第9話 悠の旅立ち
久しぶりの投稿。読んでくれる人がいるといいな。
翌日、俺は馬車に乗っていた。昨日、店主に冒険者になる為の方法を聞いた俺はすぐさま行動を起こした。曰く、「冒険者になるなら王都を目指せ」との事で、俺はその王都行きの馬車に乗っていたと言う訳だ。
「しかし、到着は1週間後か...」
馬車には俺以外にも人が乗っている。その全員が冒険者志望なのか、甲冑に身を包む者、大剣を担いだ者、荷物の整理をしている者等様々だ。そんな集団を横目に、俺はぼーっとしながら馬車の窓から外を眺めていた。
「王都、か」
王都がどんな所かは全く知らない。しかし、まぁ王都なんて言われるくらいなので相当大きな街なのだろう。新天地での生活に不安はあるが、俺はフィオが見たかった景色まで、したかった経験までしなければいけない。そのためには冒険者になって各地を回らなければいけない。その1歩を踏み出すため、俺は馬車に揺られていた。
「なぁなぁ!ちょっといいか?」
「ん?」
不意に目の前に座っていた男から声をかけられる。肩まで垂らした金髪に人の良さそうな目。格好は俺に似て軽装で、弓を扱うようで、背中の矢筒には無数の矢が入っている。
「あんた1人だろ?俺も1人なんだ」
「良かったら俺と組まないか?他の連中にも声掛けたんだけど、断られちまってな。おっと!すまんすまん!俺はベイン。ベイン・オスカー !あんたの名前は?」
「...近衛悠だ」
一方的に語りかけてくるベインという男に圧倒されながらも名乗り返す。とはいえ、彼の提案は嬉しいものだ。右も左も分からない俺にとっては、仲間は多いに越した事は無い。
「ハルカ。よろしくな。それで、どうだ?組んでくれねぇか?」
「...まぁ、いいけど」
「お!嬉しいね、パーティ成立だ!よろしくなハルカ!」
こうして俺は仲間を手に入れた。それから1週間後、無事俺達は王都に到着した。
王都は、予想通りというか、やはり非常に巨大だった。王都周囲は数十mはあろうかという城壁に囲まれ、数km先からでも見える程で、その壁が目に見える範囲で延々と続いていた。
「これはまた...デカイな...」
「俺も初めて来たがでかいなー!王都!噂には聞いてたがここまでとは!」
王都の大きさに圧倒されながらも、俺達はひとまず冒険者ギルドへと向かうことにした。が、
「ところでハルカ、ギルドってどこにあるんだ?」
「あー、どこなんだろうな?」
王都初心者の2人は道がわからない。そして、迷子になった俺達は、1時間以上王都を彷徨うのだった。
「つ、つかれた...」
「王都広すぎるな!ぜんっぜんわかんねぇや!」
「ともかく、ようやくついたな、冒険者ギルド。...ここであってるよな?」
彷徨い続け、ようやく目的地へと辿り着いた俺達は、疲れも忘れ、意気揚々と元気一杯にギルドへと入る。
「たのもー、冒険者ギルド!」
「よろしくお願いします」
ギルド内は、喧騒に満ちていた。昼間だと言うのに酒を飲みふける男達。何やら揉めている様子の集団。そしてそれを気にもとめない連中。明らかに外と雰囲気が違う。その様子に俺達はまたしても圧倒されてしまう。そしてそんな連中の視線が、調子に乗って意気揚々と扉を開いてしまった俺達に向けられる。
「...もしかして、これやらかしたか?どう思うハルカ」
「そう、みたいだな」
後悔する俺達を横に、ギルド内の冒険者達は珍客へと向かってくる。
「見ない顔だな、新入りか?」
「なんだなんだ、威勢がいいな!」
「どうした?そこに立ってないで、こっち来いよ新入り!」
冒険者達に囲まれ身動きが取れなくなった俺達。するとその人溜まりに更に人が寄ってくる。
「あー、あのー、先輩方?そこをどいていただけると非常に助かるんですがね?」
「進めねぇ...!」
ベインを置いて、1人群がる先輩冒険者を避けながら何とか受付らしき女性の元へとたどり着く。
「いらっしゃいませ。ギルドへようこそ!何か御用ですか?」
この騒動を目の前で見ていたはずにも関わらず受付嬢はあくまで冷静だ。そうでなくては勤まらないということなのだろうか。いや、だったら助けて欲しかったのだが。
「俺ともう1人、あそこで絡まれてるベインっていう男なんだが、冒険者になりたいと思ってる。どうすればいいか教えて欲しいんだけど」
「冒険者志望ですね、少々お待ちください」
そう言って受付嬢は何やら書類を取り出した。
「こちらに署名をお願いします。登録証を作る際に必要ですので」
書類と言っても名前や年齢を書く程度であり、ササッと書き上げ、未だ立ち往生していたベインを呼びつけ彼にも書かせる。
「はい、ありがとうございます。登録証発行までは少々時間がかかりますので、もし良ければ王都の観光などいかがでしょう?」
「観光か、どうする?ベイン」
「いいねぇ観光!俺は好きだぜそういうの。行こうぜ!」
「OK、じゃ行くか」
そんな訳で俺達はギルドを出て、王都の観光をすることになった...のだが。
「お!あれ面白そうだな!ちょっと見てくる!また後でなハルカ!」
「は?おい、ちょまっ」
何やら目を惹かれる物でもあったのか脱兎の如く駆け出したベインに置いていかれ、1人王都をふらついていた。
人、人、人、見渡すばかり人の群れ。元の世界を彷彿とさせる光景にややげんなりしながらも歩く。そして、ある建物が目に止まる。サーカスのテントを思わせる形状だが、数百人は収まるであろうかという巨大さ。明らかに周辺の建造物とは様子が違っていた。しかしそれ以上に異質だっのは空気。
「なんだ、ここ」
そこの空気はまるで負の感情の集合体かと言わんばかりに重く、何も知らない俺でさえ近づくことを躊躇させる物だった。立ち入れず、さりとて目を背ける事も出来ず、俺がその建物を見ていると、人がでてきた。のだが
「いやだ!やだヤダヤダ!離して!お願い...」
「やかましい!大人しくしないか!」
「...は?」
首と手に枷をつけられた少女が中年くらいの男性に無理やり連れていかれようとしている。少女は激しく抵抗しているが、男はそんな彼女の顔に平手打ちを食らわせると引きずるようにして彼女を連れていく。異常なのは、それを咎める者がいないどころか、気にする者もいないことだ。目の前で少女が連れ去られそうになっているという異常事態を目の前にして、この街の住人は誰も関心を示さない。
「ちょ、おいおい何してるんだあんた!その子嫌がってるだろ、離してやれよ」
慌てて男に駆け寄り少女を助け出そうとする。が、そんな俺に非現実が襲いかかる。
「なんだ貴様。ワタシに何の用だ」
「は?いやだから、その子を離してあげろって」
「?おかしな事を言う」
「おかしいって何だよ。いいからその子を!」
「買ったものを何故わざわざ手放さければならないんだ?」
思考が止まる。買った?この子をか?なるほど、空気が違う訳だ。あの中で行われているのは人身売買。つまるところあの建物の正体は、奴隷市場ということだ。
「邪魔だ若造。どいてくれ、せっかく買ったこいつを早く家に連れ帰らなければ」
「いや、いや、助けて助けて...」
「ま、まて...お、おれは.」
足が動かない。上手く声が出ない。少女を助けたいのに、そうする為の行動が取れない。それが間違っていると思いながらも動けない。俺は怖かったのだ。この街が。この異常性が。結局、俺は泣き叫ぶ少女を見送ることしか出来なかった。その後失意のままギルドへと戻った俺は、ベインに心配されながらも、冒険者登録証を受け取り、冒険者への第1歩を踏み出すのだった。
ゆっくり投稿していきます。