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第7話 それは余りにも残酷な結末

「フィオー、そっち準備終わったかー?」

「もう少し!もう少し待ってくださいね!」


 旅に出る事を決めたフィオと俺は、その後ひたすら準備や勉強に勤しんだ。まず死活問題なのが金。いくらフィオの資産があると言っても無限じゃない。


「まーやっぱり、冒険者ってやつが花形かつ安定かねー」


 そこで俺達が目をつけたのが冒険者だった。1度ギルドに登録してしまえば数年に一度のライセンス更新と余程のやらかしが無い限り除名される事もなく、またそのライセンスそのものが身分証代わりになるらしい。そして何よりも特定の拠点を持たず街を転々とする冒険者は決して珍しいものではないとの事で、旅をして安住の地を見つけるという俺達の目的にとても都合がいい。


「さて、概ねこんなもんか?」

「そうですね。衣服、お金、生活に使う物、後は現地調達になるでしょうか」

「そうだな〜」

「それじゃあ、冒険者になる為ギルドへの登録、それから武器とか防具とかもいるのかね。それを買いに行くだけか」


 聞いていた通り冒険者の主な仕事は魔物の討伐に遺跡等の探索。まぁ危険なことは容易に想像が着く。その為優秀な武器を買いに行こう、という訳だ。当然だがフィオは冒険者にしない。彼女にそんな危ない事をさせる訳には行かない。


「本当にいいんですか?ハルカだけに任せてしまって」

「いいのいいの、フィオにそんな危ない事して欲しくない。君はほら、俺が帰ってくるのを待っててよ。それに道中の料理や家事なんかはフィオにお願いしてるし、役割分担さ」

「そう言ってくれるのは嬉しいのですが...」

「それに、前にも言ったろ?俺は荒事に慣れてる。喧嘩だって強いんだぜ?」


 腕を曲げてわざとらしく力こぶを作ってみせる。自慢出来た事では無いが学生時代はそれはもう悪名高い不良少年として好き勝手やったものだ(その結果社会に馴染めずブラック企業に就職する羽目なったのだが...)


「それじゃあ、俺ちょっと行ってくるよ。武器買うついでに色々見てくるから、遅くなると思う。まぁ、出発は明後日の予定だし、ゆっくりしといてよ」

「はい!行ってらっしゃい。ハルカ」

「はいよー」


 屋敷を出て街を歩く。転移直後は右も左も分からなかった街だが、今となっては慣れたものだ。人気のない裏道に入れば、この街に唯一あるらしい武器屋、と言うよりも鍛冶師があるのでそこへ向かう。フィオによると魔物や鉱石等の素材を加工して武具を仕立てる職人達の集まりの鍛冶師ギルドというものがあるしく、この街にもその職人がいるらしいので、尋ねてみることにした。


「あー、あれかな?もしもし、ちょっといいですか?」

「ん?なんだお前、見ない顔だな」


 そこには店主と思わしき老人が1人で座っていた。


「ここって武器とか売ってあります?」

「あぁ、なんだあんた、騎士団、いや冒険者にでもなる気か」

「あ、分かります?」

「普通の人間は武器なんて買わねぇんだよ」

「そらそうか」

「で、何が欲しいんだ?素材は持って無さそうだし、武器なら右、防具なら左を探してくれ」


 店主に促されひとまず武器を見に行く。武器は両手持ちのロングソードや短剣、他にも斧や弓、メイス等多種多様な武器が売られていた。


「思ったより多いな、さて何にするかな」


 武器を一通り手に取ってみるがどれもイマイチしっくりこない。斧や両手剣は重たいので振りにくく、弓は狙えない。強いて言えばメイスなのだがこれはこれでいまいち手に馴染まない。さぁどうしようかと悩んでいたところ。


「ん?なんだこれ」


 そう言って俺が手に取ったのは漆黒のダガーナイフ。なんの装飾もされていないシンプルなナイフだが、なぜだか俺はそれがやけに手に馴染み、何となくこれにしようかなと考えそれを店主に持っていく。


「決まったか。む、お前それは」

「ん?これ、何かあるんですか?」


 ナイフを見て驚いたような表情の店主に疑問が湧き、曰くでもあるのかと聞いてみる。すると、店主の答えは予想外の物だった。


「大したもんじゃないがな。それは俺が去年作り上げた作品でな。何でも斬れるようにと思って、黒曜石、ゼノ鉱石、後は魔獣の魔石を使って作ったんだが」

「なる、ほど?」


 なんちゃら鉱石や魔石、恐らくフィオの行っていた素材というのがそれだろう。


「斬れ味も強度も十分なんだが...その分値が張ってな。このせいで買い手がつかない」

「そんなに高いんです?」

「いやな、ベテランの冒険者は大体自分で入手した素材で自分好みの武具を作るし、新人が買うには高すぎる。そもそも間合いの短い上に機動力を殺す為盾も持てないダガーナイフは新人に扱えない。そんな訳で誰にも買い手がつかないって訳だ」


 なるほど、需要からずれているという事なのだろう。と思いながら値段を見て驚愕した。その額は何と俺が武器防具その他道具用にと準備していた予算の9割を持っていく程。なるほどこれは買い手がつかない訳だ。


「確かにお高い...」


 このナイフを購入すると他に予算を割けなくなる。が、かと言って他の武器を買おうという気にはどうにもなれなかった。数秒考えた後、結局フィオにも相談して明日再度来ることにした。どうせ出発は明後日だし、この後急に売れるという事もあるまい。


「うーん、すみません、ちょっと帰って考えます。また明日来ます!」

「おう、また来てくれ」


 店から出て、屋敷に帰る為来た裏道を戻って帰る。屋敷までは歩いて30分程度、まぁ、。どうせもう戻っては来ないのだから、少しは惜しんでやろうとゆっくり歩く。見慣れた街並み、見慣れた景色、そして見慣れない謎の男。


「ん?なんだ?」


 男に違和感を感じたの理由は簡単だ。真っ黒なローブを来て、顔が見えないようにフードを深く被っている。だが、その目線が俺を捉えていることはだけは察することが出来た。


「何か、ようですか?」


  足を止めて男に声をかける。とてもまともとは言い難い格好をしているあいてだ。片腕を頭の横に上げ頭部を守る。そして何をされてもいいように一挙手一投足見逃すまいと男を見据え、


「ガハッ!?」


 次の瞬間俺は轟音と強烈な衝撃と共に地面に転がっていた。どうやら頭を蹴られたらしい。腕を上げて防御していたことが幸いし、さほどダメージを負ってはいないが、それでもこの状況はまずい。何せ俺は相手に対応することすら出来なかったのだ。今のは偶防御出来ただけで、このままではやられる。


(なんだ、何をされた!?蹴り!?この距離を一瞬で詰めてか!?)


 相手と男の俺との距離は軽く5mはあったはずだ。嫌な予感がする。


(また魔法?そもそもこいつは誰なんだ一体、とにかくこのままじゃまずい!)


 目的は不明だが、こいつが俺を狙って来たのは事実だ。俺は追撃を受けない為、反動をつけて起き上がると、そのまま蹴りを叩き込む。大したダメージにはなっていないが、驚かせることはできたらしい。


「!?...思ったよりも動けるのか。ただの愚鈍では無いらしい...」

「ハッ、打撃には慣れてるんだよ」


 男が口を開く。その口調は淡々としており感情を読み取れない。何とか強がってみるがこのままではどうしようもない。相手の攻撃の対策のしようがない以上どうしようもない。ので、


「誰かぁー!助けくれー!襲われてる!」


 誰もが学校で習う最も簡単な不審者撃退方法。それが大声で助けを呼ぶ、だ。これで相手を撃退出来るとは思えないが、人を呼べればそれでいい。裏道と言っても少し歩けば大通り。全力で叫べば嫌でも人は集まる。


「なんだなんだ?」

「おいどうした!?」

「喧嘩か?」


 ほらこうやって。如何に相手が凄腕だろうと、こうも人に見られている状態で派手な真似は出来ないだろう。


「...しまった、やはりすぐ殺しておくべきだったか...?」

「物騒な野郎だな、そもそもお前何者だ?恨みを買ってた覚えは無いが」


 そして、目の前の男は言ったのだ。衝撃のセリフを、


「お前の...雇い主は愚かだったな...」

「は?」

「まぁいい...俺はここからいなくなる...さらばだ...」

「おい、ちょっ待て!」


 男は消えた。だがそんな事はどうでもいい。あいつは今なんと言った?雇い主。今の俺の仕事は使用人だ。そしてその雇い主は。


「フィオ!」


 彼女が危ない。そう思うよりも先に足が動いていた。来た道を走って屋敷へと戻る。不思議とどれだけ走っても疲れることはなかった。だがおかしい。屋敷に近づくにつれ何故か人が多くなっていく。胸騒ぎが加速する。そして屋敷のそばまで来た時に気づいた。なんだか、空が黒くないか?


「なんだよ...これ...」


 赤、赤、赤。屋敷が真っ赤に染まっていた。赤色の正体は炎だ。屋敷が燃えている。


「なんでだ!?くそ、フィオ、フィオ!」


 考えている暇は無い。俺は燃える屋敷に突っ込んだ。出来るだけ煙を吸い込まないようにしながらフィオを探す。文字通り燃えるようだが怯んでなどいられない。


「フィオ!フィオ!どこだ...どこに...!」


 一心不乱に彼女を探す。熱と煙で朦朧としながらも声を張り上げ何とかフィオを探す。だってこれからだ。彼女はこれから幸せになるんだ。それがこんな形で終わっていいはずがない。


「フィオ...頼む、返事を...」

「ハル...カ...?」

「フィオ!フィオ、良かっ...」


 彼女は壁にもたれかかるようにして座っていた。なぜ彼女は逃げなかったのだろうか。簡単だ、彼女は逃げることが出来なかった。


「嘘 嘘だ、フィオ、フィオ、なんで、どうして!?」


 彼女の服は血で赤く染まっていた。胸元を刃物のようなもので切り裂かれたらしく、最早歩くことすらままならないようだった。


「ごめん...なさい...約束、守れなさそう...」

「喋らなくていい!大丈夫、大丈夫だ、絶対助けてやるから」


 火の周りが早い。このままでは2人揃って焼死体だ。俺はフィオを背に負って屋敷からの脱出を図る。


「ダメ、ハルカだけで...逃げて...」

「できるわけないだろ!君はこれから幸せになるんだ!」

「私は、もうダメだから...」

「もう喋るな!病院に連れていく。全力で捕まっててくれよ!」


 フィオを背負ったまま、彼女を振り落とさない限界で走る。彼女の体に負担をかけない為、出来るだけ彼女を揺らさないように。


「はぁ、はぁ、はぁ...」

「ハルカ...」


 元々走って戻ってきた上に多少なりとも煙を吸い込んでしまっている。今俺の体を動かしていたのはフィオを助けるという一心。根性だけだ。時間は無い。覚悟を決めて炎の中に突撃する。


「ぐ、がァァァァァ!!」

「ハルカ...おねがい、もう...」


 道中崩れ落ちた柱を排除する為右手を降るってそれをどかす。熱と苦痛に顔を歪ませながらも足はとめない。


「もう少し...もう少しだ、」

「ねぇ、ハルカ」

「どう、した?」

「わたし、あなたに会えて良かった...!」

「あぁ、俺もだよ」


 ほらもう出口だ。このまま病院へ行こう。もう大丈夫だ。きっと助かる。きっと...


「ハルカ...」

「ん?」


 もう声を出すことすら億劫だ。それでも彼女の声に返事をする。それだけで彼女がまだ無事な事実に安心しながら。


「あり...がと ぅ...」

「フィオ?」


 もう返事はなかった。俺に背負われた少女が再び口を開く事はなかった。熱が急速に失われ、華奢な体躯はやけに重くなり、直前まで確かに感じていた鼓動も消え失せた。つまりそれは、彼女が、フィオ・ダルタニアの命の灯火が消えたことを意味していた。


「フィオ、フィオ?フィオ、フィオ、なぁ、返事してくれよ。フィオ」

「フィオ、お願い返事を...なんで、どうして、目を開けて、フィオ、お願いだ。返事、返事して...」


 返事は無い。背中の彼女は何も語らない。足が止まり、膝から崩れ落ちる。思わずフィオを落としてしまうが、それでも彼女は何の反応も示してはくれない。


「あ...あぁ、あ、あぁぁぁぁ...」

「嘘、うそだ、」

「フィオ!フィオ!フィオ!」


 絶叫する。返事は無い。物言わぬ彼女に縋り付く。返事は無い。どうしてだ、どうしてこうなった。なんで彼女が死ななければならないんだ。どうして、なんで。その疑問に答えてくれる者は、当然誰もいなかった。


「おい、人だ、人がいるぞ!」

「こっちだ!おい急げ!」

「あの屋敷はもう無理だ!こっちの人間を先に助けるんだ!」


 野次馬が集まりだした。その内何人かはこちらに気づいたようで向かってくる。


「おい兄ちゃん、大丈夫か?」

「フィオ、フィオを...」

「フィオ?あぁ、この嬢ちゃんの事か、うわ、こいつぁひでぇな...」

「フィオを助けてくれ!病院に、病院に連れて行ってくれ頼む、お願い、おねがいだから...」

「兄ちゃん、」


 子供のように縋り付く俺に言い聞かせるようにして、男は言い放つ。その、無情な一言を。


「兄ちゃん、言いにくいんだが、その子はもう、死んでるよ」

「何言って...フィオが?そんな訳ないだろ、いいから、彼女を病院に」

「悪いな、兄ちゃん。せめてお前だけでも助けさせてくれ」


 男は申し訳なさそうに言うと、俺を抱えあげた。勿論、フィオは地面に横たわったままだ。


「まて、フィオは、俺より先にフィオを運んでやってくれよ俺はいい、俺は...」

「...すまん」


「いやだ、まって、フィオ、フィオ、あぁ...ぁぁぁぁ...!」

「あ"あ"あ"あ"あ"あ!!」


 そこで俺の意識は暗転した。

時間がかかってしまいましたが、これで序章は終わりとなります。次回以降から新章スタートの予定です。

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