負けず劣らず、便利ですごくかっこいい。
「ありがとう、ございます。すごく大切にしますね」
澪は嬉しさで、いっぱいの笑顔を浮かべて鞄を抱きしめた。
「待て待て、お前の背丈に合わせて肩紐を付けてやるから、まだ終わりじゃないぞ」
ガルドは革の端を少し太めの幅で真っすぐに切り、適当な長さで切り終えると、澪に「立ってみろ」と言った。澪は素直に従って立ち上がり、そこにガルドが切った革をあてがう。
長身のガルドがぐっと近づいてきて、彼からはわずかに先程飲んだお酒の匂いがした。澪がそれに気付いたことに気付いたのだろう、ヴァルクがすぅっと二人の間に割り込んで来て、離れろと主に促す。
「なんだよ、ヴァルク。お前、自分の主が誰か分からなくなっちまったのか?」
ヴァルクはまるで人のように、「こいつには呆れた」という顔をして首を1,2度横に振る。
「な! そんな仕草、どこで覚えたんだ」
(できるけど、やらなかったんだ、主を尊重してな)
突然。澪の頭の中で、カルド以外の男性の声がして、澪はびっくりして声の主をきょろきょろ探す。だが、この工房の部屋の中にいるのは、澪とガルド、それにヴァルクとルーチェのみ。
澪がまさか、とヴァルクを見ると、ヴァルクはじっと澪の顔を見て、ウインクしたように見えた。
(前にもルーチェの声が聞こえた気がした時があった……もしかして、従魔が私に心開いた時だけとかに、声が聞こえるのかな……だとしたら、お話しできるようになるかもしれないんだ!)
澪は自分の鼓動が早まるのを感じた。何よりも大好きな犬たち。犬にそっくりな従魔たちと、会話できる日が来るかもしれない。そんな、夢のようなことが、自分に起きてくれるかもしれない。
「あー、澪。いいか? 肩紐の取り付けも終わったぞ」
ヴァルクを見つめている澪に、ガルドが不満そうに話しかけた。
どちらに嫉妬しているのか、もう当の本人も分かっていない。
ガルドは華奢な澪のため、肩紐の革を二重にしてくれてた。柔らかくて、肩当たりが良い。
「魔力ブロアーの持ち手と肩紐も取り付けてやる。ちょっと待ってろ」
ガルドはちらりと窓の外を見る。もう夕暮れだ。「急がないとな」と彼はぽつりと言った。
澪は好奇心から口を開いた。
「夜は、危険があるとか、治安が悪いとか、そういうの、あるんですか?」
「そりゃそうだ。俺とヴァルクが付いていればまず、問題は無いが……別の問題はある」
「治安が悪いとか、危険以外にも何か?」
革をじっと見つめて加工しながら、ガルドは澪の方は見ずに自分の後ろ頭をぽりぽりとかいた。
「夜に出歩く男女は、そういう関係ってみんな見るんだよ。俺は町でもよく知られてるからな、みんなにお前との関係が……」
「そっ、そういう文化、があるんですね?」
澪は急に恥ずかしくなって、ガルドの言葉を遮った。この世界では、年の差がある男女のお付き合いは、良くあることなのかもしれない。澪は男性との付き合い自体、経験がないが。
「私のせいで、町の人に誤解されたり、変な目で見られたら、ごめんなさい」
小さな声で、澪は謝った。
すると、澪の前に、ドン! と魔力ブロアーが置かれる。持ち手にしっかり巻かれた藍色の革、それに肩紐は先程作ってくれたものよりしっかり厚みがある。重さに応じて考えて作ってくれたのだ。
携帯小型ブロワーみたいで、すごくカッコいい、と澪は思った。
「カッコいい……」
小さく、思った事が漏れていたらしい。
「おい、もう宿に送る。行くぞ」
いきなり、ガルドが椅子から立ち上がった。澪に背を向けて、バタバタと出かける準備をし出す。
「えっ、あ、はい」
澪は慌てて鞄を身に着け、魔力ブロアーも肩に掛ける。
澪に背を向けたガルドの耳は、赤く染まっていた。
ガルドのスキル
【超高熱溶接】
指先で溶かせぬものは、この世には無い――と言われているが、神鋼は試したことがない。
何でも溶着できるので便利。本来なら熱に弱いものでも、ある程度なら溶着できる。
【魔道具機能付与】3種類
「所有者限定」ガルドが指定した所有者以外は使えなくなる。
残り2個は、今後、明らかに。




