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【証拠はいらない】優しいだけで終わる恋

作者: Wataru
掲載日:2026/02/16

相談者は、三十前くらいの男だった。


姿勢も服装も、特に悪くない。

ただ、どこか遠慮がちだった。


椅子に座ってから、少し迷う。


「……相談ってほどじゃないんですけど」


「いいよ」


男は頭をかいた。


「女友達は、いるんです」


「うん」


「相談とか、よくされて」

「一緒に飯行ったりもして」


少し笑う。


「でも、付き合うのは、いつも別の男で」


沈黙。


「優しいって言われて終わりです」


指先が机の縁をなぞる。


「俺って」

「男として魅力ないんですかね」


俺は、少しだけ考えてから聞いた。


「その子のこと」

「いつもどう扱ってる?」


男は、きょとんとする。


「え?」


「友達としてか」

「好きな女としてか」


沈黙。


男は言葉を探す。


「……まあ」

「困ってたら話聞きますし」

「送り迎えとかもしますし」


「うん」


「嫌な思いしないようにって」

「気は遣ってます」


俺は頷く。


「その子に」

「嫌なこと言ったことあるか?」


「ないです」


即答だった。


「断ったことは?」


「……ないです」


しばらく沈黙が落ちる。


俺はカップを持ち上げる。


「じゃあ聞くぞ」


男を見る。


「なんで、その子がいいと思った?」


男は少し驚いた顔をする。


「え……?」


「他にも女はいるだろ」


沈黙。


男は視線を落とす。


「……明るくて」

「一緒にいると楽で」

「ちゃんと話、聞いてくれるし」


少し間が空く。


「……かわいいですし」


俺は小さく頷く。


「……だろうな」


男は黙る。


自分で言って、

自分で気づいた顔だった。


しばらくして、小さく息を吐く。


「……俺」

「友達やってただけか」


「さあな」


立ち上がる。


「すみません」

「愚痴聞いてもらって」


「気にすんな」


ドアの前で、男が振り返る。


「俺、何か変えた方がいいんですかね」


俺は肩をすくめる。


「自分で決めろ」


男は苦笑して、帰っていった。



静かになった事務所で、相棒が言う。


「……優しい人だったね」


俺は、少しだけ考えてから言う。


「お前なら、優しいだけで満足か?」


相棒は首を傾げる。


「う〜ん……」


少し考えて、曖昧に笑う。


俺は窓の外を見る。


「それが答えさ」


それ以上は言わなかった。


だから――

もう、証拠はいらない。



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