表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クローバーをお前に  作者: 和知つばき
ムソウヤシキ
44/46

10 【助っ人は瞬間湯沸かし器の二人③】

「さっすがリンネちゃーん!このピリついた空気も、檻も壊してくれる〜!」


「ハッもっと褒めてくれていいぞ!」


 壊れた檻の扉を投げ捨て、牢の外に出る朝霧。それを見てキャーと黄色い声を出す愛葉は、この空気を読んで道化になっているように見えた。


「えー!どうやって扉を壊したんですか!?僕たちこの屋敷に入った時から武器や装備がないっていうのに!あっも、もしかして素手ですか!?やっぱり朝霧先輩の娘さんだから、何か必殺技を!?」


「ウッ……そ、そうだ!あたしは大抵の扉なら、この自慢の“怪力”でどうにかしてきた!」


 朝霧はそう言うと、俺たちが閉じ込められている檻の扉に、外側から手をかける。肩幅ほどに足を開き、腕に力を込めるとガキン!!と金属の割れる音が鳴った。

 見事に牢の扉だけが朝霧の手にある。


 いや、普通じゃないだろ。


「す、すごい……」


 片瀬は完全に朝霧の手腕へ釘付けになっていた。

 これは本当に人間の為せる技か?金属が割れるなんておかしいだろ。


「あ〜……そうだ!コツがあるんじゃなかったけ〜?」


 俺をチラ見したからと思えば、愛葉は何か適当なことを言っている。


「は?そんなもんな……まぁなくもないかな!!」


「なんだお前ら、少しおかしいぞ」


 いきなり挙動不審になる朝霧は、一向に俺と目を合わせない。その朝霧に問おうとすれば愛葉が間に入ってきた。


「ねぇ!早くツキコちゃんに会いたいからさ〜、早くここから脱出しようよ〜」


「そっそうだ!そうだ!そんであたしに感謝しやがれ!」


 なんだコイツら、こういう時に限って息を合わせるなんて。だが早くここから出たいのは俺も一緒だ。コイツらに変な隠し事に付き合ってられるか。


「あ!待て!」


「なんだ今度は?」


 俺が檻から出ようと一歩足を前に出した時、朝霧は待ったをかけた。俺は跨ぐはずだった檻の境界線から足を戻す。


「……チカ達と合流できたら、あの話はすんなよ!」


「……」


 あの話、赤井の進級についてだ。俺の所為でできた赤井の汚点。

 赤井自身が知らない、赤井の汚点だ。


「あんなん聞いたらチカは辞めるだろ。あいつ、良い奴だし……セキニンカン?あるし。お前んとこの隊長がどうなろうと知ったこっちゃねーけど」


「ええ!?」


「今のチカはあたしのバディだから、居なくなったら困んだよ……だからお前のやった事、絶対背負わすなよな。墓場まで持って行け」


 今の赤井……。


「片瀬も!」


「……ふぅ、分かったよ」


 赤井は本当に弱かったのだろうか、俺は過去の決断に揺らぎが生まれたことをどこかで理解していた。

 俺の知っている赤井は武器を持つだけで震えて、怪我をして、何度も負け続けている。そんな人だ。


 だが朝霧とバディになってから赤井は、一色隊長との鍛錬で成果を出した。武器を扱えなくても、自分なりの考えを持って作戦を実行した。


 俺が勝手に限度を決めていたんだ。きっとできない、勝てない、そう思い込めばずっと赤井は弱者で……俺が助けられる人間でいられる。そんな俺の薄汚い庇護欲が、赤井を閉じ込めていたんだ。


 “赤井の成長を妨げていた”。連絡機に言ったあの言葉が、ずしんと肩にのしかかる。

 今頃本当の意味で理解するとはな。しかも朝霧(今のバディ)によって、か。


「ああ」


 多分本人に告白してしまえば、この肩の重さは幾分か軽くなるだろう。それでも。


「墓場まで持っていく」


 赤井に背負わせたくない。何も悪くないあいつに、話すべきじゃないんだ。


「も、もちろん僕も言いませんよ!僕だって禁書のこと言われたくないですし、あっ今のは保身で言わないと決めたわけではなくてですね、えーとあのー、若気の至りでやってしまったことじゃないですか!僕のも!!であるなら、まっ赤井さんのも僕のも!!黙っておくべきかなとか考えたんですけれど」


「オイ、こいつここに置いて行こう」


「わーん置いていかないでください!!僕死んじゃいます!」


 騒ぎ喚く和泉隊長に力が抜けていく。

 ……自分が所属する隊に恥を感じるのは初めてだ。


「あっは〜、本当に締まんないね〜?」


「この空気はあたしの所為じゃねぇっつの!」


 騒がしさを背景にして、俺は踏み出す。

 この檻は過去のしがらみで、俺の過ちだ。その過ちが赤井の為を思った結果だとしても、選択を誤った。彼女を支え導けばよかったが、それが分からなかった。弱者であることに意味を感じていたんだから。


 俺はこの檻から出れば、赤井に告白する事なく秘めていく。それがせめてもの償いだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ