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第6話 フィオ・ダルタニア

投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。今回はフィオの過去話になります。

「私の、身の上話をしてもいいですか?」


 フィオの過去、気にならないといえば嘘になる。なぜ彼女は家族と別れこの屋敷で暮らしているのか。ミラは、彼女の姉はなぜ実の妹に使えるなんて発言をして、それは果たして何を意味するのか興味はつきない。しかしこれまで彼女は自分の過去を語ろうとはしてこなかった。それは彼女が話したくなかったからだろう。そんな彼女が自らの過去を他でもない俺に教えてくれると言うのだ。それはきっと、俺が聞かなければならないことだろう。だから俺は、彼女を見据え


「あぁ、教えてほしい。」


 そう言った。


 絶句。彼女の過去を聞いた時の俺の顔は恐らくそうなっていただろう。それはフィオの口から語られた彼女の過去は、それ程までに壮絶で、余りにも報われなかったから。


「私はこの国の大貴族、ダルタニア家の3女として生まれました。次女はミラお姉様。その上に長女であるノレアお姉様がいます。でも、私とお姉様達に血の繋がりはないんです。」

「え?」

「私の母は元奴隷でした。それを引き取ったお父様と...」

「それ以上は言わなくていい。大丈夫。大丈夫だから」


 今にも泣きそうなフィオを宥める。奴隷の子。なるほどそれならばミラの態度にも納得がいく。納得できてしまう。既にとても嫌な話だが、彼女の過去はまだ続く。


「奴隷の子である私が受け入れられるハズもありませんでした。私は幼い頃から、いないものとして扱われて来たんです」

「私を愛してくれたのは母だけ。姉様や使用人からは疎まれ蔑まれ、お父様すら私を厄介者扱いしていました。いえ、お父様からすれば私はいらない子供。殺されなかっただけ温情だったとすら」


 巫山戯ている。本当に巫山戯ている、気づけば俺は握りしめた拳から血を流していた。実の親から厄介者扱いだと?殺されない事が温情?何の罪もない少女がなぜそこまでの扱いを受けなくてはいけないんだ。こんなに優しい女の子が!


「ある日母が病に倒れそのまま亡くなると私はその後すぐ逃げるように家を出ました。私が居なくなって困る人はいませんし、何より私は自分の居場所が欲しかった」

「幸い、お父様の財で屋敷を建ててもらい、使用人もお父様が斡旋して下さりました。それに腐っても貴族なのでお金だってありました。そうして私は生まれ育った王都を離れ、この街に来たんです」

「そう、か」

「それが3年前。お父様との最後の会話は、この街の外に出ないようにという忠告でした。それから私はずっとこの街で暮らしています。でも、でもねハルカ。やっと私にも自分の居場所ができたんです!だから大丈夫なんです。お父様にこのお屋敷を頂いてから、私は毎日楽しく暮らせていますから」

「なんで、辛くないのかいや、辛いだろ、苦しいだろ!?なんで...なんで...」

「なんでそれを受け入れてるんだよ!?」


 感情に任せて叫ぶ。フィオに言ってもどうしようもないのだが、それでも叫ばずにはいられなかった。それ程までに彼女の境遇は悲惨で、残酷で、あんまりだったから。


「ハルカは私の為に怒ってくれるんですね」

「当たり前だ!君は何も悪いことをしていないんだ!なんで、君がそんな目に合わなくっちゃ行けないんだよ!君は...」

「ふふふ、やっぱりハルカは優しいんですね。でもいいんです」


 悲しげにフィオが微笑む。そんな訳があるか。いい訳ないだろう。彼女はもっと幸せになっていい。そのはずなんだ。


「それに、もう時間切れ。きっともうすぐミラお姉様が私を連れ戻しに来ます。おそらくは次の当主を決めるべき時期が来たんでしょうね」

「それで、ついて行ったら君はどうなるんだ」

「さぁ、分かりません。私に政治的価値があるとも思えませんし」


 フィオは自分がこれ以上幸せになることを諦めてしまっている。このままでは彼女は家に帰されるだろう。そうなればまた彼女は居場所を無くす。そんなことはさせない。ならどうする?簡単だ。


「なぁ、フィオ、少しいいか?」

「なんですか?」

「旅をしよう。俺たちだけで、宛もなく、誰もいないところまで。そして最後は2人で暮らすんだ」


 俺が居場所を作ってやればいい。俺はフィオに、このどうしようもなく報われない少女に幸せになって欲しいのだ。その為ならなんだってできる。


「ハルカ...本気ですか?私何もできませんよ。それにお姉様達が黙っていません!またハルカがあんな目にあったら...!」

「なーに大丈夫だよ。荒事には慣れるんだ。俺ってばこう見えて喧嘩強いんだぜ?だから」

「諦めないでくれ。君はもっと幸せになっていいんだ。俺は君に幸せになって欲しいんだ。その為なら俺はなんだってする」


 一息で言い切る。自分の心を正直に。スマートでもなく気取ってもいない、恥ずかしいくらいにクサイセリフだ。それでも本心を伝える。今の俺にはそれしか出来ないから。


「私、そんなこと初めて言われました、ハルカったら、本当に変わった人ですね」

「そんなことないさ」


「私、幸せを願ってもいいんですか?」

「あぁ誰よりも幸せになってやろう」

「もう、寂しくありませんか?」

「ああ、俺がいるよ」

「もう...1人で泣かなくても...いいんですか?」

「あぁ、辛かったら俺の傍にいていい」

「もう...もう...」

「あぁ、大丈夫。大丈夫だ。俺を頼ってくれていい」


 フィオを優しく抱きしめる。ついに泣き出してしまった彼女に何も言わずに頭を撫でてやる。華奢な彼女の笑顔を守る為、俺は覚悟を決めるのであった。




 嗚呼、本当に、なんて愚かな決断だったのだろう。結局のところ、これは俺の自己満足の果てであり、どうしようもない俺の過ちだ。俺はこの日を忘れる事はないだろう。くそ、ちくしょう、本当に



 後悔してもしきれない。

悠の後悔とは何なのか。フィオと悠はどうなるのか。次回、物語が動きます。

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