第七章:秘密の共犯者
真美の風邪が治った後も、二人の関係は、あの夜を境に完全に変わってしまった。
以前は、俺が一方的に真美を「守るべき姪」と見ていたが、今は違う。
真美は、俺の抱える欲望の深さに、完全に気づいている。
そして、それを静かに受け入れ、時には利用しているようだった。
真美の部屋のドアは、以前のように固く閉ざされることはなくなった。
夜、俺がデザインの仕事でリビングにいると、真美は、わざとだらしなく、しかし、どこか誘うような格好で部屋から出てくることが増えた。
例えば、丈の短いTシャツに、薄手のハーフパンツ。
動くたびに、しなやかな素肌が垣間見える。
「喉が渇いちゃって」
そう言って、キッチンで水を飲む真美の背中を、俺は、パソコンのモニター越しに、見つめてしまう。
俺が視線を送っていることを、彼女は知っている。
その証拠に、彼女はゆっくりと、まるで時間が止まったかのように、首を傾げ、俺の視線を受け止めるのだ。
ある週末の昼下がり。
俺がリビングで横になって読書をしていると、真美が、リビングに入ってきた。
「おじさん、テレビ、つけてもいい?」
「ああ、いいぞ」
真美は、リモコンを操作した後、なぜか、俺の足元、ソファの端に、体育座りで座った。
その体勢では、彼女の制服ではない私服のスカートの裾から、僅かに、太ももが見える。
俺は、意識的に視線を本に集中させようとするが、ページに並んだ文字が、まるで意味を持たない記号のように見えた。
「ねえ、おじさん。お父さんのこと、話してもいい?」
真美は、突然、そう切り出した。
「ああ、もちろん」
真美は、兄との思い出を語り始めた。
兄が真美のために奮闘した、不器用で温かい記憶。
俺は、真美の髪を、そっと撫でた。
「兄さんは、真美のことを、本当に愛していたよ」
その瞬間、真美は、ふいに体育座めから膝を崩し、俺の太ももに、頭を乗せてきた。
「……知ってる。だから、おじさんも、私を大事にしてくれるんだよね」
俺の体は、一瞬で硬直した。
真美の髪の毛が、俺の肌をくすぐる。
俺の理性は、もう、ほとんど機能していなかった。
残っているのは、彼女を抱きしめたいという、抗いがたい衝動だけだ。
俺は、真美の細い肩に、手を置いた。
「真美……、俺は、お前の叔父で……」
「血、繋がってないじゃん」
彼女の声は、静かだった。
まるで、真実を告げるかのように。
俺たちの間の、社会的な壁、「叔父と姪」という建前を、この一言で、真美は、完全に破壊した。
「俺は、お前の親代わりなんだ」
俺は、震える声で抵抗した。
真美は、俺の太ももに顔を押し付けたまま、「じゃあ、父さんみたいに、頭、撫でてよ」と、囁いた。
その瞬間、俺は、ついに、一線を越えてしまったのだと悟った。
俺は、姪の哀しみに寄り添うという大義名分のもと、自分の卑しい欲望を叶えようとしている。
俺は、真美の頭を、優しく、何度も何度も撫でた。
それは、父が娘にする仕草ではなく、まるで、愛しい女性を扱うかのような、優しく、熱を帯びた手つきだった。
真美は、満足したように、目を閉じた。
俺たち二人は、血の繋がりがないという真実を盾に、叔父と姪という社会的な境界線を、完全に踏み越えた、秘密の共犯者となった。




