第2話 社畜の異世界就活
第2話。悠が異世界に行って最初の話です。さぁ悠君の行く末は以下に。
次に目を開いた時、やはりそこは異世界であった。俺のように堅苦しいスーツに身を包んだ者はおらず、道行く人は教科書の挿絵でしか見ないような半袖の古臭いシャツを着ていたりドレスを来たり、又は俺以上に堅苦しい、というより動きにくそうに見える騎士風の鎧や動物の皮で作ったと思われる服。建築物はこれまた見慣れないレンガを使った家に、厳かな雰囲気を漂わせる聖堂を思わせる建物があり、目の前には恐らくこの街の名物だろうと思われる立派な噴水が虹を作っていた。
「ほんとに来ちゃったな。異世界」
目に映る全てが新鮮で、それと同じく周囲の人は俺の事を奇異の目で見てくる。当然の話だが、向こうからすれば俺の方こそ異物で不純物なのだ。
「さて、これからどうしようかな」
寿命を使いきる。天使はそう言っていた。果たして残った寿命があと何年なのか見当もつかないが、俺に出来ることはこの命を無駄にしない事だ。生まれ変われる権利を無意識に蹴ってまで着の身着のままやってきた。きっと、俺自身すら知らない俺の心の奥底にはやりたいことがあるんだろう。
「とりあえず、何も持ってないし、金もないしな。」
「仕事探すか!」
まさか異世界に来てまで就職活動をすることになるとは思っていなかったが、とはいえ金がなければ生活すらままならない。それに、社畜としての生活に慣れきって日々を無駄に浪費していた俺の心は、異世界の仕事という言葉に胸を惹かれていた。
「つ、疲れた...」
1時間後、シンボルであろう噴水の傍には疲れ果ててた俺が座り込んでいた。結果から言うと俺を雇ってくれる仕事など無かった。どこもかしこも人手が足りているか専門職であるか、騎士団のような所にも足を運んだが、見学すら許されず門前払いをくらってしまった。
「おかしいな、就職ってここまで難しかったっけな...」
改めて日本にいた頃は恵まれていたのだと感じる。まぁ俺のかつての職場は決していい企業では無く、社員を道具のように扱い平気で使い潰すような腐った組織であった訳だが。
「思い出すと腹立ってきたな」
かつての上司に言われた嫌味暴言を思い出す。いい感じに脂肪と贅肉を蓄えた禿頭の中年親父達は、それはそれは此方の気持ちも考えずに好き勝手に罵ってくれたものだ。
「誰が根性無くて社会貢献も出来ない落ちこぼれだ」
「まぁ、否定はしないけどさ」
しかしそれに怒るということは、どこか思う所はあったのだ。そして、俺はそれを自覚できてしまうほど自分に期待してはいなかった。と、俺が俯いて回想に浸っていたところであった。
「あら?あなたどうなさいましたの?」
「え?えーと、どちら様?」
声をかけられた。顔を上げるとそこには美少女。胸元まで伸ばした美しいブロンドの髪の毛を垂らし手に日傘を持っている。その服装は周囲の人達とも違う、ドレスに身を包むその姿はまさに可憐で、更に隣には執事と思わしき老人が佇んでいる。
(おいおい誰だ?見た感じいい所のお嬢様って感じだけど、なんでそんな人が俺に声をかける?)
「私を知らないということは、本当に遠くから来たのですね。もしくは世間知らずさんかしら?」
目の前の美少女がどこか嬉しそうに笑う。一方の俺はひたすら困惑しておりそれでも何とか返事を返そうと声を出す。
「え、えぇ、申し訳ないんですが、存じ上げてないですね。」
とりあえず敬語は使っておく。どう見ても俺のような平民とは違うので一先ずは権力に屈して置くことにした。
「まぁ!そんなに畏まらないでもいいんですよ?」
美少女が笑う。その笑顔は気を抜けば勘違いしてしまいそうな程眩しい。なるほどこういうのを魔性というのだろう。
「私はフィオ!フィオ・ダルタニアと申します。あなたのお名前をお聞かせくださるかしら?」
「えっと、俺、いや僕の名前は悠、近衛悠と申します」
「ふふふ、緊張してます?そんなに畏まらなくてもいいのに」
「お友達と話すような感じで接して貰って大丈夫です。むしろ私はそちらの方が嬉しいですよ」
美少女、フィオはなんの邪気も感じさせない表情で話す。こうも言ってくれているので、その言葉に甘えて自然体に戻す。
「あ〜...じゃあ、普通に話すけど、えっとフィオさん?一体俺みたいな不審者になんの用かな?」
「不審者だなんて、私はただ、この辺りでは見かけない黒い髪。それもすごく綺麗な黒髪!私どこか遠い所からのお客様かと思って!」
なるほど。確かに彼女は俺に用があるらしい。まぁそれは好奇心によるものであったが。しかし、そんな彼女が俺の人生に置ける次の分岐点になるのだ。
「それよりも、ハルカはここで何をしていたんですか?」
「いや、まぁ訳ありでして。仕事を探してるんですよね。」
「まぁまぁ!そうなんですか?でしたら私のお屋敷に来ますか?丁度使用人を探していましたの!」
「え?」
やはり人生は何が起こるか分からない。こうして、路頭に迷う筈だった俺の就職先は、どう見ても育ちのいいお嬢様のお屋敷に決定するのだった。
長すぎたかも...もう少し読みやすく出来たらいいな。