異世界に獣人として転生しました。幸せを求めて生きていきます
前世の私は、日本海沿いの町で育った。けれどそこに「家庭の温かさ」はなかった。父も母も互いに浮気し、家族という形は名ばかり。私は早くに家を飛び出し、働いて生きた。
だからこそ「本当の家族の愛」を、心のどこかで求め続けていたのだと思う。
――そして目覚めたとき、私は異世界で「獣人の赤ちゃん」として生まれ変わっていた。
家は山奥の小さな木造りの家。両親は若くして驚くほどの美形だった。
父は精悍な顔立ちに獣人特有の耳と尾を持ち、母は雪のように白い肌に琥珀色の瞳。兄は整った横顔で剣の稽古をし、姉は絹糸のような髪を揺らしながら花冠を編んでいた。
その末娘として生まれた私は、惜しみない愛情を注がれた。
肩車してくれる父。寝物語を囁いてくれる母。遊びに誘ってくれる兄と姉。
「今度こそ、本当の家族に恵まれたんだ……!」
胸の奥が熱くなる。前世の孤独が、少しずつ癒えていくようだった。
やがて私は五歳になり、「人の姿」と「猫の姿」の両方になれるという特殊な体質だと分かった。
猫になればふわふわの毛並みで姉に抱きしめられ、父からは「我が家の守り神だな」と褒められる。
ただ、食卓に乗って煮込みを舐めたときは、母に笑いながら叱られた。
「猫になってもイタズラは駄目ですよ」
「にゃあ!」
(だって、美味しそうだったんだもん!)
笑い声が絶えない、幸福な毎日だった。
それは、満月の夜だった。
窓を破る音、獣の咆哮、男たちの怒号。獣人狩りがやってきたのだ。
父は剣を抜いて立ち向かい、兄も吠えるようにして敵を押し返す。
母は私を抱きしめ、裏口へ駆けた。
「お願い、猫に……! あなたを守らなきゃ!」
私は必死に小さな子猫の姿に変わる。母はトイレ小屋の隅、藁の山に私を押し込めた。
「静かにして……絶対に、生きて」
最後に触れた母の手は震えていた。
隙間から見たのは、父も兄も姉も鎖で繋がれ、母と共に連れ去られる姿。
「……いやだ」
声にならない声を必死に飲み込む。涙で視界が滲んだ。
残されたのは、五歳の私ただひとり。
人の姿では泣き続けるだけだったから、私は猫となり森へ逃げた。
けれど生きるのは簡単じゃない。
ネズミを捕まえようとして、逆に逃げられる。
(猫なのに……狩りもできないなんて!)
川で水を飲もうとして、頭から落ちた。
(冷たっ! いや、笑ってる場合じゃないでしょ!)
それでも少しずつ学んだ。食べられる木の実。焚き火の起こし方。罠の仕掛け方。
日本で趣味で得た知識が、少しずつ役に立った。
「生きるんだ。家族を助けるために」
獣人狩りの行列は街へ向かったらしい。私は猫となり、屋根の上を渡って街に忍び込んだ。
路地裏で聞いた噂――捕らえられた獣人たちは奴隷として競売にかけられるという。
魚屋に忍び込めば追いかけ回され、パン屋に寄れば子どもに抱き上げられる。
「可愛い猫ちゃん!」
(いやいや、猫扱いで油断されても助からないってば!)
それでも猫姿の利点を悟る。
人間たちに気づかれず、牢屋の隙間から覗き、情報を盗み聞きすることができるのだ。
--- 私はまだ五歳。ひとりで大人を倒すことなんてできない。
だけど、猫の目と耳と足がある。
人にもなれる。
そして何より――二度と失いたくない「美形一家」という宝物がある。
「今度は私が、守るよ。絶対に家族を取り戻す」
月明かりの下、子猫の姿で屋根を駆ける。
まだ小さな足音。けれど心には、誰にも奪えない強い決意が宿っていた。
長編気になる、という方がいたら作ってみたい原案です。