第1話 積み重なった偶然の結果
元々は別サイトで少しだけ書いてたやつのリメイクになります。
人生とは偶然の連続である。と説いたのは一体誰だったか。結局人生における分岐点というのもそのような偶然が積み重なった結果であり、それを事前に知ることも、回避する事も人間には出来はしないのだ。
「なんで...こんなことに...!」
全身を襲う激痛と熱、肉の焼ける不快な匂いに包まれがら俺はふらふらする頭で何処かで聞いたそんな事をぼーっと思い返していた。本来であればこの時間はいつものように電車に乗り会社へ向かっている途中だ。いや、確かに電車には乗っていたのだ。それが偶然にもスピードを出しすぎており、偶然にもカーブを曲がりきれずに脱線事故を起こした。というだけで。
「こんなところで死ねるか...!」
そして俺も偶然にも即死を免れて炎上する電車に取り残されていた。と言っても俺もただ生きているだけで、炎と死体に囲まれ床に転がっていた。折角購入したスーツはボロボロで、唯一の自慢とも言える綺麗な黒髪も血と埃、煤で汚れている。挙句脱線の衝撃で全身を激しく強打。更に大量の煙を吸い込んだ事で意識は朦朧としており最早数m這いずるのが精々だった。
「まだだ...まだ俺は、何も!」
しかし奇跡は起こらない。いや、最初に死ななかった事こそが奇跡で、そして終わった。そうして苦しみの中で俺は意識を手放した。
そうして俺、近衛悠は死んだ。ハズだったのだが、
「生きてるのか?」
俺は生きていた。いや、これは生きていると言っていいのだろうか。ボロボロだった体も服も傷1つない綺麗な状態にまで復活しており痛みもない。それどころか体の不調も奇麗さっぱり消えていた。
「ここどこだ?」
しかし俺が最も疑問に思ったのは目覚めた場所だった。まず病院ではない。そこはまるで礼拝堂か神殿を思わせる作りをしており、俺の後ろは壁があり進めない。目の前には長い一本道の廊下がありその奥には広い空間、恐らく部屋があるようだった。
「とりあえず行ってみるかな」
このまま棒立ちしていても何にもならないと、俺はひとまず廊下を進んでみる事にした。不思議と恐怖はなかった。
「ここは、死後の世界ってことなのかな」
ふと頭をよぎったのは自分はもう既に死んでいて、ここは死後の世界だということ。気絶する前の事を考えるとそれが1番考えられる。果たして死後の世界なんてものがあるのかは置いておいて。
幸いにとこの問いは直ぐに回答を貰うことになる。廊下を渡り部屋へと入る。予想通りの大部屋で、中央に大きな台がある以外に何も無い。が、その台がおかしかった。いや、正確にはその台の上にいた者が、だが。
「あ〜。疲れた!やっ〜と終わった〜こんなにいきなり沢山来るなんて聞いてないよー」
見上げるほど大きな台の上に少女がいた。この時点で既に奇妙なのだが特に目を引いたのがその風貌。金髪のロングヘアに青い目なんてものは序の口で、背中には美しい純白の翼、極め付きは頭上の光輪で、何かに吊られるでもなくふわふわと浮いている。その姿は正しく天使。そう形容するしかない少女がそこにいた。
「え」
思わず間抜けな声がもれる。いやまぁ目の前にまんま天使にいきなり遭遇して驚かない人間が果たして何人いるというのか。とはいえ驚いたのは向こうも相応に驚いたらしく
「え!?なんでなんで!?なんでここにいるの!?え、死んだの!?いつ!?」
少女が大声でまくし立てる。その勢いに気圧されながらも何とか言葉を捻り出す。
「いつ死んだのって、やっぱり俺死んでるのか」
「そうだよ!君は死んだの!もしかしなくても、多分あの事故が原因だろうね」
意外なことにショックはなかった。生きている時にはあれほど生にしがみつこうとしていたのだが。まぁ、ここで目を覚ました時点で何となく察しはついていたし、なんだ、死んでしまえば気楽なものだ。なにより人間関係も将来の不安も全部纏めて気にしなくて済む。
「そうか、死んだのか」
「あれ?意外と驚かないんだね。死にたくないって泣いたり、暴れたりする人もいるんだけど」
「別に、未練がない訳じゃないけど、それ以上に苦悩や苦痛が多すぎたからな」
やり残した事はたくさんある。みたいテレビもあったしやりたいゲームもあった。行ってみたかった場所も両手の数では足りない。人生の目標だってなかった訳じゃない。それでも今は安心が勝っている。やはりあの社会で生きるのに俺は向いていなかったのだろう。
「でも、まだ寿命残ってるから使いきって貰うけれど」
「寿命?」
天使が不思議な事を言う。寿命が残っている?
「うん。近衛悠君。今年で22歳。誕生日は11月25日。若い頃は不良としてやんちゃしてたみたいだけどそのせいで就職に失敗して今はブラック企業でサラリーマンとして毎日を過ごしている。それで」
「まてまてまてまて!何色々暴露してるんだ!」
急に人の個人情報をつらつらと読み上げる天使に悲鳴をあげる。
「まぁ、いいや。それで、寿命が残ってるから。それを使い切るまで輪廻の輪には乗れないから。」
「そんな事言われてもな」
どうしろというのか。そもそも俺に何ができるのだろうか。
「というか他の連中は、俺以外にもいたんだろ?そもそもそれなら若くして死んだ人間はみんな転生してるのか?」
「ううん。普通はそれを含めての寿命。でも今回の事故は本来起こらないはずだったんだ。いわゆるイレギュラー。だから今回亡くなった人は寿命が残ってるの」
「君以外の人はみんなそれぞれ転移転生が終わって、やっと休憩って時に君が来たんだよ全く。天使様の時間を取らないで欲しいね」
そんな事を言われても仕方ないだろう。こちらだって好き好んでここに来た訳では無い。とはいえ、寿命がまだ残っていて、使わないと行けないのなら仕方ない。どうせそれしかないのなら。
「わかった、仕方ない。寿命を使い切るまでは頑張ってみるよ」
「助かる!それじゃどうする?このまま転移か、記憶を持ち越して転生か」
「それはもちろん」
転生だ。と言いかけて何故か一瞬言い淀む。それが何かも分からないまま、俺の口から出たのは
「転移だ」
何故か望まないはずの転移の方であった。それがなぜかも分からないまま
「わかった転移ね!」
「あ、ちょ、すまん待ってく」
天使は手際よく何かの準備を済ませた、いや済ませていたようで、言い切る前に意識が薄れ始める。この勢い、多分転生と言っても転移させられていたんじゃないだろうか。
「あ、ギフトあげてない。しまったしまった、どうしよ!?」
何やら不穏な言葉に反論も出来ず、またしても俺の意識は暗転する。
これが俺にとっての分岐点。今日という日まで繰り返した偶然の果て。こうして俺は着の身着のままどこかの世界へ転移することになるのだった。
読みにくかったら申し訳ないです。最後のギフトっていうのはいわゆる特殊能力的なやつだと思ってください。
ゆっくりでも続けて行けたらいいなぁ。