【証拠はいらない】優しいだけで終わる恋
相談者は、三十前くらいの男だった。
姿勢も服装も、特に悪くない。
ただ、どこか遠慮がちだった。
椅子に座ってから、少し迷う。
「……相談ってほどじゃないんですけど」
「いいよ」
男は頭をかいた。
「女友達は、いるんです」
「うん」
「相談とか、よくされて」
「一緒に飯行ったりもして」
少し笑う。
「でも、付き合うのは、いつも別の男で」
沈黙。
「優しいって言われて終わりです」
指先が机の縁をなぞる。
「俺って」
「男として魅力ないんですかね」
俺は、少しだけ考えてから聞いた。
「その子のこと」
「いつもどう扱ってる?」
男は、きょとんとする。
「え?」
「友達としてか」
「好きな女としてか」
沈黙。
男は言葉を探す。
「……まあ」
「困ってたら話聞きますし」
「送り迎えとかもしますし」
「うん」
「嫌な思いしないようにって」
「気は遣ってます」
俺は頷く。
「その子に」
「嫌なこと言ったことあるか?」
「ないです」
即答だった。
「断ったことは?」
「……ないです」
しばらく沈黙が落ちる。
俺はカップを持ち上げる。
「じゃあ聞くぞ」
男を見る。
「なんで、その子がいいと思った?」
男は少し驚いた顔をする。
「え……?」
「他にも女はいるだろ」
沈黙。
男は視線を落とす。
「……明るくて」
「一緒にいると楽で」
「ちゃんと話、聞いてくれるし」
少し間が空く。
「……かわいいですし」
俺は小さく頷く。
「……だろうな」
男は黙る。
自分で言って、
自分で気づいた顔だった。
しばらくして、小さく息を吐く。
「……俺」
「友達やってただけか」
「さあな」
立ち上がる。
「すみません」
「愚痴聞いてもらって」
「気にすんな」
ドアの前で、男が振り返る。
「俺、何か変えた方がいいんですかね」
俺は肩をすくめる。
「自分で決めろ」
男は苦笑して、帰っていった。
⸻
静かになった事務所で、相棒が言う。
「……優しい人だったね」
俺は、少しだけ考えてから言う。
「お前なら、優しいだけで満足か?」
相棒は首を傾げる。
「う〜ん……」
少し考えて、曖昧に笑う。
俺は窓の外を見る。
「それが答えさ」
それ以上は言わなかった。
だから――
もう、証拠はいらない。




