10 【助っ人は瞬間湯沸かし器の二人③】
「さっすがリンネちゃーん!このピリついた空気も、檻も壊してくれる〜!」
「ハッもっと褒めてくれていいぞ!」
壊れた檻の扉を投げ捨て、牢の外に出る朝霧。それを見てキャーと黄色い声を出す愛葉は、この空気を読んで道化になっているように見えた。
「えー!どうやって扉を壊したんですか!?僕たちこの屋敷に入った時から武器や装備がないっていうのに!あっも、もしかして素手ですか!?やっぱり朝霧先輩の娘さんだから、何か必殺技を!?」
「ウッ……そ、そうだ!あたしは大抵の扉なら、この自慢の“怪力”でどうにかしてきた!」
朝霧はそう言うと、俺たちが閉じ込められている檻の扉に、外側から手をかける。肩幅ほどに足を開き、腕に力を込めるとガキン!!と金属の割れる音が鳴った。
見事に牢の扉だけが朝霧の手にある。
いや、普通じゃないだろ。
「す、すごい……」
片瀬は完全に朝霧の手腕へ釘付けになっていた。
これは本当に人間の為せる技か?金属が割れるなんておかしいだろ。
「あ〜……そうだ!コツがあるんじゃなかったけ〜?」
俺をチラ見したからと思えば、愛葉は何か適当なことを言っている。
「は?そんなもんな……まぁなくもないかな!!」
「なんだお前ら、少しおかしいぞ」
いきなり挙動不審になる朝霧は、一向に俺と目を合わせない。その朝霧に問おうとすれば愛葉が間に入ってきた。
「ねぇ!早くツキコちゃんに会いたいからさ〜、早くここから脱出しようよ〜」
「そっそうだ!そうだ!そんであたしに感謝しやがれ!」
なんだコイツら、こういう時に限って息を合わせるなんて。だが早くここから出たいのは俺も一緒だ。コイツらに変な隠し事に付き合ってられるか。
「あ!待て!」
「なんだ今度は?」
俺が檻から出ようと一歩足を前に出した時、朝霧は待ったをかけた。俺は跨ぐはずだった檻の境界線から足を戻す。
「……チカ達と合流できたら、あの話はすんなよ!」
「……」
あの話、赤井の進級についてだ。俺の所為でできた赤井の汚点。
赤井自身が知らない、赤井の汚点だ。
「あんなん聞いたらチカは辞めるだろ。あいつ、良い奴だし……セキニンカン?あるし。お前んとこの隊長がどうなろうと知ったこっちゃねーけど」
「ええ!?」
「今のチカはあたしのバディだから、居なくなったら困んだよ……だからお前のやった事、絶対背負わすなよな。墓場まで持って行け」
今の赤井……。
「片瀬も!」
「……ふぅ、分かったよ」
赤井は本当に弱かったのだろうか、俺は過去の決断に揺らぎが生まれたことをどこかで理解していた。
俺の知っている赤井は武器を持つだけで震えて、怪我をして、何度も負け続けている。そんな人だ。
だが朝霧とバディになってから赤井は、一色隊長との鍛錬で成果を出した。武器を扱えなくても、自分なりの考えを持って作戦を実行した。
俺が勝手に限度を決めていたんだ。きっとできない、勝てない、そう思い込めばずっと赤井は弱者で……俺が助けられる人間でいられる。そんな俺の薄汚い庇護欲が、赤井を閉じ込めていたんだ。
“赤井の成長を妨げていた”。連絡機に言ったあの言葉が、ずしんと肩にのしかかる。
今頃本当の意味で理解するとはな。しかも朝霧によって、か。
「ああ」
多分本人に告白してしまえば、この肩の重さは幾分か軽くなるだろう。それでも。
「墓場まで持っていく」
赤井に背負わせたくない。何も悪くないあいつに、話すべきじゃないんだ。
「も、もちろん僕も言いませんよ!僕だって禁書のこと言われたくないですし、あっ今のは保身で言わないと決めたわけではなくてですね、えーとあのー、若気の至りでやってしまったことじゃないですか!僕のも!!であるなら、まっ赤井さんのも僕のも!!黙っておくべきかなとか考えたんですけれど」
「オイ、こいつここに置いて行こう」
「わーん置いていかないでください!!僕死んじゃいます!」
騒ぎ喚く和泉隊長に力が抜けていく。
……自分が所属する隊に恥を感じるのは初めてだ。
「あっは〜、本当に締まんないね〜?」
「この空気はあたしの所為じゃねぇっつの!」
騒がしさを背景にして、俺は踏み出す。
この檻は過去のしがらみで、俺の過ちだ。その過ちが赤井の為を思った結果だとしても、選択を誤った。彼女を支え導けばよかったが、それが分からなかった。弱者であることに意味を感じていたんだから。
俺はこの檻から出れば、赤井に告白する事なく秘めていく。それがせめてもの償いだ。




