第5話 その後屋敷にて
第5話。今回はファンタジーお馴染みのアレのお話。
フィオの姉、ミラが立ち去った後、俺達は屋敷に戻っていた。
「ハルカ、大丈夫ですか?」
「ありがとう、大丈夫だ。ごめんな、結局助けられちまった」
「そんなことありません!私の方こそ...ありがとうございました。」
フィオが申し訳なさそうに頭を下げる。謝るべきはこちらだと言うのに。あれだけ偉そうに啖呵を切っておきながら、結局は無様に倒れ伏し、何も出来ないどころか彼女を危険に晒しただけ。
「本当ごめん...何も出来なかった」
「いいえ、私はお姉様に怯える事しか出来なかったのに。私の為に怒ってくれたじゃないですか」
「そんなことないよ。ただあの人の物言いに腹が立っただけさ」
フィオが助けてくれなければ俺はあのままミラに潰されていただろう。そもそも何がおこったのかすら分からなかった。
『......』
気まずい沈黙が流れ
「なぁ」
「あの」
『あ』
2人の声が被る。
「あー、先にいいよ」
「いえいえ、ハルカから先に!」
「いやいや、フィオからでいいよ」
等と不毛なやり取りを繰り広げ、結局俺から先に話すことになった。
「じゃあ、お言葉に甘えて、君の姉さんのあの、あれは何なんだ?」
あれとしか言えない。俺を跪かせたあの摩訶不思議な力。不意打ち等でも無い。カラクリがあるようには思えなかった。
「あれは、お姉様が扱う魔法です」
「魔法と来たか...」
魔法。漫画やゲームではお馴染みのワードだが、当然実際に見たのは初めてだ。しかし一言で魔法と言ってもかなら色々と種類がある気がするのだが、果たしてあれはなんの魔法だったのだろう。
「お姉様の得意な魔法は重力操作。簡単に言えば指定した場所にかかる重力を極端に大きくする事ができるんです。」
「なるほど...それでか」
納得がいった。動けない訳だ。むしろよく意識を飛ばさなかったと自分を褒めてやりたくなる。と、ここで当然の疑問が湧く。
「なぁフィオ」
「?なんですか?」
「そもそも魔法ってどうやって使うの?というか魔法って何なの?」
「え、ハルカの周りには魔法を使う人はいなかったんですか!?」
かなり驚かれた。どうやらこちらの世界では魔法は差程珍しくないらしい。仕方がないだろう。21世紀の技術大国日本において魔法なんてものはファンタジーの産物だったのだから。改めて俺が今いる場所は異世界なのだと思い知る。
「前々から思ってましたけど、ハルカって本当に遠い国から来たんですね...」
「ええ。えぇ。それはもう遠い遠い所からね。機会があったらまた話すよ」
遠い所(異世界)、最早物理的距離では測れない領域からの旅行者だ。それはもうとても遠い所ですよ。と、脳内で独り言ちていると、フィオが簡単にではあるが教えてくれた。
「魔法は、空気中に存在するマナを自らの魔力と融合させて、詠唱によってそれに様々な効果を持たせて発動する技術の事です」
「なるほどまた新しいワードが出てきたね?」
「そんなに難しく考えなくてもいいですよ?要するに魔力さえあれば誰でも使えますし、個人差はありますが基本的に魔力は誰の体にもありますので」
そう言ってフィオは少し離れるように俺に言うと、何やら不思議な言葉を紡ぎ始めた。
「大いなる主よ、我が手を照らす光を授けたまえ」
「火炎!」
瞬間フィオの掌に炎が現れる。炎はメラメラと燃えているが、不思議と熱さは感じない。
「これが魔法です。お姉様のように才能ある人や、魔法を極めた人は詠唱をせずとも魔法が使えます。私はその領域まで達していませんが」
「十分すごいと思うけどな」
フィオ曰く、自分には姉のような才能は無く、あのような威力の魔法は使えないとの事だった。
「試しに俺もやってみようかな。フィオ、詠唱教えてくれる?」
「いいですよ!」
ひとまず先程フィオがやっていたように見よう見まねでやってみる。
「えーっと、大いなる主よ、我が手を照らす光を授けたまえ?ファイア!」
しかし何も起こらなかった。その後アレコレ試してみるものの、結局俺は魔法を使えないという結論に至った。
「なんでだー!?」
「ふふふ、ハルカにもできない事があるんですね」
「それは俺を買いかぶりすぎだ。俺はできないことばっかりだよ。魔法も含めてね」
2人でひとしきり笑いあった後、俺はフィオに向き直る。
「まぁ、これで俺の話は終わりだ。次、フィオの話を聞いてもいいかな?」
「わかりました」
フィオは少し不安そうに1呼吸した後
「ハルカに、私の身の上話をしてもいいですか?」
俺をはっきり見据えてそう言った。
中々お話が進まずに申し訳ないです。そろそろ動き出す!予定です。